ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

メンタリストの「宿題不要論」についてのいくつかの指摘、利巧な奴はたんと反省してみるがいい

少し前、私が書いた2年前の記事のアクセスが伸びていました。

 

www.netlorechase.net

 

なんでなのかなあと思ってエゴサしてみたら、なるほど、メンタリストDaiGoなる人が以前、「宿題が無意味」という話をクーパー先生の研究とからめて話したところ、それがいろいろと批判されて、「謝罪動画」を出した、という経緯があるようです。以下がくだんの動画です。

 

www.youtube.com

 

いや、本当に恥ずかしい話、私はこの人と「ウィッシュ」の人の区別もつかなかったぐらい世事に疎くて、初めてこの方の動画を拝見したのですが、うーん、今はこういうのが人気あるんですねえ…

 

しかしながら、「論文の中を読めば僕の言ってたことはわかる」と豪語する割には、上記の動画で引用されている情報の多くが不正確であり、いかがなものかと思いましたので、いくつか訂正していこうかと思います。

 

【目次】

 

 

 

***

 

中学生の宿題の相関は小さいか

さて、メンタリストDaiGo氏は、クーパーの2006年の研究について以下のように述べています*1

 

宿題はすべての世代に対して、完全無意味というわけではございません。(中略)中高生には確かに宿題には意味があると思わせる相関が出ていますよ、ということが書かれています。中学生なら宿題をやることは役に立つ可能性があるが、その相関はかなり小さいでしょう。高校生であれば、宿題で成績があがる可能性が高いですよ、と書いてあるんですね。

 

「中学生と宿題の効果の相関はあるけど小さい」と聞こえるわけですが、クーパー2006にそのような記述はありません。

 

For grade level, there was strong evidence that homework and achievement were positively related for secondary school students.

学年別にみると、宿題と達成度に関しては中学生に正の相関があるという強いエビデンスがあった。

Cooper(2006) P49

 

Under fixed-error assumptions, the correlation between time spent on homework and achievement was significantly higher for secondary school students, r = .25 (95 % Cl = .251.25), than for elementary school students, r = .06 (95% C l=-.00/. 11), (2(1)=47.48, p < .0001.

固定誤差仮定においては、宿題に費やした時間と達成度との相関は中学生の方が小学生より高かった(引用注:数値は訳から省いた)。

Cooper(2006) P45

 

短時間の方がよいだろう、という記述はあります。

 

For junior high students the positive relation appeared for even small amounts of time on homework (less than 1 hour per night) but disappeared entirely after students reported doing between 1 and 2 hours each night.

中学生においては、短時間の宿題(1日1時間未満)でも正の相関がみられたが、毎日1-2時間の報告をした学生からは相関が消えた。

前掲 P52

 

これはクーパー自身の1989年の研究のメタ分析の結果によるものですが、あまりに長い時間の勉強は効果がない、つまり、宿題にかける時間と達成度との関係を比べているということであり、これは中学生の宿題と達成度の相関が弱いということにはなりません*2

 

小学生の宿題のエビデンスはないのか

続いて氏は、「2つ目のポイント」として、小学生と宿題の関係について以下のように述べています。

 

ただし、小学生に関しては、学力に与える影響はほとんどゼロと考えられるような結果しか出ていないんですね。(中略)もっと詳しくみると、小学生に対して宿題を出すということがですね、成績をあげると実証したエビデンスはありません。逆に、小学生に宿題を出すと何が起きるかというと、学習への興味が失われる可能性がある。これは、一番最初に引用したクーパーさんの論文を引用しているんですけど、クーパーさん自身も、この点は懸念している。

 

自分から「クーパー2006を引用している」言ってるんですから、「・小学生の宿題と成績向上のエビデンスはない」「・小学生に宿題を出すと学習への興味が失われる」という内容が、Cooper2006の研究に記載されている、と言っているわけです。

 

