こんなツイートを目にしました。
本当に首相動静をそのまま流した方がいいのでは。
— 異邦人 (@Narodovlastiye) 2020年2月22日
2月18日「国会に出ず会食」
2月19日「国会にも新型コロナ対策本部にも出ず官邸でフグ堪能」
2月20日「国会にも新型コロナ対策本部にも出ず会食」
2月21日「国会にも新型コロナ対策本部にも出ず会食」
今日「自宅を出て1時間程度で帰宅」
ずいぶん雑なまとめ方だなあと思ったので、首相動静など細かく見てみました。
仕事はしてる
さて、時事通信の首相動静*1を元に、安倍首相の1日をグラフにしてみました。
ちょっと小さくて申し訳ないんですが、
■ 私邸・公邸
■ 閣僚等面会
■ 閣議等会議
■ 表敬
■ 会食
となっています。
オレンジっぽい■は、動静の記載のない時間帯ですので「不明」としています。
さて、大体毎日9時前後に官邸に来ているわけですが、それからはこのオレンジの「不明」が多くなっています。記者は官邸内に入るわけじゃないので、まあ、当たり前ですよね。人の出入りや、周知の表敬や会議などについては記載しますが、それ以外はわからないわけです。
なので、例えばツイート主は18日を「国会に出ず会食」と書いていますが、これは少々意地の悪い書き方で、官邸には来て仕事はしているわけです。ふつうは執務室で仕事をして、政策の実施などの報告を受け指示をしているのでしょう*2。これを「仕事をしていない」と捉えるのは、「お前は会社に入ったのは見たが会社で何をしているかは見てないからさぼってるんだろ」と難癖つけられているようなもんです。
土曜日を「自宅を出て1時間程度で帰宅」と書いていますが、首相も人間なんで、休みは欲しくはないでしょうか*3。日曜日は天皇誕生日のお祝いがあるし*4…
国会の本会議はない
さて、やたらと「国会に出ず」とツイートでは強調されていますが、本会議は開催されておらず、開かれているのは財務金融委員会や総務委員会といった常任委員会です。総理をはじめ閣僚になると、この委員会には所属しなくてもよいそうなので*5、そもそも委員として出席できる会議がまず存在しません。
予算委員会は土日を除いて毎日開催されてはいますが、いわゆる一般的質疑は通告のあった大臣のみが出席を求められるので、首相に出席の義務はありません*6。首相に義務が生じるのは「集中審議」ですが、これもこのツイートの段階では特に求められていなかったので、やはり安倍首相が出席できる委員会はなかったわけです。首相本人が集中審議をしたいと言えばいいのかもしれませんが、そんな例はちょっと聞いたことがありません。
もちろん、「集中審議」を野党側が求めたのに与党がそれを拒否した、なんて話はあるときはありますが*7、20日の時点で次回の集中審議開催の日程も決まっていた*8ので、それも争点にすらなりません。
コロナ対策本部は開かれていない
「新型コロナ対策本部にも出ず」というのもずいぶん強調されていますが、そもそも対策本部は19日~22日の間に開かれていません*9。この書き方だと、「開かれているのに欠席した」という印象をもちます。ちなみに、次回は23日に開かれました。
まあ、ツイートを意訳するなら、「なんで対策本部を開かないんだ」ということなのかもしれませんが、基本的に官邸で開かれる対策本部は報告とそれに対する応答と言うかなり形式的なものなので、具体的な提言については、14日に発足した専門家会議*10の方がメインでしょう*11。
もっとリーダーシップをとってばんばん対策本部を毎日開いていけ、ということならわからなくもないですが、それが有効かどうかはまた別の話です。
フグは9分間で食べた
19日は「官邸でフグ堪能」とありますが、これは以下の記事のことですね。
安倍晋三首相は19日、地元・山口県下関市「下関ふく連盟」の見原宏理事長らの表敬を首相官邸で受けた。
案の定、この記事が出た時はなかなか荒れていたと記憶していますが、実際の表敬は9分間ですので、挨拶やら移動やらの時間を考えると、とても堪能している余裕はないような気もします*12。
