ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

ネットで知り合った彼氏がブサイクすぎて自殺しかけた女性はいるか、バイラルメディアと末摘花

古今東西、男女問わず、なるべくなら見てくれのよい方とお付き合いしたというのが人情ですが、それが叶わず自殺しかけた人という話。

 

gogotsu.com

 

中国の牡丹江*1に住む女性が、ネットで知り合った男性に現実世界であったら、あまりにも「ブサイク」で、7階のバルコニーで「自殺する」と言い出したあと、「睡眠薬を飲み込み」「割れたガラスの破片で手首を切った」ということ。命に別状はなかったようですが、「いくら私がブサイクでも(自殺するのは)酷い。一緒に泊まろうとホテルに誘ったのも彼女が先だ」と訴えたとのこと。この手の話は、シンガポールでもあったよ、というところで記事は終わっています。

 

しかし、後述するように、ゴゴツーさんは中国の話なのにソースをアルゼンチンにしているので、どーなんかねーという感じでコツコツ調べてみました。

 

 

 

***

 

 

中国の話は実在するが、古い話で細部も違う

さて、先ほども書きましたが、ゴゴツーさんのソースはなぜかアルゼンチンのものです。どっから拾ってきたんだ。

 

Mujer que se corta las venas al encontrarse personalmente con su novio virtual | Universal

 

内容はほぼ一緒ですが、日付が2015年8月13日と、これまたずいぶん昔の話です。よっぽどネタに困っていたんでしょうかね。

 

このままでは全く信憑性がないので、中国ソースのものを探したいところです、ということで探しました。

 

www.chinatimes.com

 

網戀「高富帥」走樣 她崩潰鬧自殺 | 世界新聞網

 (*上記リンクは、より鮮明に女性の写真が写っているので、やや閲覧注意)

中時電子報と世界新聞網が、この話を詳しく載せています。日付は2015年7月26日と、先のアルゼンチンのものよりまた少し時間が戻りました。

 

この記事ソース自体は、Weiboで展開されている「牡丹江晨報」というローカルメディアの投稿がきっかけのようです*2

 

記事内容は、どうもアルゼンチンの内容とは細部が違います。記事の内容は以下の通り。

 

吉林省四平市に住む23歳の小葉(仮名、もしくはハンドルネーム)は、インターネット上で、背の高いハンサムな男性に出会い、恋に落ちた。

②2ヵ月後、二人が馴染みのある牡丹市でその人物に会ったところ、実際は33歳で、背も低く、汚らしい格好で、態度もオドオドしていて、写真と大いにギャップを感じた。

③男女が激しく言い争いをしているということで警察が駆けつけると、女性は7階のバルコニーから片足を出して自殺するそぶりをみせ、「よくも騙したわね!」というようなことを叫んでいた。

④初めの説得で二人は平静を取り戻したようだったが、警察が女性を住居まで送り届けようとすると、彼女は突然、ガラスの破片と睡眠薬を飲み込み、且つ破片で腕を切りつけ自殺を図った。警官はすぐに彼女を病院へ送った。

⑤女性の母親によると、彼女は内向的で、あまり人と交流をしなかったという。男は黒竜江省の綏化市の人間で、インターネット上で交際していたことは知っていたというが、母親は交際に強く反対していた。

⑥男性は、「自分を過大に見せたことはない」と言っているという。

⑦女性は命に別状はないが、体の内部にガラスの破片が残っているので、経過を見ている。

 

まず、女性の住んでいる場所が違うこと、自殺に至る経緯に少し違いがあること、手首を切っただけでなくガラスの破片まで飲み込んでいること、男性のコメントが少々違うこと、などの細部が違います。もしかすると別ソースがあるのかもしれませんが、伝言ゲームのような感じで伝わっていったと考えるほうが妥当ではないでしょうか*3

 

中時新報によれば、この話が拡散されたのは、インターネット上に彼女らの喧嘩の様子が拡散されたからのようで、女が道端でなじったり、「そこらへんの人に判断してもらおうじゃないの!」と叫んでいる様子が映っていたようで、そういう盛り上がり方をしていたみたいです。ついでに、中時新報は、今回の話と関係あるかは不明ですが、同月22日に、そういう「ヤサ男」を使って、人妻などから金を騙し取っていた詐欺集団を捕まえた旨を付け加えています*4

 

シンガポールで同じような事件は起こったのか

 ゴゴツーさんは、シンガポールでも似たような事件があったとしています。2016年11月2日の記事。

gogotsu.com

(*上記リンクは飛び降りた後の男性の姿が遠めでも写っているので閲覧やや注意。以下のリンクには全て男性の姿が写っているので、念のためご留意ください)

 

5ヶ月前にSNSで知り合った男女がショッピングモールで会ったところ、女性は「まるで別人」で、男性はショックを受けて4階から飛び降り、男性は死んでしまったとのこと。

 

ゴゴツーさんのソースは以下の韓国語のニュース。2016年10月31日。

http://www.dispatch.co.kr/599631

 

これもまた、どーしてシンガポールの話なのに韓国ソースを出すのか不思議です。なので、シンガポールの記事を探したいところです。

 

ところが、これがなかなか難しい。

 

韓国語のソースが恐らく参照したのは、中国語系の記事のようで*5、シンガポールそのものではありません。

 

で、記事に載っている男性の名前で検索をかけて、いろいろ条件をしぼりながら見てみると、恐らく以下の記事が初出に近いのではないか、とおもわれます。

 

web.archive.org


 

