台湾の地震はまだまだ被害の全容が見えない部分もありますが、こんな記事がありました。
たった3人で台湾地震救助活動に韓国の人が向かい、だけど言葉が通じず特にすることがなくてスマホをいじってた、という内容です。記事には確かに3人の男性が座ってスマホをいじっている写真がのっています。
韓国の話というのは、失敗すると左からも右からも全包囲攻撃が来るので、極力扱いたくないのですが、どうも「この話はデマではないか」という話があるようなので、おっかなびっくり検証してみたいと思います*1。
さて、この話の元記事はこちらになります。
2月10日20:03の記事で、中時電子報=中国時報が伝えています。中国時報は台湾を代表する大手メディアですね。
中国語は苦手なのですが、タイトルは「しゃーない!韓国の3人の救援隊が言葉が通じず、ただスマホをいじるばかり」です。まあ、日本のと同じ内容そうですね。
書き下しながら読んだ感じ、痛いニュースさんがソースにしてるレコードチャイナと、大して記事内容に差はありません。せいぜい、3人の救援隊の名前が載っていることと、日本の救援隊*2が来てすぐに帰ったみたいなことが書いてあります。これも皮肉っぽい書き方ですね。
なので、どう好意的に解釈しても、少々皮肉めいた書きぶりの記事となっています。おかげでたいそう炎上したのか、翌日2月11日には同じ写真を使って、ちょっと好意的に続報を書いています。
なかなか面白いことに、写真のキャプションが変わっていて「自費で台湾の救助活動に来た3人は無力さに後悔をしている*3」みたいな感じになっています。前の記事の「韓国の救援隊は現場に入ることができず、無気力にただスマホをいじっている*4」に比べると、アツカイに差が出てきましたね。よっぽど怒られたんでしょうか。
記事の内容としては、あんまり役に立てないので、予定を早めて帰る、みたいなことが書いてあります。あら、帰っちゃうんですね。台南市の副市長があいさつにきて謝辞を伝えるとともに、救助活動の人数が十分に足りていることを伝え、3人は予定を変更することを決めたようです。中国時報は「(支援を申し出るという)精神は尊敬に値する」みたいな文*5で締めています。ちょっとほめ殺しな感じもする記事です。
中国時報は全体的にこの韓国の3人の救援隊に否定的な書きぶりですが、はじめから台湾メディアが全てそうなわけではありません。
こちらは2月10日17;51の記事で、「経験豊富な韓国人3人が、自費で救助活動に来た」というようなことがかかれてあります。これは好意的ですね。
動画もついていて、3人のおじさんたちが、建物から救出することの困難さを語っています。注目して欲しいのは、27秒ごろの場面で、どうです?後ろの建物が、あのスマホをいじっている写真と一致しますよね?この救助隊は地震の4日後に来たとあるので、2月10日、その日の映像ということになります。
で、中国時報には「しょぼい」とされた機材も、東森新聞などでは、期待をもって報道されています。
がれきを切る電動のこぎりや、狭いところにも通るカメラ、集音装置みたいなものが紹介されています。ここまでがやってきた2月10日の話。
つまり、この韓国の救援隊が到着した2月10日は、こぞって台湾のメディアが彼らを取材した日でもあります。海外からの救助隊は(恐らく)初めてだったということで、台湾メディアの報道は多少過熱気味になったんでしょう。
ここからは推測になりますが、はじめは好意的に見ていたメディアも、言葉も通じず(動画で時々出てくるお姉さんが通訳か?)、現場にも入れず、ただ最新鋭の機械を持って待ちぼうけをくらっている彼らを見て、徐々に疑問を覚えてくるわけです。「彼らは本当に救助に来たのか?」と。
そうして、10日の20時という、彼らのデビューの日の最後のほうに、中国時報があのスマホの写真つきの記事を出したわけです。ある意味では、多くの報道陣が疑問に思っていたことを、中国時報は記事にしたわけです。
この韓国救援隊は、台湾の「八八水害」という2009年の台風被害のときにも活躍をしています。
おお、ここに出てくるおじさんは、今回の地震のときといっしょじゃありませんか?実はこの水害のときも3人で活動しています(人は全く同じではないかもしれないですけれど)。
今回、「国際救助隊」という形で各種メディアには出ていますが、正確には「1365中央救助隊的安管委員」「韓國國際救助隊中央救助教練」「韓國災害急救單位理事長」という肩書きの3人であり*6、組織だってきているわけではありません。恐らく水害のときもそうだったのでしょう。
「初の海外からの救助隊が来た!」という期待が、実際は個人的なボランティアという立場で来た「それぞれの組織の隊長格」の3人だったのですから、台湾メディアとしては裏切られたような思いもあったのでしょう。いくら経験があったところで、ビル倒壊のような大規模救助の場合には、この人数で手助けできることはありません。よくいえば「ボランティア精神で来た」ということになるのでしょうが、厳しく言えば「情報不足のままやってきた」感はぬぐえません。
しかし、「何もしないでスマホをただいじっていた」という情報だけを作為的に取り出した報道は、さすがにちょっと不公平かな、とも思います。機材を準備したり自費できたり、自分たちでできることはしようとして来ているのですから。まあ、ちゃんと連絡はとれよとは思いますが。
何が言いたいのかというと、韓国に関する報道は、このようにどんな情報にも色眼鏡がかけられてしまうことが、他のニュースにはないややこしさを生んでいるんだと思います。おそらくこの時代、韓国に関する報道でフィルタをかけずに判断することは、もはや不可能だと思います。これはなかなか異常な事態です。
なので、デカルトのようにすべてを疑い、公平にいろいろな意見に疑問を呈していき、そんな自分すらも疑っていくという疑りぶかさが、このおかしな時代には必要なんじゃないだろうかと思うわけです。
*1:こんな荒れまくっているTogetterまとめがありました。
なかなかアレな感じで、「ソースがないからデマだ」という話のようなんですが、これから書くようにソースはあります。と、記事を書きかけていた2月13日の19時ぐらいまでは「デマ」カテゴリで書いてあったのですが、20時ぐらいには書き換えられてしまい、いつのまにかまとめのタイトルが変わっていました
Google検索には「デマ」のころのタイトルが残っています。
*2:これは救援隊ではなく、被災状況把握のための予備調査チームのことと思われます。
【台湾大地震】死者23人に 日本の調査チーム到着に「いいね!」6万超
*3:来自韩国民间的3人搜救小组自费来台救灾,不料却英雄无用武之地,抱憾提早离台
今回の中国語の翻訳はGoogleとWeblioと漢文の知識でがんばりました。いろいろ間違っていたらごめんなさい。
*4:韓國搜救隊在現場不得其門而入,英雄無用武之地,只能在一旁滑手機
*5:但这支搜救小组的精神确实令人钦佩