ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

ブッダは「愛」と「好き」の違いを説いたのか、バーナード・ショーかく語りき

今日はみなさんだいすき名言の話。

 

 

ブッダが「愛」についてこんなこと言うか?と私も疑問に感じていたのですが、ツイート主はこんな情報を追記しています。

 

 

ならば出典を探したいと思うのが人情です。調べてみました。

 

 

***

 

英語圏でも広まっている

この話は全く日本語ではヒットしないのですが、ツイート主が言うように、スペイン語のサイトで上記の名言を見ることができます。

 

“Cuando te gusta una flor sencillamente la arrancas…pero cuando la amas la riegas diariamente. Si comprendes esto entonces entenderás la vida”. (Buddha)

「花が好きだというとき、あなたはそれを引き抜くだけでしょう。しかしあなたが花を愛していれば、毎日水をやるでしょう。あなたがこれを理解することが、人生を理解することです」(ブッダ)

“Cuando te gusta una flor sencillamente la arrancas pero cuando la amas la riegas diariamente. Si comprendes esto entonces entenderás la vida”. (Buddha) | media-tics.com

 

Cuando te gusta una flor, sólo la arrancas.
Pero cuando amas una flor, la cuidas y riegas a diario.
Quien entiende esto, entiende la vida.

- Buda

あなたが花が好きなとき、ただそれを抜きます。あなたが花を愛するとき、あなたは大事にして水をやるでしょう。これを理解する人が人生を理解します。

ブッダ

Cuando te gusta una f... written by lito593 | Notegraphy

 

スペイン語でこの名言が広がりだすのは、2015年8月ごろからです。Googleの日付検索が最近どこまであてになるかはわかりませんが、これ以前はヒットしません。

 

ところが、英語圏ではこの話はそれより前に見つかります。 これはtwitterで教えてもらったのですが、2015年4月の時点*1で、このブッダの名言がフェイクであることを伝えるのページが見つかります。

 

fakebuddhaquotes.com

 

上記のページでは、ブッダ以前に、アレキサンダー大王とソクラテスの会話という形で広まっていることも指摘しています。

 

Alexander the Great:
“Sir what’s the difference between “like” and “love”?

Socrates’s answer was a masterpiece:
“When you like a flower, you just pluck it.
But when you love a flower, you water it daily..!

The One, who understand this, understands Life…

アレキサンダー大王:「好き」と「愛する」の違いはなんだ?

ソクラテス:「あなたが花が好きな時、ただそれを摘むでしょう。しかし花を愛するとき、毎日水をあげます。それを理解する人が、人生を理解するということです」

"When you like a flower, you just pluck it. But when you love a flower, you water it daily." - Fake Buddha Quotes

 

上記ページでも指摘されている通り、ソクラテスは紀元前399年に死んでいるので、紀元前356年に生まれたアレキサンダー大王とは話せません*2

 

この話は、2014年ごろにあることもわかります。

 

Updated May 1, 2014

Someone asked Socrates one day.
"Sir what's the differance between attraction and love ?"
Socrate's answer was a masterpiece :-
He said, "When you're attracted towards a flower , you just pluck it.
But when you love a flower, you water it daily...!
One who understands this, understands life...

At what point does attraction become love? - Quora

 

調べた限りでは、英語圏での話が先にあり、そこからスペイン語圏へ広まっていった、というように見えます。

 

ある神秘主義者の言葉

先ほどのフェイクと指摘するページのコメント欄がくわしいのですが、どうもこの言葉はOSHOというインドの神秘主義者の言葉ではないか、と考えられます。

 

“If you love a flower, don’t pick it up.
Because if you pick it up it dies and it ceases to be what you love.
So if you love a flower, let it be.
Love is not about possession.
Love is about appreciation.”

もしあなたが花を愛しているなら、あなたは花を摘んではいけない。なぜなら摘めば花は枯れ、それはあなたが愛するものではなくなるからです。だからもしあなたが花を愛するなら、そのままでいさせてください。愛は所有するものではありません。愛は感謝するものです。

Quote by Osho: “If you love a flower, don’t pick it up. Because...”

