*6/29 誤字訂正
最近ちょっとやる気がでないので、今日は簡単検索記事。
TLで流れてきたバズっていたツイートに、こんな内容のものがありました。
・AMAZON、LinkedIn、Facebook、トヨタは、社内会議でのパワーポイントの使用を禁止されている。
さっくり調べてみます。
AMAZONは禁止してそう
AMAZONの話は有名なので、私も知っていましたが、遡ると2004年までいけるようです。初期のAMAZONから関わっているPETE ABILLAというスタッフが2015年7月に書いたブログ記事に詳細が書いてあります。
PETEは、CEOのベゾスと関係するチームに2004年当時いたことがあり、その時にベゾスからこんなメールをもらったそうです。
From: Bezos, Jeff
Sent: Wednesday, June 09, 20014(ママ) 6:02PM
To: [REDACTED]
Subject: Re: No powerpoint presentations from now on at steam
A little more to help with the question "why."
Well structured, narrative text is what we're after rather than just text. If someone builds a list of bullet points in word, that would be just as bad as powerpoint.
The reason writing a good 4 page memo is harder than "writing" a 20 page powerpoint is because the narrative structure of a good memo forces better thought and better understanding of what's more important than what, and how things are related.
Powerpoint-styel presentations somehow give permission to gloss over ideas, flatten out any sense of relative importance, and ignore the interconnectedness of ideas.
Jeff
送信日時:2004年6月9日
タイトル:Re:S-teamはこれ以降パワーポイントを使用しない
「なぜ」にもう少しだけ答えよう。
我々が求めているものは、ただのテキストではなく、それよりもよく構成された、ナラティブ*1なテキストだ。もし誰かが、ワードで箇条書きのリストを作ったら、それはパワーポイントと同じくらい悪いものになる。
良質な4ページのメモを書くのが、20ページのパワーポイントを「書く」ことより難しいのは、ナラティブ構造をもつ良質なメモは、より良質な思考を促し、それよりも重要なものは何かというより良質な思考を促し、そしてどのように関連しているかを考えることを強制するからだ。
パワーポイントタイプのプレゼンテーションは、なんとなくアイデアに光沢をつけ、相対的な重要性をフラットにしてしまい、アイデアの相互接続性を無視してしまうことを許してしまうのだ。
PETEははじめこのお達しを、「Sチーム」*2というエリートチームに対してのものだと思っていましたが、その後、これが全社に適用された、という経緯があるようです。
定期的にこの話題はネット上に出現します。ベゾス本人の言葉としては、2012年11月16 日のインタビューから(元動画は削除されている*3。
“The traditional kind of corporate meeting starts with a presentation. Somebody gets up in front of the room and presents with a powerpoint presentation, some type of slide show. In our view you get very little information, you get bullet points. This is easy for the presenter, but difficult for the audience. And so instead, all of our meetings are structured around a 6 page narrative memo.”
従来の企業の会議は、プレゼンから始まる。誰かが部屋の正面に立って、パワーポイントや似たようなスライドショーでもってプレゼンを行っている。我々の考えでは、これは得られる情報が限りなく少なく、ただ箇条書きであるだけだ。プレゼンターにとっては楽だろうが、聞く側にとっては難しい。その代わりに、我々の会議では6ページのナラティブなメモを中心に構成されている。
Amazon Staff Meetings: “No Powerpoint” – Moving People to Action
現在までこれが続いているのかは不明ですが、2018年にもベゾスは同様の話をしており*4継続されていると考えてよいでしょう。
LinkedInも禁止してそうだ
LinkedInについては、2013年にCEOのJeff Weinerが、プレゼンに関する記事を、「無駄な会議を排除する簡単なルール」というタイトルで投稿しています。
At LinkedIn, we have essentially eliminated the presentation. In lieu of that, we ask that materials that would typically have been presented during a meeting be sent out to participants at least 24 hours in advance so people can familiarize themselves with the content.
