インドでサルに育てられた少女が救出されたというニュースが話題です。
「衣服を身に着けて」おらず、「サルの群れの中」で過ごす少女が保護されたんだとか。彼女は、「動物のように四つん這いで走り、床から物を食べた」り、「話すことはまだでき」ないとのこと。
どうもこうも疑わしいニュースです。調べてみました。
各国のメディアの反応
この話、英語圏のメディアでけっこう大々的に報じられています。
4月6日のAP通信が大手メディアでは初出に近いでしょうか。「インドの森でサルと一緒に暮らす少女が見つかる」という見出して掲載されています。
4月7日のBBCは「サルと一緒に生活している少女の両親をインド警察が捜している」との見出しで報じています。ただし、「どのぐらいの期間、森にいたかは不明」と慎重に付け足しています。
インドの国内紙ではTimes of Indiaが初出かと。4月6日。
すげー顔写真が載ってるんですが、人権的にOKなんでしょうかね。ただ、世界的にはこの話につられている感じです。インドのメディアは、ジャングルブックにならって「Mowgli」とこの女の子を呼んでいます。
「サル」には育てられていない
しかし、その後、この話を否定する記事がいくつも挙がっています。
警察は「服も着ていたし、サルもいなかった」し、少女が「道路に座っていた(sitting by the road)」と証言しています。
巡査長は、
“We believe she was abandoned by her parents, who could not take care of her because of her mental condition.”
我々は、彼女が、彼女の精神的な障害の理由で両親から捨てられたと考えています。
と答えています。彼女の「野生的」な行動は、要するに精神的な疾患によるものではないか、ということです。
HinduTimesでも、今回の報道に懐疑的な見方を伝えています。
少女が見つかったとされる森の管理者は、「何台ものカメラがある」保護区で何年も森にいるということは「現実的でない」と指摘しています。その上で、
“The girl might have been left in the jungle by her parents because of mental illness. But it was probably not long before police team rescued her. The theory that she was brought up monkeys seems absurd,”
おそらく精神的な疾患を理由に少女は両親に遺棄されたのだろ。だが、警察たちが彼女を救出するよりもそんなに前ではないはずだ。サルに彼女が育てられたというのは疑わしく思える。
と結論付けています。
サルに育てられたという神話
この、サルやオオカミなどに「育てられる」という話は、ジャングルブックだけでなく、「実例」としてたびたび報道されています。
上記記事では、イギリスで1851年のWilliam Henry Sleemanのオオカミに育てられた子どもという話が初出ではないか、と述べています。
しかし、これらの話には疑わしいものが多く、「アマラとカマラ」でよく知られるオオカミ少女の話は、現在では自閉症や精神障害の孤児だったのではないか、とされています。そこらへんの話は、下記の本が詳しい。
増補 オオカミ少女はいなかった: スキャンダラスな心理学 (ちくま文庫)
- 作者: 鈴木 光太郎
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2015/05/08
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「ジャングルブック」もインドが舞台ですが、この「インド」と「森」と「動物」というキーワードは、長年語り継がれている神話めいたものということでもあるのでしょう。
今日のまとめ
①4月6日のインド国内紙の報道を元に、英語圏を主にして広がった話である。
②しかし、すぐに「服を着ていた」、「サルがいなかった」などの情報が加えられ、「サルに育てられた」という話は非常に疑わしい。
③少女は、精神的な疾患を理由に両親に捨てられたのではないか、と推測されており、このタイプの話はたびたび語られてきた。
結局この話は、インドが抱える貧困と人権的無理解の悲劇です。これをただの「おもしろい話」ではなく、現代に残る神話の産物として、日本のメディアも追記してほしいものです。