まず、「・小学生の宿題と成績向上のエビデンスはない」について見ていきますが、うーん、これもどうでしょ。

 

クーパー自身の論文を含みますが、Cooper2006には3つの研究が提示されています。

 

The three studies that used elementary school students (Cooper et al., 1998; Olson, 1988; Wynn, 1996) all revealed positive relationships between the homework measure and achievement

小学生を対象とした3つの研究(略)ではすべて、宿題と達成度の間に正の相関があることがわかりました。

前掲 P28

 

ただ、上記の研究は評価方法が多様なので注意が必要なようです。クーパーの論文は分析統合なので、もちろん他の研究のグループについても分析を行っています。強いて言うならこの箇所がネガティブに読み取れます。

 

A significant, though small, negative relationship was found for elementary school students, using fixed-error assumptions, but a nonsignificant positive relationship was found using random-error assumptions.

注意すべきことに、小さいながらも、小学生において、固定誤差仮定では(宿題と達成度の)有意な負の相関関係が見られたが、偶然誤差仮定においては、有意ではない正の相関関係が見つかった。

前掲 P49

 

宿題の時間と成績向上に関しては、以下のような記載があるので、その部分は効果がない、と読み取れます。

 

Only one study was available for grades 1-6 but the lack of a simple linear relationship at these grade levels suggested the line would be flat.

1から6年生を対象とした研究は1つしかなかったが、これらの学年のレベルでは線形関係が欠けており、相関にはならないだろうことが示唆される。

前掲 P52

 

また、前述したように、宿題の時間と達成度の関係においては、小学生の相関は弱く結果が出ています。

 

クーパーは、学年が下がるほど宿題と成績の相関が弱くなっていく理由を、次のように記載しています。

 

  • 認知心理学的に、年少者ほど刺激を受けやすいため、家庭での勉強ははかどらない。
  • 年少者ほど学習の効果自体が低く出る。
  • 年少者を担当する教師は、子どもの時間管理を促すために宿題を出すことが多い。
  • 学校で苦労する年少の子どもほど、宿題を完了するのにより時間をかけている。

 

クーパーとしては、どうも教師は、そもそも年少の学年において、宿題と成績向上が合致しないことを知っているからこそ、成績以外の目的(毎日の勉強の習慣づけとか)で出すことが多いのではないか、という立場です*3

 

むしろクーパーとしては、この小学生に対しての研究の少なさを指摘しています。

 

Finally, a perusal of Tables 3 through 8 suggests that few studies exist examining the effectiveness of homework in the early elementary school grades. This may be an especially important omission because of the apparent increase in the amount of homework being assigned to students in these grades (Hofferth & Sandberg, 2000).

最後に、表3から8を精読すると、低学年の宿題の効果を調べる研究はほんの少ししかないことがわかります。これは、低学年への宿題の割り当てが明らかに増えていることを考えると重要な欠如です

前掲 P53

 

*4

 

前の記事でも指摘したんですが、この有名な「小学生の宿題の成績を向上させるという効果にエビデンスはない(There is no evidence that any amount of homework improves the academic performance of elementary students.)は、Cooper2006ではなく、Cooper1989に記載のあるものと推察されます。エビデンスがない、というか、そもそもエビデンスを語るほど対象とした研究が少ない、という主張の方がメインでしょう。

 

また、氏のいう「・小学生に宿題を出すと学習への興味が失われる」という箇所は、前述した認知心理学の「低年齢ほど刺激を受けやすいから家庭での勉強がはかどらない」が強いて言えば近いですが、ちょっと意味が違いますよね。本当に引用したならページ数まで指定してほしいところです。

 

前の記事でも書きましたが、クーパー先生は、2010年のNYTで、「学年×10分」ルールが「我々の分析と一致する(That recommendation is consistent with the conclusions reached by our research analysis)*5」としており、短時間の宿題が小学校において勉強の習慣を身につけることに役立つとしています。

 

