ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

ダイヤモンドプリンセスに乗船していた英国人は帰国を拒否されていない

こんな記事を目にしました。

 

英ガーディアンは19日、英政府が新型コロナウイルス感染問題で横浜港に停泊中のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号から下船した英人乗客の帰国を拒否する可能性があると伝えた。

英政府、ダイヤモンド・プリンセス乗船の英国民の帰国を拒否:日経ビジネス電子版

 

結論から書けば、これは見出しの誤訳というか、意味のとりづらい日本語で、正確には、「勝手に下船をした場合、避難用の飛行機に乗ることは難しくなる」という外務省の声明であり、見出しにあるように、帰国が拒否されているわけではありません。以下、元記事などを引用しながら検証します。

 

イギリス外務省の声明

イギリスの外務省(FCO)は、プレスリリースとして、2月18日付で以下の声明を出しています。

 

"Given the conditions on board, we are working to organise a flight back to the UK for British nationals on the Diamond Princess as soon as possible.

Our staff are contacting British nationals on board to make the necessary arrangements. We urge all those who have not yet responded to get in touch immediately."

船内の状況を考慮し、我々はダイヤモンドプリンセスに乗船する英国民に対し、すみやかに帰国便を手配する手はずを整えています

省職員が必要な手配のために英国民に連絡をしています。まだ返事をしていない方は、速やかに連絡をとるようお願いいたします。

British nationals on the Diamond Princess: Foreign Office statement - GOV.UK

 

うん、めっちゃ帰国させたがっていますね。

 

ガーディアンの記事の後になるものの、2月20日付では、以下のように述べています。

 

”We’ve organised an evacuation flight for British nationals on board the Diamond Princess cruise ship to depart Tokyo on Friday.

”Details have been sent to those who have registered for the flight. We urge other British nationals still seeking to leave to contact us.

”We will continue to support British nationals who wish to stay in Japan.

金曜日に東京から出発するために、ダイヤモンドプリンセスに我々は避難用の飛行機を計画しています。

この飛行計画に登録した人には詳細を送っています。他の出発をしようとしている英国人に対しても連絡をするよう強く要請します。

我々は日本に留まりたい英国民に対し支援を続けます。

Diamond Princess evacuation flight organised: Foreign Secretary's statement - GOV.UK

 

第一便は金曜出発が確定しているようです。

 

英各紙の内容

では、ガーディアンを代表とした英紙はどのように伝えているのでしょうか。

 

2月19日付でガーディアンは「外務省はコロナウイルス感染のあるクルーズにいる英国人に船から離れないように伝えた(Foreign Office tells Britons not to leave cruise ship struck by coronavirus)」という見出しで伝えています。

 

Japanese authorities said those who had tested negative for the virus were allowed to leave on Wednesday, but the Foreign and Commonwealth Office (FCO) warned that passengers who disembark may not be allowed to board a British evacuation flight scheduled for later this week.

日本の当局は、検査で陰性だった乗客は水曜日に出発することが許可されていると述べたが、外務省(FCO)は、下船した乗客は今週後半に計画されているイギリスの避難用の飛行機には搭乗できないだろうと警告した。

Foreign Office tells Britons not to leave cruise ship struck by coronavirus | World news | The Guardian

 

さらっと読んでしまうと、クルーズに乗っている乗客が避難便に乗れないと勘違いはしそうです。ただ、よく読むと、「水曜日に下船が許可された」けれども、それで「下船してしまった英国民」は飛行機に乗れないよ、という警告だとわかります。ガーディアンは続けて、日本を出国するには「特定の避難用の便に乗る必要がある( they would be allowed out of Japan if they did not board the specific evacuation flight.)」というメッセージをFCOからもらったという女性のコメントも載せています。

 

BBCは「【コロナウイルス】外務省は英国民に船内待機を要請(Coronavirus: Foreign Office tells Britons to stay on cruise ship)」という見出しで報じています。BBCは外務省の「下船したら搭乗できない」という警告について少し解説を加えています。

 

It is understood those who get off may encounter administrative or logistical problems that prevent them from boarding the repatriation flight back to the UK.

下船した場合は、イギリスへの送還の飛行機に搭乗することを妨げる、管理上もしくは運搬上の問題に直面する可能性がある、ということと考えられる。

Coronavirus: Foreign Office tells Britons to stay on cruise ship - BBC News

 

素直に考えて、「administrative or logistical problems」というのは、勝手に下船をされてしまっては、その人がその後感染したかどうかが不明になるのだから管理できなくなる、という意味合いでしょう。

 

テレグラフの見出しはもうちょっとわかりやすく、「コロナウイルス感染のクルーズの乗客は日本での隔離を終えるーただし英国民は下船について警告を受ける(Coronavirus cruise ship passengers leave quarantine in Japan - but Britons warned about disembarking)」としています。

 

The UK Foreign and Commonwealth Office notified British passengers on Tuesday that it would assist them with a flight home. Overnight it cautioned that those who disembarked the ship on Wednesday may not be allowed to fly.

イギリス外務省は、火曜日に英国民の乗客に帰国の便を支援することを通知しました。一夜明け、水曜日に下船した乗客については帰国便の利用が許可されないことを警告しました。

Coronavirus cruise ship passengers leave quarantine in Japan - but Britons warned about disembarking

 

各紙とも、帰国便を利用した英国民は、14日間、イギリス北西に位置するWirralのArrowe Park Hospitalに留め置かれることが報じられています。また、船内で陽性と判明した夫妻やカップルのことも報じています(彼らは帰国便には乗れず、船内にとどまる場合もあるようです)。また、各紙とも岩田先生の動画にはやはり触れていますね。

 

今日のまとめ

①イギリス外務省は今週金曜日に、クルーズ船にとどまっていた英国民向けの帰国便を計画している。

②あくまで「水曜日に下船したクルーズ船の乗客の英国民は、第一便に乗ることができない可能性がある」という警告で、第一便に乗るためには新たな感染拡大を懸念して「船内にとどまること」を推奨しているのであり、帰国自体を拒否されたわけではない。

③帰国後、彼らは14日間、病院で隔離されることになっている。

 

日経ビジネスの記事の見出しは誤解を招くので、早晩こっそり書き換えられるでしょう。というか、この記事、あまりにも短くて、有料記事で続きがあるのかと思いましたがそうでもなさそうであり、このタイミングでなぜ出したのかよくわからない内容ですね。