 

OSHOは1970年代に一世を風靡したインドの神秘主義者で、「1960年代からインド各地で、古い風習や世間的な偽りの人生を批判し、自由な生き方を鼓舞する講演を繰り広げて、賛否両論を巻き起こした」そうです*3。彼自身は1990年に亡くなっています。

 

上記のGoodreadsの「イイネ」を見ると、ソクラテスなんかよりも古く、2012年から彼の言葉として認識されているような節があります。

 

OSHOの言葉を伝える公式サイトでも、上記の言葉を載せたTHE TIMES OF INDIAの記事を掲載しています。

 

f:id:ibenzo:20190608214544p:plain

https://www.osho.com/NewsLetters/Hindi/Feb14/pdf/news-2.pdf より  

2013年12月11日のもので、公式的にも、この言葉がOSHOのものとして認識されているわけです。とすると、今ブッダの言葉として広まっているものの原型はこのOSHOのものになるのではないでしょうか。OSHOはブッダの考えを基盤としながら講話をしていますし、これが「ブッダが言った」に変わってしまった理由も何となくしっくりきそうです。

 

出典がわからない

とはいうものの、ではOSHOが実際にこの言葉を本当に言った(書いた)のかどうかはちょっとよくわかりません。

 

OSHOは「愛」についてよく語っており、花にたとえる講話もしばしばあります。

 

He is afraid of love because love is a flower – love is not a rupee. A man who is afraid of life may get married, but he never falls in love. Marriage is like a rupee, love is like a roseflower.

愛が花であることで彼は愛を恐れる。愛はルピーではない。人生が不安な人間は結婚をするが、恋に落ちることはない。結婚はルピーのようなものだが、愛はバラの花のようだからだ。

Attitude – Immortality – Melting? — OSHO Online Library

 

Real love is like a real flower. But all religions teach you plastic love.

真実の愛は本物の花のようだ。しかし宗教はあなたたちにプラスティックの愛を教えてきた。

Loving Yourself – Love – Creativity? — OSHO Online Library

 

Otherwise soon you will be clinging to a dead flower, and that's what the reality is: people are clinging to a dead love that once was alive.

あるいは人々はすぐに死んだ花にしがみつくでしょう。そして、かつて生きていた死んでしまった愛にしがみつくということも現実なのです。

OSHO: Love Is Authentic Only When It Gives Freedom - YouTube

 

しかし、なかなかそのものズバリというものはありません*4。調べた中でいちばん近かったのが、以下のもの。1972年の「Lead Kindly Light」という講話のものだそうです*5

 

The flowers are beautiful, but your plucking them was not a beautiful act...The plucking of flowers hastens their death; and nothing is uglier than taking life, even of a flower. Non-violence is the acme of beauty; violence is the nadir of ugliness.

花は美しいですが、これを摘むことは美しい行為ではありません。(中略)摘まれた花は死が近くなります。花であったとしても、命を奪うことほど醜悪なことはないのです。

Osho Lead Kindly Light: Lead Kindly Light

 

OSHOは、「でも花が好きなんです(But we like flowers)」という声に続けて答えます。

 

Plucking is not symbolic of love, but of cruelty.It is symbolic of our authoritarian nature; we want to possess whatever seems beautiful, regardless of the possibility of destroying that object of beauty...We practise the same cruelty with even the human beings whom we profess to love.

花を摘むということは愛の象徴ではなく、残酷性の象徴です。それは権威主義的な象徴です。私たちは美しく見えるものであればなんでも所有したいと願うのです。その美を壊す可能性があるにも関わらず。(中略)私たちは愛していると言っている人間に対しても同じような残酷性を実践します。

同上

 

If you love flowers, you give yourself to flowers; you do not try to own them by plucking. Love knows only giving; it knows not the language of receiving -- to say nothing of the language of robbing. And please note that this is an axiom applicable to all aspects of life.

もしあなたが花を愛するならば、あなたはあなた自身をそれに捧げます。花を摘んでそれを自分のものにしようとは思わないでください。愛は与えることだけを知っています。受け取るという言葉をそれは知りません。奪うことについても然りです。そしてこれは人生のあらゆる場合に当てはまる公理であると知ってください。

同上

 

長いくだりなので端折りながらですが、「花を摘むことは愛ではないこと」「愛は所有とは別の概念であること」「もしあなたが花を愛するならば」など、名言に含まれるキーワードが出てきています。全くおなじ言葉は出てきませんが、現在出回っている名言は、この彼の講話を誰かが短くまとめたものなんではないでしょうか。

 

バーナード嬢曰く。

と、ここで終わってもいいんですが、実はちょっと気になる講話があります。1987年11月13日に行われた*6、「A Peace That Passeth All Misunderstanding」という中のものです。

 

アイルランドの劇作家のGeorge Bernard Shawの庭はそれは見事な美しい花が咲き誇るものだったそうですが、彼の部屋の中には一本だって花が生けられていなかったそうで、その理由をGeorge Bernard Shawはこう答えている、とOSHOは語っています。

 

George Bernard Shaw said, ”I love children too. They are as beautiful as any flower, but I don’t cut their heads to decorate my sitting room. The flowers will blossom, they will dance in the rain, in the sun, in the wind. There they are alive. I am not a butcher; I cannot cut a flower off from its life source, and I don’t like corpses in my room.”

バーナード・ショー曰く、「私は子どもも愛している。彼らは花のように美しい。しかし私は彼らの首を切って部屋に飾りたいとは思わない。花は開花し、雨の中、日の中、風の中踊っている。そこでこそ彼らは生きている。私は虐殺者ではない。私は花をその生命に源から断ち切ることはできない。その死骸を部屋に置きたくはない」

Sensitivity – Birthright – Bernard Shaw? — OSHO Online Library

 

おお、バーナード・ショー曰く…ド嬢、ド嬢じゃないか!

 

バーナード嬢曰く。: 1 (REXコミックス)

バーナード嬢曰く。: 1 (REXコミックス)

 

 

実はこの「花を摘みとるべきではない」という名言はバーナード・ショーのものとしても有名なんですね。  

I like flowers. I also like children, but I do not chop off their heads and keep them in bowls of water around the house.

私は花が好きです。子どももまた好きです。しかし彼らの首を切り落として、家のボウルの水の中に生けたくはありません。

In tribute to George Bernard Shaw - World Cultures European

 

“I like flowers, I also like children, but I do not chop their heads off and keep them in bowls of water around the house.”

Quote by George B. Shaw: “I like flowers, I also like children, but I do ...”

 

この挿話をOSHOは気に入っていたようで、他の講話でも使っています。

 

1978年10月7日の「Wander Alone」。

 

He said, ”This is too much! If a child is lovely do you break its neck and make a bouquet? If a flower is lovely how can you pick it? How are you able to do it? You don’t cut children’s heads to decorate your bouquets, putting the head of the child on the table, saying look he is our son, how lovely! So why do you pick flowers?”

バーナード・ショー曰く、「それはもうたくさんだ!もし子どもが愛すべきものなら首を切り落として束にするのか? もし花が愛しいものならどうやってそれを摘むことができようか。君はそんなことができるのか? 君は子どもの首を切り落として花束にもしないし、テーブルに飾って、なんてかわいらしいなんて言うこともないだろう。だったらなんで花を摘むんだ?」

https://www.oshorajneesh.com/download/osho-books/Indian_Mystics/Death_is_Divine.pdf P196

 

1978年4月28日*7「The Flight of the Alone to the Alone」。

Bernard Shaw said, ”I love flowers, that’s why. I love children too, but I would not like anybody to cut off their heads and arrange those heads on my table.”