「宿題は禁止」の人はいない

氏は、「宿題は禁止すべきだ」という点については「出典を示さなかった」として、こう述べています。

 

ミズーリ大学セントルイス校のですね、ケーシー・バターロット(ママ)教授とかもですね、小学生の宿題にメリットは確認できない、と実際断言しております。他にも、フロリダ州のマリオン郡学区の研究チームも、小学生に対する宿題は禁止っていう指示を実際に出してるんですね。ただし間違いちゃいけないのが、子どもの読書は推奨しています。

 

というわけで、氏は2つの「出典」を示しているわけですが、果たしてこの2つの事例が「宿題は禁止すべき」と主張しているか今度は調べてみましょう。

 

氏は、Youtubeの説明欄に、ケーシー・バターロット=Cathy Vatterott=キャシー・バテロット*6の著作をソースとして挙げています。

 

Rethinking Homework, 2nd Edition: Best Practices That Support Diverse Needs

Rethinking Homework, 2nd Edition: Best Practices That Support Diverse Needs

 

 

電子書籍が普及していいことの一つが、海外文献がすぐに手に入るところです。3326円もするんですけどね。仕方がないので買いました。

 

さて、バテロットは、著作の中で宿題についてこう述べています。

 

To reach our long-term goals as well as to meet short-term academic purposes, it is necessary to create a new homework paradigm that focuses on academic success for all students.

短期的な学習上の目標を達成するだけでなく、長期的目標を達成するには、すべての学生の学業の成功に焦点を当てた、新しい宿題のパラダイムを作成する必要があります。

Chapter 4 Effective Homework Practices

 

あれ、宿題は禁止してないじゃないか…。

 

バテロットは、アメリカの宿題に関する流れを、「小学校の宿題を禁止」したり「読書を推奨」したりと、「宿題減少(less homework)」だとした上で、こう述べています。

 

Among those opposed to homework reform, a rather simplistic view has arisen mislabeling today's reform efforts as flat-out anti-homework and claiming that there are only two positions on homework: for or against. Although this is clearly a false dichotomy, attempts by schools to diminish the homework load do often provoke kneejerk opposition and accusations of "dumbing down" our children's education.

宿題の「改革」に反対する人の中には、現在の「改革」の取り組みを全面的な「アンチ宿題」と誤解し、宿題には「賛成か反対」の2つの立場しかないと主張する、かなり単純な見方が生じています。これは明らかに誤った二分法であるものの、宿題を減らすという学校の試みはしばしば、お定まりの「学力低下」という反対や非難を引き起こす。

Chapter 1 The Cult(ure) of Homework

 

つまりバテロットは、「宿題は禁止する/しない」という二分的な考え方は「誤解」であり、そうではない、新しい宿題の方法を再考すべき(だからRethinkingなんですよね)という立場の人です。少なくともこの本の中で「小学生に宿題のメリットは確認できない」なんて言ってません*7。言ってるんならページ数を教えてください。

 

実は本を買わなくたって、バテロットが単純に「宿題は禁止すべき」とだけ言っていないことはすぐにわかります。検索すればいいんです。

 

she is not opposed to homework per se. But she believes that most of it is a waste of time, if not counterproductive, and that we need to radically change how we design and assign it.

バテロットは宿題自体に反対しているわけではありません。しかし彼女は宿題の多くが、非生産的とまでは言えないにしろ、時間を無駄にしており、我々はどうにかしてデザインと割り当ての方法を変えていく必要があるとしています。

Making Homework Matter: Don't Ban It, Fix It - Pacific Standard

 

Homework that allows students choice, that allows them to pick a way to learn something that works for them. I say that nothing should go home that doesn’t have a “learning target” on it. In other words, “Why am I doing this?” And when students have some autonomy in what they’re doing then it becomes more meaningful to them.

