たいへん国会が注目されている時期ではありますが、以下の内容のツイートがバズってました。
・NHKは国会中継を放送しなくなっている。
・2015年の安保法案の採決の日以来減っている。
いつも通り、これは正しいかどうか調べてみました。結論を書くと、「国会中継の放送日数はそれほど変わっていない」です。
【目次】
検証方法
NHKはさすが皆様の公共放送、過去の番組表を細かく調べることができます。
こちらから、以下の内容で検索した結果を検証に使用しました。
- 「国会中継」をキーワードに指定
- 1989年1月~2020年4月まで*1
- 「デジタル総合」もしくは「アナログ総合」で放送されたもの
- 1日に複数回ある場合はまとめて「1日」でカウント*2
- 日をまたぐ放送の場合は前日のみをカウント
では、結果を記載していきます*3。
年ごとの国会中継日数
1年間に何日ぐらい国会中継が放送されているかと言うと、以下の通りです。
2020年が少ないのはまだ半年も経っていないからなのでいいとして、一番多かった年が2011年の69日、次が2016年の64日なんですね。当該ツイートのいう「2015年」以降が、平成~令和の歴代2位になっているわけです。2011年が最多になっているのは、後述しますが、この年は震災関係で補正予算の成立も多く、予算委員会や復興特別委員会などの中継が多かったからでしょう。
2016年と比べてしまうと、2017年以降は大きく減っているようにも見えますが、平均も中央値もおよそ40日なので、特段近年国会中継が少ない、とまでは言えないでしょう。NHKの認識としても*4、年に大体50回(日数ではない)、週に1回程度は放送しているということなので、この認識ともそうずれてはいません。
歴代内閣ごとの放送日数
ただ、当該ツイートの趣旨としては、政権側への忖度を疑っている、というところかと思いますので、平成から令和の歴代内閣ごとの放送日数を確認してみましょう。
第一次も含めると、安倍首相が断トツで多いですが、もちろんこれは在職期間が長いためであります。次点の小泉元首相も同じ理由です。
赤い折れ線グラフは、かなり単純ではありますが、在職期間に対する放送日数の割合を表しています。安倍首相は13.2%*5。トップ10はこんな感じですので、
平均が11%程度であることを考えても、少ない放送日数だとは思えません。念のために第一次安倍内閣を抜かして、第二次以降で計算しても、13.3%ですので、「安倍政権下で国会中継が少なくなっている」という批判は適当ではないでしょう。
国会中継のルール
NHK側に国会中継をするしないについての正式なルールは明文化されていませんが、内規はあるようです。
▽本会議の施政方針演説等の政府演説と関連する代表質問を放送する。
▽衆参両院の予算委員会の『基本的質疑』のうち、各会派の第1巡目の質疑を放送する。
▽さらに、『党首討論』や国民的関心の高い重要案件を扱う委員会の質疑などは、適宜、総合的に判断して放送しています
実はけっこうNHKはこの質問に対して答え方を微妙に変えているので、何が正確かは難しいところなんですが、会派の全員出席が委員会で求められたり*6、そもそも国会中継自体はNHKの判断ではなく、与野党の要請による、という話もあります*7。
国会の答弁の中で例示されたこともあります。以下によると、この内規は昭和53年(1978年)に取り決められたようですね。
その中で政治的公平を確保するという考え方から私どもはある一定の原則を設けて、昭和五十三年以降この原則に従って放送いたしております。
その原則と申しますのは、本会議での政府演説、代表質問については全部放送いたします。衆参両院の予算委員会の総括質問は、各会派の第一質問者を放送しております。そのほか、重要案件を扱う特別委員会を放送いたしております。放送時間は午前十時から十一時五十五分、午後一時から六時、大相撲がございます場合には五時まででございます。上記の時間に放送ができない部分については、午後十一時台に緑画と録音で放送いたしております。それが原則でございます。
まとめるならば、国会中継のルールとしては、
①本会議の施政方針演説等の政府演説、代表質問
②予算委員会の質疑(各会派の1巡目)
③党首討論
④国民の関心の高い重要案件を扱う委員会質疑
⑤④の場合でも、「・総理の出席」「・全会派の出席」「・与野党の中継要請」が必要
というところでしょうか。なので、「国会中継が減らされている!」という声にひとつ理屈をつけるなら、中継要請で与党側が反対している、という可能性を考えることはできます。ただ、インターネットで配信している現在、そこにこだわる必要がどれほどあるのかはわかりませんが。
