ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

「女性は男性のリハビリ施設ではない」とジュリア・ロバーツは言っていない、男のいらない女たち

【5/13 名言の英語訳を一部訂正】

 

たぶん、岡村隆史氏のラジオでの発言*1の流れを受けてだと思うのですが、ジュリア・ロバーツの言葉として、以下のものがTLによく流れてきました。

 

WJA❤️さん の最近のツイート - 13 - whotwi グラフィカルTwitter分析

女性は悪く育った男性のリハビリ施設ではありません。男性を直すことも、変えることも、親になることも、育てることも、あなたの仕事ではありません。あなたに必要なのは課題ではなく、パートナーです。

 

英語圏では検証されているものの*2、その結果は「Unknown」となっていますが、今回はちゃんと初出を発見したので、「お、たまには仕事したな」と思ってください。

 

 

 

2018年の終わりごろから「ジュリア・ロバーツ」名義

この言葉が「ジュリア・ロバーツ」のものとされ始めているのが2018年おわりごろ。Facebookで以下の投稿があります。

 

Women you are not rehabilitation centers
For badly raised men.it is not your job to fix him,change him,parent him or raise him
YOU WANT A PARTNER NOT A PROJECT (julia Roberts)😁✌✌✌✌✌✌

Women you are not rehabilitation centers... - Seblewongel Sebli | Facebook

 

 

上記は2018年12月11日の投稿です。これが一番最初だとは思いませんが、時期的にはこのころと思ってよいでしょう。

 

先ほど脚注でも紹介した「Truth Or Fiction」では、2019年1月ごろのRedditを取り上げています。

 

This quote is often annotated to Julia Roberts. I'm not sure if it's true. Does anyone know on what movie/interview she said this?

この名言はしばしばジュリア・ロバーツによるものだとされています。これが本当かどうかはわかりません。彼女が、どの映画やインタビューで言っていたか知っている人はいますか?

Women, you are not rehabilitation centers for badly raised men. : quotes(2019.1.15)

 

このコメントには特に誰も返答していないのですが、この段階で、この言葉が「ジュリア・ロバーツ」のものとして広まっているのがわかります。 

2018年2月ごろから発生

この言葉自体が広がり始めたのは2018年2月。もっとも影響力をもったのは以下のものでしょうか。

 

 

これは23万ものいいねを獲得しており、ひとつ広まるきっかけになったものと見てよいでしょう。ただ、このツイート主自体は、引用かどうかを明確にしておらず、「誰」という話もしていません。

 

大きく広がり始めるのはここらへんなのですが、恐らくここで「誰」が明示されていなかったためなのか、キャプションはいろいろになります。

 

Credit: Chamieka Sharelle*3

Join "Ask Mieka and Friends"

Credit: Chamieka Sharelle Join "Ask... - Feminism & Decolonisation | Facebook

 

"Women you are NOT rehabilitation centers for badly raised men. It is NOT your job to fix him, change him, parent him or raise him. You want a partner not a project." Jaseena Backer

Monday Motivation "Women you are NOT... - Busisekile Khumalo | Facebook

 

特にJaseena Backerは、この言葉を広げるのに一役買っています。彼女はインドの心理学者で、特に女性の権利について幅広く意見しており、2018年4月2日の投稿は広くシェアされました。インドでは、女の子を「良き妻(sanskaari bahu)」に育てることを何世紀にもわたって行ってきたのに、「良き夫」にするためのことは何もしていない、というエピソードを話した後、最後にこう結びます。

 

That’s the fact….. and we are getting there

Women, you are NOT rehabilitation centers for badly raised men.

It is NOT your job to fix him, change him, parent him or raise him.

You want a partner, not a project.

Jaseena Backer

Disclaimer: Yes,"Not all Men"

Jaseena Backer - Woman what are you? “My son drinks. My... | Facebook

 

彼女の書き方も引用なのか自分の言葉なのか、特に線引きをしている投稿ではなかったので、この言葉がJaseena Backerによるものと誤解されていきます。

 

Women are not rehabilitation centres for badly raised men' is the post everyone is sharing and talking about on Facebook now. Posted on April 2 by Jaseena Backer, this post has been highlighting a conversation that many women in the country are most likely scared to say out loud.

「女性は悪く育った男性のためのリハビリ施設ではない」という投稿は、フェイスブックの皆がシェアし、話し合っています。Jaseena Backerによって4月2日に投稿された記事は、この国で女性が声をあげることが恐れられているだろうことを強調しています。

Post about brides and spoilt men goes viral | Deccan Herald

 

Jaseen Backer...sends a message to all of us loud and clear that “women are not rehabilitation centres for badly raised men”

Jaseena Backerは(中略)大きく、そしてはっきりとメッセージを届けます。「女性は悪く育った男性のためのリハビリ施設ではない」

Why Women Are Expected To Completely Reform The Man They Marry? This Woman Addresses It Brilliantly

 

ここら辺が、今回の言葉の面白いところなんですが、じゃあこの名言はJaseena Backerのもの、とはならないんですね。定期的にこの言葉はバズるわけなんですが、「誰が言った」にはあまりみなさん言及はしません。

 

 

「ジュリア・ロバーツ」が出てくるまで、むしろこの言葉は詠み人知らずとして力をもっていたように見えます。

 

ナイジェリアの女性活動家の言葉

で、結局だれの言葉なのかと言うと、ナイジェリア出身の女性活動家の言葉だということが、調べてみるとわかります。

 

先ほどの載せた2018年2月のツイートのリプ欄に、こんな指摘があります。

 

 

ところが「Ijeoma Halim」という名前で検索してもろくにヒットしません。あれこれ試しながら調べてみると、「Kate Halim」と名前を変えてFacebookをしていることがわかります。投稿したのは、2018年2月17日。

 

It is not women's duty to pray for irresponsible men. Women are not rehabilitation centres for badly raised boys.

無責任な男性のために祈ることは女性の義務ではありません。女性は悪く育った男の子のリハビリ施設ではありません。

Kate Halim - It is not women's duty to pray for... | Facebook

 

彼女はナイジェリアのラゴスで新聞の特派員をしつつ、フェミニストとして女性たちへの活動を行っています。日付的にもこの投稿がくだんの言葉の初出になります。

 

Halim自身も、自分の言葉が「ジュリア・ロバーツ」名義になっていることを知っているようで、1年後にこんなコメントを残しています。

 

It is funny that everybody is now claiming this post. It has gone all over the world. Now, some people claim Julia Roberts said this. You people are very funny. 

とても面白いことに、みんなは今頃この記事について主張しています。世界中に広がってね。何人かはこれを「ジュリア・ロバーツ」が言ってると主張してる。笑えるね。

同上( 2018.12.17)

 

彼女自身は、「ジュリア・ロバーツ」の言葉だと思って争っている人々を面白がって見ているようですが、なかなか珍しい名言の流れだと思いました。

 

なぜ「ジュリア・ロバーツ」か

では最後に、なぜ「ジュリア・ロバーツ」がこの言葉の持ち主になったのか、推測を書いてみます。

 

まず、その前の段階として、アリアナ・グランデの彼氏だったマック・ミラーの死についてのニュースを知る必要があります。

 

2人の関係が世間の注目を浴びるようになったのは、5月に2人の関係に終止符が打たれた後。破局から8日後、ミラーが薬物摂取のまま運転して交通事故を起こしたこと、さらにその数週間後にグランデが『サタデー・ナイト・ライブ』の出演者ピート・デヴィッドソンと婚約したためだ。

「お前が彼をダメにした」アリアナ・グランデとマック・ミラーに見る、女性が悪者になる恋愛関係 | Rolling Stone Japan(ローリングストーン ジャパン)

 

そのため、グランデにミラーの死の責任があるのではないか、という論調が盛んになってきました。グランデはTwitter上でその声にこう答えました。

 

 