(学習課題の習熟に適した)宿題は、生徒の選択によるものであり、何かを学ぶために自分にあった方法を選び取るようなものです。「学習課題」のない家に帰るべきではありません。言い換えるならば、「どうしてこうするんだろう?」ということであり、生徒が自分のしていることに自律性がある程度あるならば、宿題はもっと意味のあるものになるでしょう。

Ask an Expert: Cathy Vatterott advocates for homework that benefits the learning styles of all students - UMSL Daily | UMSL Daily

 

繰り返しになりますが、バテロットは決して「宿題は禁止すべき」と言っているわけではない、ということです。

 

マリオン郡の小学校の宿題禁止は成功したか

もう一つ挙げていた「フロリダ州のマリオン郡」の小学校で宿題が禁止になったという話ですが、これは本当です。マリオン郡公立学校のページにも記載*8されています。

 

Elementary students attending Marion County Public Schools no longer have the every night, traditional meaningless homework. Research, including that of Dr. Richard Allington (University of Tennessee), indicates such homework does not positively impact students as it once did. Instead, elementary students should be reading texts of their own choosing with their parents and family members at least 20 minutes every night.

マリオン郡の公立小学校に通う生徒は、毎日出されていた習慣的な意味のない宿題がなくなりました。テネシー大学のDr. Richard Allingtonの調査を含む研究によれば、宿題がよい効果を及ぼさないことを示しています。代わりに、小学生は少なくとも毎晩、20分は両親や家族と自分の選んだ本を読むことを読むべきだとしています。

Public Relations / Rumor Control

 

ところが、この試みは賛否両論になっています。

 

教員にとっては、

 

The board has suggested that Maier’s policy amounts to micromanaging. Members want to make sure educators can’t be punished for doing what they think is best for their students.

教育委員会は、Maierの主張はマイクロマネジメントに相当するものだと意見しています。委員は、教員が生徒にとって最良のことと考えて行ったことについては罰せられないようにしたいと考えています。

'No homework' policy gets bad grade - News - Ocala.com - Ocala, FL

 

 と、強権的な取り組みに86%もの教師が反対を示し、また、生徒の成績に関しては、

 

Board member Nancy Stacy called the “no homework” experiment a disaster and said it’s one of many reasons the district “is one of the worst performing districts in the state.”

委員のNancy Stacyは「宿題禁止」の実験を災害と呼び、「州内でもっとも成績の悪い地区の一つである」理由の多くの中の1つだ、と述べています。

同上

 

また、読書の取り組みを提案したにもかかわらず、適切なガイダンスを促さなかったりと、前途多難な様子がうかがえます。この取り組みは2017年から始まったもので、上記記事はその1年後の2018年のものですから、まだ効果についてはなんとも言えませんが、数ある「宿題禁止」の学校からわざわざ「マリオン郡」を選んだんですから、そこら辺のところも紹介するのがフェアってものでしょう。

 

探せば「宿題禁止」をうたう研究者や学校はもっと出てくるはずなのに、どうしてわざわざこの2例を選んだのか理解に苦しみます。どちらも日本語記事*9が出ているので、まあ、検索したらたまたま引っかかったんじゃないんですかね。

 

SALONの記事だけ読んだのではないか

と、見てきた通り、「ほんまに論文読んだんかいな」というような誤読とすらも言えぬ主張を繰り返す氏ではありますが、私の推察を申し上げると、おそらく氏は、このクーパー論文が広まるきっかけとなった、2016年のSALONの記事だけ読んだのではないか、と考えられます。

 

www.salon.com

 

まず、SALONには、有名な「There is no evidence that any amount of homework improves the academic performance of elementary students.」のくだりが、クーパーの言葉として紹介されています。

 

また、SALONは

 

Even in middle school, the relationship between homework and academic success is minimal at best.

中学生でさえも、宿題と成績の向上の相関は最小限に留まる。

 

としていて、これも氏の主張と合致します。

 

また、「小学生に宿題を出すと学習への興味が失われる」は、SALONの以下のフレーズと酷似しています。

 

Instead, homework at a young age causes many kids to turn against school, future homework and academic learning.