LinkedInでは、原則としてプレゼンテーションを排除しています。その代わり、通常は会議中に発表されるはずだった資料を、遅くとも24時間前までには参加者に送付し、その内容を精読するようお願いしています。
パワーポイントを名指ししてはいませんが、プレゼンテーションのことなので同様でしょう。
ただちょっと気になるのが、2016年10月からLinkedInはMicrosoftの子会社になっており*5、そこらへん、どうなったのか気になるところです。
Facebookはちょっと複雑
続いてFacebookですが、これはちょっとばかし複雑です。
2015年の記事にはこんなことが書いてあります。
For example, she told the Tsinghua graduates, in her early days of Facebook she would encourage her employees not to use PowerPoint presentations when they met as a team so that meetings didn't feel so formal and rigid. After two years, she declared that PowerPoints were no longer allowed in meetings with her.
例えば、彼女は清華大学の卒業生に、Facebook立ち上げのころ、会議が形式的で硬直した感じがしないように、スタッフがチームとして会うときにパワーポイントのプレゼンテーションを使用しないように奨励している、という話をしました。2年後、彼女との会議でパワーポイントを使用することはもはや許されないと宣言したのです。
Sheryl Sandberg on transparency with Mark Zuckerberg - Business Insider
ところが、これはスタッフの間に妙な誤解を生んでしまったと彼女は後に述懐します。
From this, a rumor spread that Sheryl had banned the use of PowerPoint at Facebook.
このことは、シェリルがFacebookにおいてパワーポイントを使用すること自体を禁止したという噂を広めた。
Sheryl Sandberg: COO of Facebook and Founder of the Lean In Movement P41
あくまで社内の自身の会議の際にという話だったのに、クライアントとのプレゼンも含めて、全てにおいてパワーポイントが使えなくなった、というようにとられてしまったわけです。そこで彼女は、
If employees ever think that one of her ideas seems stupid, they are required to tell her so.
もしスタッフが、シェリルのアイデアが1つでも馬鹿げていると感じたなら、彼女にしそのことを伝えることが求められる。
前掲 P42
というルールを追加した、という話です。この話の主眼は「スタッフとリーダーの透明な関係性」という部分だと思うのですが、どうも日本の記事ではそこら辺がうまく伝わっていないようです*6。
トヨタは…?
トヨタについてが一番判断が難しいですね。
この話の初出は2008年5月8日の決算発表での、渡辺捷昭社長(当時)の発言にあったようです。
「社内の意識はまだまだ甘い。昔は1枚の紙に(用件を)起承転結で内容をきちんとまとめたものだが、今は何でもパワーポイント。枚数も多いし、総天然色でカラーコピーも多用して無駄だ」
2008年5月20日のダイヤモンドの記事ですが、この話が当時は広まった*7ようで、恐らく「トヨタのパワポ禁止」の原点はここにあると思います。
当時のトヨタは前年度3割減という決算発表だったそうで、なかなか苦しい立場にあったようです。なので、この発言は表面的に見れば、経費削減という意味合いの方が強く、AMAZONなどの他の経営者の視点とはちょっとずれているように感じます。
それがいったい、当時のトヨタ社内においてどのように考えられたかは定かではありません。トップダウン的な命令で、もしかすると当初のFacebookと同じように不自由な形で強いられたという認識だったかもしれません。
そして、この「トヨタのパワポ禁止」の記事はゴマンとあるものの、本当に現在も「パワポ禁止」なのか、お調べになっているサイトが見つけられないため、今の段階の話は不明です。トヨタ社員がいたら教えてください。少なくとも、社内の会議での使用制限、といったところではあるかと思います*8。
パワポをぶっとばせ
しかし、この「パワポ憎し」の流れ自体は、AMAZONよりもはるか昔から出ているものでもあります。
“… we’ve had three unbelievable record-breaking fiscal quarters since we banned PowerPoint. Now I would argue that every company in the world, if it would just ban PowerPoint, would see its earnings skyrocket.”
—Scott McNealy, Sun CEO, 1997「パワーポイントを禁止して以来、信じられないほどの記録的な四半期の会計年度が3回もありました。今、私は、世界中のすべての企業がPowerPointを禁止するならば、その収益は急上昇するだろうと主張します」
"The religion is to express oneself concisely in bullet points with analytical precision," says venture capitalist Steve Jurvetson. "I've seen people who get in a mental rut and are unable to write anything other than bullet-point lists."