バーナード・ショー曰く「私は花を愛しているからだ。私は子どもも愛している。しかし誰もその首を切って自分のテーブルに飾りたいとは思わないだろう」

Control – Guilt – Bernard Shaw? — OSHO Online Library

 

OSHOはバーナード・ショー自体も好んでいたようで、講話の中にもよく出てきます*8

 

名言ジェネレーターのバーナード・ショーが、果たして本当にこんなことを書いたのかは不明なのですが、ここで大事なことは、OSHOが、「花は摘むべきではない」というくだりをバーナード・ショーのものだと認識していたということです。彼はその挿話を元にして、愛について述べたわけですから、現在流布している「愛と好きの違い」の大もとは、このバーナード・ショーの挿話になるのかもしれません。

 

今日のまとめ

①(未確認)バーナード・ショーが「花は摘むべきではない」という話を書く。

②1970年代にOSHOがその挿話を講話の中で披露する。

③1972年の講話の中で、その挿話を「愛」の説明に昇華し、それが短くまとめられ、OSHOの名言として流布する。

④2013年ごろからソクラテスの名言として改変され流布する。

⑤2015年4月ごろまでにはブッダの名言として改変され英語圏で広まる。

⑥2015年8月ごろまでにはブッダの名言として訳されスペイン語圏で広まる。

⑦2019年5月に日本語訳が初めて紹介される。

 

私はこの名言というやつを調べるのが好きで、今までも結構記事にしています、

 

www.netlorechase.net


www.netlorechase.net

 

www.netlorechase.net

 

名言って必ず「誰が」言ったかが肝になるんですよね。それは「詠み人知らず」の場合も一緒で、作者不明の場合はその「不明」であることに力点がおかれるわけです。そして、その「誰が」というのは、時代やらお国柄やらで色々変わっていきます。女子高生だったりスティーブジョブズだったり羽生善治だったり…どうしてその「誰か」に言わせたのか、というところを考えていくと、なかなか面白いなあと思うわけです*9

 

今回、およそキリスト教的「愛」に似つかわしくないブッダが選ばれたのは、この話が欧米の間でしか流行っていなかった経緯を考えると、旧弊なオリエンタリズムを感じたからなんでしょうか? ぜひみなさんもいろいろ考えてみてください。

 

 

*1:

どうもこの時期に「ブッダ」として広まったのは、あるFACEBOOKのページのようですが、制限されていて見ることができませんでした

*2:

個人的には、「花は摘むと枯れる」というようなくだりは、このソクラテスとプラトンの対話のくだりとも関係あるのかなと思いました。

Love, Marriage, Happiness, Affair, and Life – Muhammad Sahputra – Medium

これも本当かはわかりませんが。

*3:

Courage 勇気 P243

 

Rajneesh - Wikipediaも参考になります。

 

*4:

OSHOの講話の出典を知るためには、

○https://www.osho.com/osho-online-libraryから探す。

○Osho Collectionから探す

https://www.sannyas.wiki/index.php?title=Welcome_to_the_Sannyas_Wikiから探す

○Youtubeの公式動画から探す https://www.youtube.com/user/OSHOInternational/

が有効です。

OshoCollectionやSannyasWikiが現状いちばん確実ですが、私にはどんぴしゃは見つけられませんでした。

あとはテキスト化されていないかもしれない動画ですが(なさそうですけど)、公式は英語の字幕をつけてくれているので、それをダウンロードしては探す…という作業を30本ほど繰り返してきりがないことに気がついたので、だれか暇な人はやってみてください。

*5:

https://www.sannyas.wiki/index.php?title=Lead_Kindly_Lightより

*6:

https://www.sannyas.wiki/index.php?title=Satyam_Shivam_Sundram

*7:

https://www.sannyas.wiki/index.php?title=Take_It_Easy,_Vol_2 

*8:

例えば

「Books I Have Loved」

http://www.oshorajneesh.com/download/osho-books/personal_notes/Books_I_Have_Loved.pdf

*9:

あと、名言の差分を見ていくのも面白いです。OSHOからブッダへの名言自体の改変を見ていくと、よりリズミカルにシンプルになっているように感じます。