こんな時期に表敬を受けるな、という話ならわからなくもないですが、私はこの記事はメディアのよくないところが出ているな、という気はしました。なぜなら、この近辺で他に3件表敬を受けているのですが、フグ表敬については大手メディアはほぼ触れているにも関わらず*13、他のポーランド議長、世界青年の船代表、アメリカ下院議員の表敬についてはその扱いがぐっと下がるのです*14。メディア側もこの時期にこのニュースを流せばどんな反応があるかはわかっているだろうに、なぜこのフグの話を大きく報じたのか、と勘繰りたくもなります。
また、そもそも下関ふく連盟が東京に来たのは、1988年から続く宮家へのフグ献上のためです。
鍋用の切り身などをセットにして、地元の赤間神宮で早朝におはらいを受けた後、連盟の見原宏理事長らが空路で持参。秋篠宮家や常陸宮家などを回り、首相官邸にも届ける。
毎年の恒例ですね。首相はだめで宮家はいいのか、などなど、これでは別の問題が出てしまいます。
会食は多いのか
さて、ツイートを見ると、安倍首相は会食ばかりしているように見えますが、これは本当でしょうか。
今回は、朝日新聞の「首相動静」から検索して、どれほど歴代の首相たちが会食*15していたかを調べてみました*16。範囲は2000年代とし、森喜朗から安倍晋三までです。
まずは、任期の間にどれぐらい会食にいったかを見てみましょう。
青の棒グラフが回数を、赤の折れ線グラフが任期の日数に対しての割合を示しています。割合のトップは麻生元首相ですが、安倍首相は回数も割合もやはり多いですね。平均が31%ぐらいなのですが、2日に1回ぐらいは行っている計算でしょうか。
次に、今回の問題である通常国会の開かれる2月のみ(2020年は2月24日までです)を見てみます。
平均は9.8回。中央値も10回ですので、安倍首相は平均ぐらいかちょっと多い感じですか?
安倍首相の会食の回数は、2月だけで見ると平均程度だけれども、任期全体でみると、他の首相と比べても高い、ということがわかりました。会食が多いのではないか、という批判は当たりそうです*17。批判の対象かはわかりませんが、少なくとも議論の俎上には載せられそうです。
今日のまとめ
①官邸にいる間は仕事はしていると考えられるため、当該ツイートの書き方は誤解を招く。
②国会の本会議やコロナ対策本部はそもそも開かれていなかったため、開かれているのに欠席している、とも読めるツイートは誤解を招く。
③フグは宮家献上の恒例のもので、首相官邸だけに届けられたわけではない。「堪能」といっても、表敬の数分間のみ、2切れほどである。
④歴代首相と比べても安倍首相の会食の回数は多いのは事実である。
毎度エクスキューズするのがバカらしいのですが、安倍首相を擁護するつもりは毛頭なく、ただただ、どんな立場の人であれ、ふわっとした印象でもって流されていくのはおよしになった方がよいのでは、という内容であることはご理解いただきたいところです*18。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、ということわざがありますが、袈裟はただの袈裟です。事実から遠く離れたものまで憎がっていると、そのうち坊主ではなく袈裟が憎しみの主体だと思ってしまいそうです。しかしまあ、政治家がイメージや印象を大事にする気持ちはよくわかりますね。
*1:
*2:
首相は、国会や会議に出席するほか、首相官邸内の執務室で各府省庁の事務次官や局長らから重要政策の検討・実施状況について報告を受け、必要に応じて指示している。
*3:
と書くと、「〇〇議員は土日も△△という活動をしていて…」とコメントをもらいそうですが。
*4:
*5:
国会法 第四十二条 常任委員は、会期の始めに議院において選任し、議員の任期中その任にあるものとする。
2 議員は、少なくとも一箇の常任委員となる。ただし、議長、副議長、内閣総理大臣その他の国務大臣、内閣官房副長官、内閣総理大臣補佐官、副大臣、大臣政務官及び大臣補佐官は、その割り当てられた常任委員を辞することができる。
なので、途中で役職に就くと委員を辞して、そのポストが不在になる、なんてことが起こったりするわけですね。
*6:
予算委員会の一般質疑は、基本的質疑と違って、質問者ごとに質問通告のあった大臣のみが出席を求められる。
*7:
与党は二十六日、安倍晋三首相が「桜を見る会」を巡る国会での説明責任を果たすために野党が求めた首相出席の集中審議開催に応じなかった。
*8:
衆院予算委員会は20日の理事会で、2020年度予算案に関し、26日に一般質疑と安倍晋三も出席する集中審議を実施することで合意した。
*9:
*10:
新型コロナウイルス感染症対策本部の下、新型コロナウイルス感染症の対策について医学的な見地から助言等を行うため、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(以下専門家会議」という。)を開催する。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/senmonka_konkyo.pdf
*11:
実際、本日(2月24日)に出た見解は詳しいものですね。
新型コロナウイルスへの感染の報告が相次ぐなか、国の専門家会議は、今後1〜2週間が感染拡大のスピードを抑えられるかどうかの瀬戸際だという見解を示しました。 市民に伝えたいことして、多くの人と近い距離で対面する場所を可能な限り避けることや、かぜなどの軽い症状の人は自宅で療養することなど対策への協力を求めています。
*12:
ちなみにノーカットとおぼしき動画で確認したところ、箸をつけてから食べ終わるまで1分30秒程度で、2切れ食べてました。
令和2年2月19日 下関ふく連盟等による表敬 | 令和2年 | 総理の一日 | ニュース | 首相官邸ホームページ
我ながらくだらないことを確認しました。
*13:
安倍首相 地元のフグ仲卸業者らと面会 天然トラフグを試食 | NHKニュース
「プリプリで歯ごたえある」首相、地元下関のふぐに舌鼓 - 毎日新聞
安倍首相グルメ三昧 コロナ対策会議わずか10分のデタラメ|日刊ゲンダイDIGITAL
安倍晋三首相(右)は19日、地元・山口県…:安倍首相、天然トラフグを堪能:時事ドットコム
安倍晋三首相、地元のフグを堪能 「味がしみ出てておいしい」 - 産経ニュース
珍しいのが、朝日や読売が記事にしていませんね。ざっと調べた限りですが。
*14:
首相、日米同盟の意義強調「世界で大きな役割担う」 - 産経ニュース
日本企業の進出促進で一致 首相とポーランド議長 - 産経ニュース
まあ、時事と産経ぐらいですよ
*15:
今回の定義としては、誰であっても2人以上の食事としました。自民党議員や経済界の役員などに限らず、秘書官や昭恵夫人なども含まれています。
*16:
さすがに1つ1つ記事内容を確認はできなかったので、以下のキーワードで朝日新聞の記事検索をし、その結果の件数で判断しました。
○「首相動静」の記事のみ。
○「食事」「会食」「と夕食」のいずれかが入っている(「夕食」だけだと1人での食事も多く含まれるため)。
○「夕食会」「食事会」は、来賓の挨拶のみであったりする場合が多いため、業務と判断し検索から除外した。
そのため、誤差はあるかとは思います。 日に複数回行っている場合もありますが、1日のうち何回か記載があっても1回とカウントしました。
*17:
時間が長い、と言う話もありますね。
14日は約8分の会合後、大手メディア幹部とホテルで約3時間会食した。18日も会合出席は12分で、公明党幹部と約2時間会食。もともと本部会合の時間が短いことから、政府の本気度を疑う指摘もある。
ただ歴代首相と比べて時間が長いかどうかまではわかりません。
*18:たとえ私がいわゆる「反安倍」の人だとしても、やはりこういうふわっとした批判には迎合しないと思います。内輪で盛り上がる分には構いませんが、それってどんな立場の人であれ、「またあの人テキトーなこと言ってるよ」となってしまい、己の価値を下げてしまうと思うのですけれども。今の(昔も?)政治家がよろしくないのは、もしかすると印象に流される私たちも責任の一端を担っているのかもしれません。