全部は訳しませんが、彼女はその中で「私はベビーシッターでも母親でもないし、どんな女性もそう思うべきではない(”I am not a babysitter or a mother and no woman should feel that they have to be," )」と答えています。彼女の言葉を受けて、メディアやSNS上で擁護する動きが見られました*4。男性に対する女性の役割、というような話がこの時期に盛んにおこなわれた、という経緯がまず1つ。その中にはもちろん、「Rehabilitation Center」を意識した投稿もありました。

 

  

そして、2018年9月のMetro(!)では、芸能人やシンガーを例にとり、この話題を記事にしています。アンジェリーナジョリーとブラッドピットの離婚にはジョリーの責任があるという論調があったことや、先ほどのアリアナグランデの話、それから「Women are not rehabilitation...」も引用しながら、こう疑問を投げかけます。

 

Why is it left to a woman to coax those feelings out of him, to nurture him, to help him grow?

なぜ、男性の感情をなだめたり、成長させたり育てたりすることが、女性に委ねられているのでしょう。

Women are not rehabilitation centres for men but they're expected to fix them | Metro News

 

2018年は、英語圏ではそのような女性と男性の話題がある程度盛んであった、という状況があったようです。その中で、「Women are not rehabilitation...」の言葉もよく引用されるようになっていました。

 

私はあまり知らないのですが、ジュリア・ロバーツは、フェミニストとして見られる時があるようです(Googleのサジェスチョンでも出てくる)。それは1999年のプレミアの腋毛事件*5が「フェミニズム」とみられた、というだけではなく、当時の女優としては多額のギャラを要求したことや、2016年のカンヌでヒールを脱いで裸足でレッドカーペットを歩いたことなど、彼女の行動にフェミニズムを感じるようです*6

 

それがホントかどうかはともかく、ジュリア・ロバーツはそのようなステルスな「フェミニスト」としての印象でもって、女性が声をあげるムーブメントの中、この言葉の発言者として認知されだしたのではないでしょうか。

 

今日のまとめ

①この言葉の初出は2018年2月17日のナイジェリアの女性活動家のFacebookの投稿。当初から、他の人物や詠み人知らずとして流通していた。

②ジュリア・ロバーツとしては、2018年の終わりごろから見られる。

③「なぜ女性が男性のために生きねばならないのか」という議論が2018年には起こっており、その中でフェミニズムが感じられるジュリア・ロバーツが発言者として選ばれたのではないか、と推察する。

 

実は似たような言い回しとしては、2018年よりももっと以前からあります。

 

 

 

 

いちいち訳しませんが、「女性の人生は誰かの責任ではない」という考えは、以前からあるわけです。しかし、それを「Rehabilitation Center」と表現したことが、この言葉が広まる力をもった1つの理由でしょう。

 

名言、というのは不思議なもので、「誰か」というものをなぜか必要としてしまうんですね。この「Women are not rehabilitation...」は、私は十分単体で耐えうるなかなかよい言い回しだと思います。しかし、それがどうして「誰か」に言わせたくなるのか、その「誰か」である理由は何か、と「逆なで」に考えることも、名言の楽しみ方の一つではないでしょうか。

 

 

 

 

*1:

岡村は先月23日深夜の放送で、新型コロナウイルス感染拡大の影響で女性の収入が減り「コロナが明けたら美人さんがお嬢(風俗嬢)やります」などと発言し、批判を受けた。先週の放送では発言を謝罪し、急きょ出演した相方・矢部浩之(48)から公開説教を受けた。

岡村隆史「女性への向き合い方変えなくては」 ラジオ冒頭から「風俗嬢発言」に言及:芸能・社会:中日スポーツ(CHUNICHI Web)

*2:

Did Julia Roberts Say Women Are Not Rehabilitation Centers for Badly Raised Men? - Truth or Fiction?

*3:これはちょっと誰かわかりませんでした。

この名義で一番古いのは3月9日。

Women are not rehabilitation centers for... - We Are The Media | Facebook

*4:

Ariana Grande Breakup Tweet Shows Truth About Addiction

Linda on Twitter: "But we must also acknowledge that he chose to do drugs and Ariana is not a rehabilitation center.… "

など

*5:

ジュリア・ロバーツ、腋毛の理由を語る!

*6:

Why Julia Roberts is the feminist icon you need right nowより