日付は2014年5月25日とこれまたずいぶん古い記事です。「Pinoytrending」というサイトで、「Pinoy」はフィリピン人の意味ですので、フィリピンのニュースのようです。シンガポールじゃなさそうですね。且つ、ゴシップ系のメディアだという事に留意が必要です。

記事の内容は以下の通り。

 

①女性の方はFacebookやtwitterで有名なお美しい方で、男性とはオンライン上で知り合った。

②彼女は写真を常にアプリで加工し、魅力的にみせることをしていた。

③4ヵ月後、現実に彼女と会った時に彼はあまりの違いにショックを受けた。

④その2日後には、彼は「僕は君を美しいと思ってたけど、そう信じるなんて馬鹿なことだ。だって君にはフィルターがかかってたんだから」とのコメントを残す。

⑤この後、ショッピングモールで彼は叫び、自制心を失って、4階から飛び降りた。

 

フィリピンの話だったり、会ってから死ぬまでにブランクが空いてそうだったりと、色々と齟齬が気になりますが、この記事で注目したいのは、ゴゴツーや中国・韓国のメディアが載せている、その女性の写真が掲載されていないことです。載っているのは、フロアに男性が倒れている写真のみ。

 

①にもあるように、この男性が「付き合っていた」と称される女性は、有名な人物、ということになっています。そして、ゴゴツーなどに掲載されている女性の写真は、シンガポールのある有名ブロガーです(名前は伏せますが、画像検索をすればすぐ出てきます)。

 

しかしながら、彼女は2010年には既に結婚していますし、現在載っている写真は、彼女が「太ってた頃」の写真として彼女自身が載せたものですし(どうやって私がやせたのか、みたいなページにのっています)、その写真も事件前の2012年3月に掲載したものですし、何よりフィリピンとシンガポールの違いもあり、果たして今回男性が会った女性とシンガポールのブロガーが同一人物なのかどうかは疑わしいところです。恐らく、誰かが勝手にシンガポールのブロガーの写真を記事と一緒に掲載し、そしてそこから、この話が「シンガポール」の話として尾ひれはひれついていったというところではないでしょうか。

 

もう少し踏み込めば、今回の件で真実味がある点は、床に倒れている男性の写真だけです。この写真だけでは、いったい何が起こったのかはっきり言ってわかりません。男性が「自殺」したのか、そもそも「死んでいる」のか、ただケガをしているだけなのかもわかりませんし、よしんば「自殺」としても、いったいこの記事を書いた人は、彼がネット上の恋人とリアルで会ったという事の顛末の情報を、どこで仕入れたというのか。個人的には、ネットにある一枚の写真に、誰かが勝手に憶測で情報を付け足した記事、という印象がぬぐいきれません。

 

実は、同じ年の3月に、「Robinsons Place Manila」というモールで、「4階」から、男性が飛び降りて死亡しています。

news.abs-cbn.com

この記事では、亡くなった男性が自殺かどうかまでは言及していません。

上記サイトの写真と今回の写真がどこまで似ているかは難しいところですが(床の色合いとかは似てるんですけどね)、そうそう立て続けに同じような場所で同じ階から飛び降りて、且つ骨を折った場所も同じ*6という事はないと思うので、同一事件と考えるのが妥当ではないでしょうか。

 

とすると、「実は男性の死にはネット上で知り合った女性が…」という「真実」が明るみに出たというよりかは、誰かが面白おかしく写真の記事に付け足したというほうが、可能性としては大きいかと思います。

 

今日のまとめ

①ネット上で知り合った男性の見た目に幻滅した女性が自殺未遂をしたという記事は存在するが、今から1年以上前の話であり、出身地や経緯など、現在日本語で出回っている話とは細部に誤差がある。

②シンガポールでネット上で知り合った女性に幻滅したという男性の話は、元々は2年以上前のフィリピンの話であり、かつ情報がかなり不正確であり、記事としての信憑性はとても低い。

 

想像と見た目が違う、なんて話は古来からあるもので、『源氏物語』の末摘花の話なんかは、勝手にイメージを膨らませた光源氏が見た目にがっかりする、というお話ですしね(その後挽回していますけど)。

 

こういう海外のメディアの報道も、バイラルメディアによって、記事の面白さという「イメージ」が優先されて報道されるので、その事実については蔑ろにされがちです。ぜひ、末摘花の実直さを見習って、イメージにこだわらず、「がっかり」しても、事実のほうを大事にしてもらいたいものです。

 

*1:なぜかゴゴツーさんは「牡丹」をふりがなのつもりでか(モラン)とかいているのですが、「牡丹」は中国語的にはMŭdānなので「モラン」とは読めません。韓国では牡丹を「モラン」と読むそうなので

http://www.kpedia.jp/w/4915

この記事を書いた人は韓国系の方なのかな?と推察できます。と思って、ゴゴ通信全体を読んでみると、韓国の記事が多いので、母体はあっちの方なのかしらん。特に他意はないんですが、韓国がおきらいなまとめブログ系がこぞってソースにしているのが何というか、節操がないというか。

*2:そのソースは見つかりませんでした。

牡丹江晨報的微博 - 微博台灣站

*3:どうも、スペイン語圏・ポルトガル語圏の記事が、その後よくひっかかるので、そこらへんで色々尾ひれはひれついたのかと

*4:ついでに、自殺防止のホットラインの電話番号まで載せています

*5:恐らくここ。

【女友真面目太丑了!】中国男子疑似接受不了远距离女友的真实素颜,相约见面后即在广场高处跳下自杀身亡! - The Coverage 中文版

これは、自殺した男性を中国人の男と断定していますが、ちょっとその理由はわかりません

*6:肋骨を折っているという点はどちらも一緒です