「グリーンカード」というと、アメリカのことを思い出してしまいますが、今日はサッカーの話題。
セリエBの「ヴィチェンツァ」に所属する「クリスチャン・ガラノ選手」が、フェアプレーをしたとのことで、その奨励賞である「グリーンカード」*1が「世界で初めて」与えられたとのこと。へえ、そんなカードがあるんですね。
と、わざとらしく書いた後、ソースがスプートニクであることにお気づきいただいたかと思うので、本当にそんなことがあったのか、調べてみました。
「グリーンカード」は出されていた
手っ取り早いのが、セリエBの公式発表を探すことです。すぐ見つかりました。
私が学生時代に苦しめられたイタリア語ですが、Google先生がいれば怖いものはありません。
さて、プレスリリースおよびSerieBのサイトによれば、10月1日の対Virtus Entella戦において、Visenzaに所属するCristian Galano*2選手が、Visenza側にコーナーキックの判定をレフリーがした際、ボールを(相手が)触っていないことに気づき、相手チームのゴールキックにした、みたいなことが書いてあります*3。ここはスプートニクも一緒ですね。
詳細のPDFが同記事には載っているので、そちらはもう少し経緯まで含めて書かれています。
Fair play: assegnato a Galano, Vicenza, il primo
Cartellino Verde della Serie B ConTe.it
上記によれば、観客の数は増えているし、退場処分を受けた選手が前年のシーズンよりも48.5%も減少しており、この「グリーンカード」の導入によって、フェアプレー精神が意識されてきている、みたいな事が書かれています*4。
どうやら本当に「グリーンカード」なるものは出されたようですが、併せて、どうも一般的なものではないらしいということもわかります。そもそも「グリーンカード」は、どうやって導入されたのでしょう。
前シーズンからセリエBで導入された
調べてみると、この「グリーンカード」は、2016年1月15日より導入されたことがわかります。
イタリア語で「グリーンカード」は「Cartellino verde」。上記記事らによれば、イタリア審判協会などと協同で制定し、プレーへのリスペクトや選手への社会的規範を求めるために作ったとの事。
ということは、裏を返せば、そういうカードを作る必要がイタリアサッカー界にはあるということであるとも言えます。ちょっと前ですが、ユヴェントスの八百長なんていうのもありましたものね*5。
Gazzetaの記事によれば、「毎月の終わりに発表される」とあるのですが*6、今回の試合は10月1日ですし、今シーズンは9月から始まってますので、前シーズンも含め、今までどうしてこの「グリーンカード」が出なかったのかは気になりますが、それはちょっとよくわかりませんでした*7。
なので、これはあくまで「バーチャルのカード」であり、実際の試合中に審判が出すわけではありません。試合後、某かの協議を経て発表される、というわけでしょう。なので、選手だけでなく、監督やチーム全体に贈られるということもありそうです。
「グリーンカード」は初めてではない
しかし、このフェアプレーへ贈られる「グリーンカード」、イタリアが初めてではありません。
実は、この制度自体は日本も前から使用しています。
日本サッカー協会が2008年度から「リスペクト宣言」という、フェアプレーを心がける運動の一環として作られたものです。レフリーは、以下のような行動に対して「グリーンカード」を提示できるそうです。
怪我をした選手への思いやり
意図していないファウルプレーの際の謝罪や握手
自己申告(ボールが境界線を出たとき:スローイン、CK、GK、ゴール)
問題となる行動を起こしそうな味方選手を制止する行為
警告も退場も受けず、ポジティブな態度を示す。
ごらん頂いてわかるように、これは「教育的配慮」が色濃く出た制度であり、もちろんプロのルールではなく、U-12の試合で使うことを奨励されているものだそうです。
かといって日本だけというわけでもなく、アイルランドのサッカー協会も使ってますし、
Green Card | Football Association of Ireland
正確ではないかもしれませんが、フィンランドでも、いいプレーをした選手に渡す、みたいなコメントもありました*8。
ちなみに、イタリアではこの「グリーンカード」の前に、「パープルカード」も出しています。
記事中に出てくる「特別フェアプレー賞『Cartellino Viola』」というのが「パープルカード」ということで、インテルのサネッティにあげた、ということになっています。これも試合中ではなく、シーズンのまとめとして表彰したということですね。セリエAのことですし、そしてこの2014年以降の受賞の話が見当たらなかったので、これっきりの話なのかもしれません。
「グリーン」の初出は何か
どうも、赤や黄以外の色のカードに特別の意味をもたせる、という行為は昔から行われていたようです。
で、初出はどこか、となると、発見できた最古のものは、2001年2月23日のBBCの記事。「Funny old game」というコラムです*9。
BBC SPORT | FUNNY OLD GAME | Well done, have a green card
Simon Sandersという選手*10が提言したもので、彼はあまりにもレフリーからカードをもらって辟易してしまい、それに対して「グリーンカード」を提案したのです。
"Refs are of course often perceived as quite a negative bunch, whereas with our new green cards, they will have the opportunity to reward players for their contributions to the beautiful game."
審判というのはまったくイヤなやつらだととらえられているじゃないか。だけどこの新しいグリーンカードならば、美しい試合のために貢献した選手を称える機会をもてるんだよ
しかし、彼の提言に対して、「スポーツマンシップを奨励する」けれども、どのプレイを評価するのか、試合をとめてまで行うことに意味があるのかなど、現実的な問題から難しいという内容の批判をプレミアリーグの前審判から引き出して、BBCはまとめています。
Sanders選手が、何かに着想を得て「グリーン」という表現をしたのかどうかはわかりませんが、少なくとも十数年前から、「グリーンカード」=「フェアプレー」というイメージはできつつあったようです*11。多分、信号の色からの着想だとは思うんですけど。
FIFAの解釈は違う
これは完全なおまけですが、FIFAの規程には、一応「グリーンカード」が存在します。
ペナルティカードの歴史を紹介する中で、FIFAは緑色のカードの存在に言及しています。
a green card is sometimes displayed to permit medical officials to enter the field to examine seriously injured players.
「グリーンカード」は時々、医療関係者が重傷の選手を診察するためにピッチに入ることを許可するために提示されます。
しかし、「まだ一般的に適用されてはいない」と続けており、あまり認知されていないことを認めています。この記事執筆が1999年ですので、もはやFIFAもその存在を忘れてるか必要ないと判断しているのでしょう。
ちなみに、一応出された試合もあるようです。
FOXスポーツで「Lyon」対「 Paris St.」の試合を見ていたときに、審判が「グリーンカード」を挙げたんだとか。実況はそのときに「時間をとめるために出した」みたいな説明をしたそうですが、この時点でも全く普及していなかったんですね。
今日のまとめ
①2016年10月1日の試合において、VisenzaのCristian Galanoのフェアプレーに対して「グリーンカード」が示された。
②これは2016年1月15日からセリエBで導入されたもので、試合中に出すものでなく、試合後に選手や監督などを称え、フェアプレー精神を奨励するものとして作られた。
③フェアプレーを称える「グリーンカード」という存在自体は、日本やアイルランドなど他の国でも見られるが、プロリーグで使われるのは初めてだろう。
④「グリーンカード」の提唱の初出は2001年のBBC。当時は否定的であった。
⑤FIFAが定める「グリーンカード」は、医療関係者のピッチ内への進入許可を示すが、一般的にはなっていない。
今回の「グリーンカード」について、イタリアのメディアは肯定的なようですが、批判もあります。
FIFAの国際審判も務めたロシアのIgor’ Egorovは、「カードが多すぎるし、そういう夢物語は捨てろ!」とご立腹で、「イタリア人はパスタを食いすぎたのか」と皮肉ってます。
結局、そういう「夢物語」の構想が長年存在しているということは、それだけサッカーが「フェア」でない部分がクローズアップされてきたということでしょう。個人的な感想ですが、サッカーというのは、とりわけそういう権力や金と結びついた事件やら不祥事が多いような気がします。それだけ世界的に規模の大きいスポーツなんでしょうが、サッカー自体がもつ普遍的な要素もありそうで、文化史的に誰かサッカーを紐解いてみると、なかなか面白いかもしれません。
*1:ちなみにスプートニクは「グルーンカード」と思い切りタイプミスしてます
*2:Cristian Galano - Wikipedia, the free encyclopedia
*3:8 'minutes of the second half the referee blows for a corner kick in favor of Vicenza, but Galano noted that the ball did not suffer any deviation, then these are goal-kick to the opposing team.
*4: l’aumento costante del numero degli spettatori sugli spalti, del pubblico televisivo soprattutto della correttezza come dimostra il numero di espulsioni, il più basso delle ultime sette stagioni con un -48,5% rispetto allo scorso campionato e addirittura un -58% in relazione alla 2014/15. あたり、だと思う。この-58%は2014/15のシリーズとの比較のすると-58%だと思うのだけど、ちょっと自信がなかった
*6:At the end of every month, an announce all names of the ‘green’ players.
*7:どうもその間にグリーンカードについて延期するような旨を書いたように読める記事をいくつか見つけたのですが、イタリア語が解読できなかったのでやめました
*8:In Finland, there's a big tournament where a green card is shown to one player from each side after every match. The following player has either played well, or been fair in the match.
WTH!? A Green Card in Soccer??? [Archive] - Soccer Gaming Forums
*9:これはサッカーでの決まり文句で、「サッカーって不思議ですねえ」ぐらいの意味。ちょっとおかしなスポーツの出来事を紹介しているコラムでしょうか。
サッカー選手や監督がよく使う決まり文句やフレーズでサッカー英語を勉強する方法:サッカーで英語を勉強する方法を紹介
*10:実際にどの選手かはちょっと面倒くさくて詳しく調べませんでしたが、以下の記事によれば、チャリティー的な試合でLBCRadio側の選手として出ています。
Introduction - The Day I Played At Wembley
*11:ちなみに他のスポーツでもグリーンカードは存在します。
Penalty card - Wikipedia, the free encyclopedia
フィールドホッケーは三角の緑のカードで、警告を表すそうです。イエローが一時退場、レッドが即時退場だそうで、まあ注意程度の意味なんでしょうね