代わりに、年少者への宿題は、学校や将来の宿題、および学問に背を向けさせます。

 

ついでに、氏は、宿題よりも運動とかをしたりとか、「非認知能力の向上」をあげたりするようなことをした方がよいんじゃないかと話していましたが、これも、SALONにリンクの貼ってある別記事から似たようなことが読めます。

 

When their bodies move, it helps refocus their brains – that frontal lobe they need for memory and learning and problem solving and focus and impulse control.

体を動かすと、記憶や学習、問題解決、集中と衝動の制御をする前頭葉を再集中させることに役立ちます。

Ban homework: It doesn't help little kids learn—and it ruins their love of school | Salon.com

 

And that kids learn even the cognitive skills they need in ways that don’t seem like learning to us.

そして子どもたちは、およそ我々には学んでいるとは思えない方法で、必要な認知能力*10学びます。

同上

 

もっとついでにいえば、SALONの記事の末尾には、宿題よりも本を読むことを推奨しています。

 

What works better than traditional homework at the elementary level is simply reading at home.

小学生ぐらいの子どもにとって、従来の宿題よりもよいのは単純に家で読書することです。

 

うーん、これもどこかで聞きましたねえ。

 

ここまでは言い過ぎかもしれませんが、少なくとも、クーパー2006の論文を精読してもなければ、バテロットの本を読んだと言えないことは確かです。穏当な見方をしてあげれば、いろいろ調べていくうちに、どの情報をソースにしたかわからなくなってしまった、というところでしょうか。厳しい見方をすれば、検索して上の方に出てきた記事をぱぱっと読んで勝手にしゃべくりちらかしただけでしょう。

 

今日のまとめ

メンタリストDaiGo氏の主張と実際の論文などの内容は以下の通りである

①Cooper2006において、中学生と宿題の効果の相関は弱いと書かれている

→中学生と宿題の効果は正の相関が出ており、高校生とはその時間で差が出ているのみである。

②同上において、小学生に宿題の効果があるなんてエビデンスはないと書かれている

→その言葉は2006ではなく1989年に書かれているものと思われる。小学生への宿題の効果の相関は現段階では弱いと考えられるものの、小学生を対象とした研究自体が少なく、結果が変わる可能性があることをクーパーは指摘している。

③同上において、小学生に宿題は学習への興味が失われると書かれている。

→該当箇所が不明である。

④キャシー・バテロット教授は宿題禁止を唱えている。

→バテロットは、「宿題を禁止にする/しない」という二元論的な考えに反対の立場であり、子どもたちが自律的に取り組めるような宿題を考えるべきだという主張である。

⑤フロリダ州マリオン郡の小学校は宿題禁止だ。

→事実ではあるものの、逆効果になっているという主張もある。

 

上記を踏まえると、氏はSALONの記事だけを読んだか、少なくともいかなる論文も精読するには至っていないと推察される。

 

だいたいみんな、宿題禁止の話になったらすぐにクーパー教授の論文もってくるのやめませんか。クーパーも今回の論文の中で、「宿題の影響は複雑」で「すべての生徒に適用できるシンプルで一般的な発見が不可能」として上で、こう述べています。

 

Thus advocates for or against homework often cite isolated studies either to support or to refute its value.