結局、国会中継が多くなる年は、補正予算が何回か組まれる、もしくは審議が長引いた年といえるのではないかな、と思います。例えば2019年度の国会中継は36日あったわけですが、そのうち予算委員会の中継は25回。中継のほとんどは予算委員会なわけです。一応、全体の国会中継のうち、どれぐらい予算委員会の中継があるかと言うと、記録が残っている部分のみ*8になりますが、4割近くが予算委員会の中継となっているようです。なので、今年はコロナ関連の予算もあるので、きっと放送回数は増えるでしょうね。
とまあ、こんな感じで、放送回数については、忖度云々はあまり関係がないと思います*9。
今日のまとめ
①NHKの国会中継の放送回数は、ここ30年程大きな変動はなく、2015年以降も極端に減っているわけではない。
②歴代内閣の日数の比率で見ても、安倍内閣が特段放送回数が少ないわけでもない。
③放送回数の増減は、その年の予算委員会がどれほどあるかに左右される。
昨今話題の検察庁法改正やらなんやらについても、ひとたびそこに「陰謀論」のにおいが感じられると、例えそれが「正しい」ものだとしても、途端に不信の色が見えだします。せっかくの熱意ある主張であったとしても、これはなかなか損なことではないでしょうか。
では人は事実だけを語って生きられるのか、というのも難しいことです。私は当該ツイートのリプ欄まで見ましたが、同じような誤りの指摘をRTするなど、誠意の見える対応をしていたと思います。こういうものまで「デマ」と呼ぶのは、私にはなかなか心苦しいところです。世の中には思い込みがあり、誤認があり、我々の認知は常に多少の歪みをもっています。よい答えは出ませんが、少なくともそういった逡巡を自分で考えようとする人が増えれば、もうちょっと住みやすい世界になるとは思うのですが。
*1:5月の内容は表示されないため
*2:これは少々悩んだのですが、1日のうちに複数回ある場合は、別の委員会が中継される場合もあるんですね。ただ、その判断が番組名だけでは難しかったので、今回は「毎日放送されてないじゃないか」という訴えかと思いましたので、「放送日数」という形で考えてみました。
*3:
一覧はこちら。
https://ux.getuploader.com/storefornetlore/download/31
*4:
海老沢会長の国会での発言より。
NHKは国会中継を長い間やっております。民主主義の健全な発展に資するという目的でやっているわけでありますが、これまで年に大体五十回前後放送しております。
平成十五年度は五十一回、百八十二時間四十七分という数字が出ております。一週間に一遍は国会を中継するという計算になっております。
*5:
第一次安倍内閣も含めた、4月30日までの在籍日数3049日で計算
*6:
全会派が出そろわない場合、公平性を考慮して中継を見送っているといい、板野裕爾放送総局長は15日の委員会について、「全会派が質疑に応じると決まったのが当日朝の委員会直前だった。われわれの準備が間に合わなかった」と話す。
*7:
*8:
何年か放送内容が「国会中継」だけで、なんの委員会かわからない時期があるため
*9:
付け加えるならば、NHKとしては、各ジャンルの放送のバランスを考えると、国会中継だけはやりにくいのだろうという印象は受けます。2004年の総務委員会で、民主党の広中議員の、国会中継の時間がNHKの放送全体から見て少ないので夜間に放送できないのか、という質問に、海老沢会長が答えています。
百八十二時間(引用注:H15年度の中継の放送時間)でありますが、御承知のように、今、総合テレビも教育テレビも二十四時間放送時代になりました。
(中略)今、この深夜時間帯がNHKアーカイブスといいますか、この古いものを再放送するとか、あるいは教育番組につきましては、学校の先生向けに昼間やった放送を録画してもらうために再放送をしているというようなことで、それぞれの今用途に従ってやっております。
ですから、国会で重要な審議がありますれば、当然そういう御要望があれば再放送というのはできますけれども、これが毎日になりますと、そういう人たちにまた、どういう判断が示すか、いろいろ総合的に検討してはみてみたいと思っております。
サブチャンネルなども画質の問題から公平性を欠くということや、そもそも全委員会を放送するとなるとチャンネル数が足りないし、ならばといってどの委員会を取り上げるかは恣意的になるしと、面倒くさいわりに誰も見ないからあまりやりたがらないんでしょうね。インターネットが普及した今となっては、そちらを代わりとしてもらいたい、というのが本音なんでしょうか。