今日もおなじみスプートニクの話。
「地元魔法使い」のすすめで、イン○テンスに悩む南アフリカの兄弟たちが、クロコダイルの強姦を試み、その最中に他のクロコダイルに襲われ死んじゃったという話。色々ひっかかりそうなワードが多くて困ります。
いや、そんなにアフリカは万能じゃねえよと思いながら、地名の「Limpopo」「crocodile」で検索をかけると、あらお早い、sopesがすでにファクトチェック記事を書いていました。
というわけで、今回はsnopesさんにおんぶにだっこしながら、なぜ「ワニの強姦」の話が広まっていくのか、という記事にしちゃいたいかと思います。
魔法使いは出てこない
今回のスプートニクの記事に一番近い英語記事は以下のものになるかな、と思います。
Epic disaster as Limpopo brothers are killed while raping a crocodile - ZIMBABWE NEWS | ZW NEWS
日付が記事内にないのですが、アドレスから察するに12月8日のZW NEWS。ジンバブエのメディアですね。Limpopoに住む兄弟たちが、「男性の問題(problems with their manhoods)」を解決するために、「Sangoma」の指示で、ワニを強姦したとのこと。「Sangoma」は「魔法使い」というより「呪術師」みたいな感じが日本語的には近いと思うんですけど、まあ瑣末なことです。
しかしながら、この話はもっと前より英語圏で存在しています。
「Limpopo Brothers Gang RAPE crocodile that had been EATING their livestock」-CRAZY NEWS 24
「Limpopo Brothers Gang RAPE crocodile that had been EATING their livestock」-AFRICAN NEWS UPDATES
AFRICAN NEWS UPDATESは10月19日、CRAZY NEWS 24は残念ながら日付はありませんが、双方ほとんど同じ内容です。
実は、こっちの記事では、兄弟は「殺された」ことにはならず、「逮捕された(arrested)」ことになっています。理由も、「男性の問題」ではなく、ワニが彼らのヤギを食べちゃうことから、その「復讐(revenge)」として、ワニにマジモンの辱めを受けさせてやろうという事で、強姦したんだと主張しています。魔法使いは出てきません。んんん?
元ソースはフェイクニュース
上記の記事ソースは全て「iMzansi」もしくは「mzansi life」となっています。ザンビアのメディアのようです。
日付は10月18日。これが今回のニュースの発端でしょう。内容は変わらず、ヤギを食ってたワニを懲らしめるためにした、という話です。
しかしながら、このiMzansiというニュースは、自身が言及している通り、「しばしば半分ホントかほとんどフィクション(often in semi-real or mostly fictitious)」の方法で記事を書き、「フィクション」か「フェイク」のニュースを発信するという事です。
ということで、このワニ云々の話は、どうも信憑性がかなり低そうだという事になります。
ワニがいる川という共通認識
今回の舞台になっているLimpopo riverは、「crocodile river」と呼ばれる場所があり、多数のワニやカバが生息していることでも有名です。実際に、家畜や人間が被害にあっていることも多いようです。
LATEST: Girl 5 goes missing at Limpopo River after hippo attack | The Herald
Limpopoは南アとジンバブエの国境沿いにあり、
違法に南アへ渡ろうとする周辺国の人が被害にあう、ということもあるようで*1、要は、「Limpopoと言えばワニの被害」という共通認識が、南ア周辺のアフリカの国々ではある、と思っておけばよろしいのですな。日本で言う、「JKがマックで話してたんだけど」並みの枕詞でしょうか。この話が広まり改変されていく背景には、「Limpopo=ワニ」という図式があるということがベースの一つになっているようです。
ワニはなぜ強姦されるか
そして、しばしばワニはレ○プされる対象としてニュースを賑わせています。
フロリダ州の59歳の男が復讐のためにワニをレ○プしたという話ですが、これもまたSnopesによってフェイクと認定されています*2。
他にも、動物園の従業員がワニとちょめちょめしたという話なんてのもありますが、これもフェイクのようです。
「ワニを強姦する」という、センテンスは、世界的に拡散されやすい何かを持っているということでしょう。推察をするならば、「ワニ」という存在は人間に比して圧倒的な暴力的存在であり、人間は蹂躙されていくしかない*3。しかし、そういう圧倒的な存在を、レ○プという手段において自身の支配下におくという行為は、何か人間の根源的な欲望に触れるものがあるんではないでしょうか。無論、それを肯定する気はありませんけれども。
今日のまとめ
①「ワニを強姦」のニュースは、「男性の問題のためにして殺された」バージョンと「家畜被害の復讐として行い逮捕された」バージョンの2種類が存在する。
②元ソースの記事はフェイクニュースサイトであり、信憑性はほぼない。
③舞台となったLimpopoはワニが多数いることで有名であり、今回の記事の拡散するきっかけのひとつになっている。
④「ワニを強姦」というニュースはこれ以外にもしばしばデマが流されていて、広まりやすい性質をもっているようである。
そろそろ当ブログも200記事になるのですが、デマが広がるためには、人々の心をぐっと掴むすてきなミームがないといけないんだな、というのを感じます。それは必ずしも、「徳川埋蔵金」とか「ムー大陸」とか、ことさら刺激的なワードでなくてもよくって、むしろもっとシンプルな言葉でもって表されるものです。
今回で言えば、それは「アフリカ」です。「アフリカ」というワードは、辞書的には六大州のひとつですが、私たちはそこから、「未開の地」「黒人」「犯罪」など、様々なイメージを共有します(真偽はともかく)。私たちは文章を字義通りに読んでいるだけではなく、その裏のイメージを補完しながら(都合のいいように解釈しながら)、読んでいるという事になります。多数決的にそれが共感を得るのであれば、その情報は真偽に関わらず、人口に膾炙していくのでしょう。
これは読み手側だけでなく、書き手側にもいえることで、事実を事実として書いたにも関わらず、ある一つの方向でもって、意図しない形で読みとられていくということがあります。何十億人という人間がいるので、それは仕方のないことですが、しかし書き手側というのは常にそういう言葉の選び方、というものには注意していきたいものです、と自戒をこめつつ、今日の話を終わります*4。
*1:ずばりの記事ではないけれど、その川を渡るための舟の渡し役から被害を受ける、という話
Paedophile boatmen demand sex from girls to ferry them across crocodile river | Daily Mail Online
*2:Darwin's Revenge : snopes.com
*3:ワニを神様にしているとこもありますし。セベク - Wikipedia
*4:スプートニクはその点において最低レベルにあるメディアですが…