「この「パワポ教」は、自分の考えを簡潔に箇条書きして、分析的に正確に表現する」と、ベンチャーキャピタリストのSteve Jurvetsonは述べています。「私はマンネリ化して、箇条書き以外何も書けなくなった人々を見てきました」
また、パワポの有害な例証として引用されるのが、2003年のコロンビア号の事故。
以下の画像はボーイングのエンジニアが、実際よりも600倍小さい規模の衝突から得られたデータを紹介した際のスライドです。赤線で囲んだ部分がスライドのタイトルですが、「Review of Test Data Indicates Conservatism for Tile Penetration(タイル貫通への保守性を示唆するテストデータレビュー)」となっており、一見すると耐熱タイルが断熱材の衝撃に耐えうると誤解を招きかねないものとなっています。タフテ氏は、スライドの中心に最も大きなフォントで表示されたこのタイトルが、ボーイングのエンジニアが本当に伝えたかった内容が失われてしまう一つの原因だったと述べています。
ちなみにスイスには「アンチパワーポイント党」なるものも存在しています*9。また、パワーポイントの生みの親のひとり、ロバート・ガスキンスの自身のサイトを見ると、現在の過剰な装飾のスライドに対しては、「シンプル」が製品の肝であるとして、使われ方には批判的にも見えます*10。
そもそも、スライドでプレゼンを行うという行為自体は、パワーポイントの前から、OHPを使うなどして行われてきたわけです(覚えてます?)。パワーポイントは、その作業を一般の個人でも容易に行えるようにしたという点で革新的だった製品だったと言えます。ベゾスなどの考えは、そのような「スライド」式の会議の形式化と非生産性を批判しているわけであり、それはパワポを禁止したからと言ってスムーズに生まれるものでもないでしょう。
今日のまとめ
①AMAZONはベゾス氏が近年もパワポに関する発言をしており、社内会議では使われていないようだ。
②LinkedInは2013年にスライド形式のプレゼンを行わない旨をCEOが発言しているが、マイクロソフト社の子会社化した今、どうしているかはわからない。
③FacebookのCOOのシェリル氏は自身とのミーティングでの使用を禁止したようだが、このエピソードは、それによって社内で「全てのパワーポイントの使用禁止」と誤解されてしまったために、その後はお互いの意見を伝えやすくするように風通しをよくしたという点が主意である。
④トヨタは2008年の社長の決算報告での発言が元だが、それは主に経費削減のことであり、上記の会社とは少し趣きが違う。また、現在の状況もわからない。
⑤パワポの使用に関する批判は昔からある。
他にも有名どころでは、TwitterのCEOのジャック・ドーシーなんかも、AMAZONと同じように、ドキュメントの読み込みから始める、なんて発言もしています。
Most of my meetings are now Google doc-based, starting with 10-minutes of reading and commenting directly in the doc. This practice makes time for everyone to get on same page, allows us to work from many locations, and gets to truth/critical thinking faster. Good thread 👇🏼 https://t.co/YRsxT3kMAZ
— jack (@jack) 2018年4月20日
要するに、これらの革新的な経営者たちが言いたいのは、「型にとらわれるな」ということだと思うのですが、「パワポ禁止」という型でもって語られてしまうところに、日本式経営の弱点を感じます、なんて胡散臭いビジネス書みたいなまとめでもって、今日のところは終わりです。
*1:
ちょっといい訳が思いつきませんでした。「物語的」とか訳するとストーリーテリングになっちゃうし。
*2:
*3:
Charlie Rose - Jeff Bezos, Founder and CEO, Amazon.com
*4:
*5:
MicrosoftがLinkedInを262億ドルで買収、エンタープライズ向けソーシャルメディアに参入 | TechCrunch Japan
*6:
現在、Facebook COO、シェリル・サンドバーグ氏やLinkedInのリード・ホフマン氏など、IT界を代表する人達がパワーポイントの使用を禁止しており、Amazonのベソス氏もパワーポイント禁止令を出している経営者の一人です。
パワーポイントのプレゼンは資料作成にも説明にも時間がかかる上に、議論がしにくく、情報が正しく伝わりづらいそう。AmazonやFacebook、LinkedInなども、社内会議でパワポを使用することを禁止しているそうです。
*7:
ダイヤモンドオンラインが報じた、トヨタに関する情報が予想以上のスピードで、ネットで、またリアルのビジネスシーンで伝わっているようだ。
*8:
よく読んでみると“社内の会議での使用を禁止している”というだけの話だった。さすがに、私の知っているアマゾンの社員も、トヨタの社員さんも、パワーポイントを使ってますからね。
*9:
*10: