バミューダトライアングルは未だにオカルト界では絶対の信頼を置かれているようですが、こんなツイートが話題になっています。
これすごいわ。なんかいろんなものが広がるわ。
— tsuyoshi azuma (@azulblue) 2016年8月26日
当然、石炭は積まれたまま発見されたんだよね。
異界だとか異界だとか異界だとか、外なる神だとか、融点だとかTMBだとか、魔界都市だとかそういうの。https://t.co/Lyveir0UKz
ツイート先の元記事によれば*1、1925年にアメリカのチャールストンからキューバに向かい、バミューダトライアングルで遭難した「コトパクシ号」が、2015年5月16日、90年ぶりにキューバ沿岸で発見された、というお話です。ご丁寧にぼろぼろの船の写真が掲載されております。
まあしかしながら、GPSで自宅まで特定されちゃう世の中、90年も船が漂流し続けるというのも眉唾な話です。というわけで調べてみたところ、案の定ガセネタもいいところでしたので、簡単にまとめてみました。
元記事のサイトが怪しい
この「コトパクシ号」の話、初出になっているのは恐らく「World News Dailyreport」というサイトかと思われます。記事に日付がないのですが(ないんですよ!)、コメントの日付から推察するに、遅くとも2015年5月20日のもの。
記事内容はほとんど一緒です。追加の情報と言えば、発見された航海日誌を精査したのが、キューバの何かのエキスパートの「Rodolfo Salvador Cruz」という人物の名前と写真。
しかしながらこの「World News Dailyreport」というサイト、なんとまあ、デタラメな記事を載せることで有名なサイトです。たとえば、現在のHOTニュースには、こんな記事が掲載されています。
日本の捕鯨船の乗組員が、クジラに食べられて16人死亡した、というニュースです。タイトルを読んだだけでデタラメ具合がわかりますが、この記事は2014年ごろに出回ったみたいで、早速否定されていました。
他にも、「ヒラリー候補のサーバーをハッキングした8歳の少年を捜査」とか「2000万年前の巨大ザメを捕獲!」とか、東スポもびっくりの記事ばかり載せています。
そして、サイト自身も、その架空性を認めています。
All characters appearing in the articles in this website – even those based on real people – are entirely fictional
サイト内の記事に出てくる全てのキャラクター(現実の人々がベースの場合も含め)は、完全にフィクションです*2
虚構新聞の英語版ですね。
キューバの専門家は存在しない
まあ、そうは言っても、オオカミ少年の可能性もありますから、記事内容をいくつか検証しましょう。
「World News Dailyreport」では、キューバの専門家、Rodolfo Salvador Cruzという方の写真をのっけていますが、どうもこのおじさんがホンモノかは怪しい。Google検索では引っかからなかったものの、DailyMailにこんな記事がありました。
記事は、第一次大戦時のイギリス海軍の潜水艦の航海日誌の内容の話です。その航海日誌を手に持つのが、乗組員として従軍していた父親の息子、Lee Smaleさんです。お行儀悪いですが、写真をそのまま拝借して、比べてみましょう。
「World News Dailyreport」
「DailyMail」
服も顔も航海日誌もきっとこれは一緒ですね。元の写真は見つけられませんでしたが、どこかの地方紙の当時の画像を拝借したものなんでしょう。残念ですが、Rodolfo Salvador Cruzというキューバの専門家は存在しません。
コトパクシ号の写真
では、ぼろぼろになったコトパクシ号の写真はどこから来たのか。
そもそも、「World News Dailyreport」の載せた写真と、今回のツイートが載せた写真は違います。
「World News Dailyreport」
「ATLAS」
この写真の選定はなかなか見事で、Google画像検索では全く元ネタにヒットしません。加工したか、あまりに古いか、といったところでしょう。
【8/27追記】
Twitterでフォロワーさんからいくつか、写真の出処について教えていただきましたので、追記します。どうもありがとうございます。
「World News Dailyreport」の写真は、映画『未知との遭遇』の船がモンゴルのゴビ砂漠に乗り上げているシーン。この画像を加工したもののようです。ちなみに船は模型の船なんだそうです。
「ATLAS」など、日本のサイトで出回っているぼろぼろの船は、どうもギリシャ籍の放棄された船「Capitan Leonidas号」のようで、チリのメシエ海峡に今でもあるそうです。GoogleEarthでも確認できるそうですよ。
GoogleEarthの付近の写真から、この船を見ることができます。
このギリシャ籍の船は、「Bajo Cotopaxi」という地名の近くにあるので(なので、BBCの「Baja Cotopaxi」はスペルミスかと)、恐らく画像に選ばれたのではないかと推察します。この画像が「コトパクシ号」として貼られ始めたのがスペイン語圏サイトが多かったため、向こうの誰かが冗談半分でつけたのかもしれません。
【追記ここまで】
元々の「コトパクシ号」の写真として紹介されるのが次のものです。
しかしながら、「コトパクシ号」は複数存在していて、どうも上記写真は、1962年に建造された、別の「コトパクシ号」のようです。
この船はちゃんと帰ってきて、1975年に取り壊されています。
ということは、実は、「これがコトパクシ号だ」という写真が、現存しているかどうかは甚だ不明瞭になります。すると、いったいどの船が正しいのか、というのも、これもまた判断に困ることになります。一応、「コトパクシ号が1925年に遭難した」というのは正しいようなのですが*3、その後どうなったとか、そういったことについては、なかなか信じにくいところが多いようです。
今日のまとめ
①元記事である「World News Dailyreport」は、フェイクニュースサイトであり、記事の信憑性はゼロに等しい。
②キューバの専門家の写真は全く別の記事からの盗用である。
③「コトパクシ号」の元々の船体写真は少なくともネット上には存在せず、今回の記事で見られるぼろぼろの船体は全て偽物といっていい。
というわけで、今回はスタンダードなネットロアのお話でした。コトパクシ号の件については、英語圏ではまあまあ真偽検証されているのですが、日本では皆無な感じでした。やっぱり、こういうオカルト系には、つい広めたくなっちゃう魅力みたいなのがあるんでしょうねえ。
*1:異世界を漂流していた!?90年間行方不明だった「コトパクシ号」の謎 | ATLAS
*2:DISCLAIMER – World News Daily Report
*3:Wikipediaによると、NYTの1926年1月7日の記事に出ているそうなんですが、さすがに調べられない。