したがって、宿題賛成派及び反対派は、しばしばその価値を支持・反論するために、独立した研究を引用します。

Cooper 2006 P3

 

だからこそクーパーのメタ分析して統合する研究はかなりすごいんですけど、日本にも宿題に関する研究はあるんですから、遠い国のをわざわざ探さんでもええんじゃないんでしょうか。

 

私も昔は、こういう衒学的な輩なんかほっとけばいいと思ってたんですけど、いやまたどうして、動画のコメント欄なんか見ると、こりゃまずいんじゃないかなあと考えた次第です。事の真偽よりも「共感」で情報が選ばれる「Post-truth」の時代だそうで*11、そういう時代だからこそ、「知的謙遜」とか嘯いている方の「知的」がどの程度のものかということは、詳らかに事実確認をしていって、記録を残していくべきなんじゃないかと思います。何より、心血注いで書かれた研究が、上澄みだけなめられて飯のタネになってるなんて悔しいじゃないですか。前にも記事で書きました*12が、そのために、やっぱり本職の学者の方々、お忙しいとは思いますが、この手の話に対して反論をすべきではないでしょうか。

*1:

以下、氏の言葉の書き起こしをしていますが、「えー」などの意味のない言葉や、文法上の言い間違いなどは適宜修正して読みやすくしています。というか、この手の延々と喋る動画を最後まで見続ける人ってのはすごいですねえ

*2:

2010年のNYTの記事にも、クーパーは似たようなことを書いています。

Homework for junior high students appears to reach the point of diminishing returns after about 90 minutes a night.

中学生の宿題の効果はおよそ1日90分を境にして減少に転じる。

Homework's Diminishing Returns - NYTimes.com

*3:

以上、前掲の論文のP50-51をまとめました。

*4:

この低学年への宿題が増加傾向にある、というのは、以下の研究によるものでしょう。

 

As between 1981 and 1997, the proportion spending any time studying in a survey week increased more for younger children 6 to 8 (21%) than for older children 9 to 12 (10%). By 2003, almost the same proportion of younger (64%) as older children (68%) spent some time studying.

1981年から1997年の間に、調査した週において勉強をする時間の割合は、9歳から12歳の子ども(10%)よりも、6歳から8歳の子どもの方がより増加しました。2003年まで見ても、低学年の子ども(64%)は高学年の子ども(68%)とほぼ同じ割合で勉強に時間を費やしています。

Changes in American children’s time – 1997 to 2003

*5:

Homework's Diminishing Returns - NYTimes.com

*6:

名前の訳しかたはまあいろいろですが、その読み方はないだろう、という気はします。私はロイターの記事の訳をそのまま使いました。

宿題をテーマにした本の著者でミズーリ大学セントルイス校で教育学の准教授を務めるキャシー・バテロット氏は「休息時間、遊ぶ時間、そして家族との時間という点で、宿題(の多さ)は子どもの生活バランスをめちゃめちゃにしている」との考えを示し

全米各地で子どもの宿題軽減の動き、全廃の学校も - ロイター

しかし、「Cathy」は「ケーシー」とは読めんでしょう。読みたいなら「Cayce」では? 疑わしいなら、キャスターがCathyを呼ぶときの動画でも見てください。

www.youtube.com

ホントに英語読めんの?とさえ思います。

*7:

より正確に書くなら、見落としの可能性もあるので、「小学生に宿題のメリットは確認できない」という含意の文はあるかもしれないが、それがバテロットの主張のすべてではない、というところでしょうか

*8:

「Rumor Control」というページがあるのが驚きです

*9:

米フロリダ州のある地域で小学校の宿題が全面的に禁止に! 宿題の代わりに推奨されていることとは!? | ロケットニュース24

全米各地で子どもの宿題軽減の動き、全廃の学校も - ロイター

*10:まあ、「非認知能力」じゃありませんが…

*11:

Post-Truth時代の情報リテラシー教育

https://oku.edu.mie-u.ac.jp/~okumura/posttruth2.pdf

この奥村先生の論文の中に私のブログが出てきてちょっとびっくりしました。

*12:

以前、なんちゃら国紀とか逆説のうんたらに対して、呉座先生が丁寧に反論していた記事*8を読みましたが、あまたある「心理学」の本を専門家はちょっと放置しすぎなんじゃないかと思いました。

【追記】イラッとしたら誰かをイジメればいいという研究は存在するか、私をほっとかないで - ネットロアをめぐる冒険