ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

大統領選の投票用紙は追跡できるのか、世界の終りとインテリジェンス・インボーランド

マクルーハンの続きも書きたいんですが、今日は時流に乗ってアメリカ大統領選の話。まー、いろんな話がありすぎて、選び放題という感じなのですが、この話題。アノニマスポストなのは許してちょうだい。

 

 

「投票用紙にはGPSのチップが埋められてい」るとのことで、バイデン氏が不正投票に関与した投票用紙はすぐに不正がばれてしまうだろう、というようなお話になっています。

 

なかなか、ネットロア的に面白い流れだと思ったので、このお話のあれこれを検証してみました。ちょっと調べてみると、もうすでに英語圏では検証されつくした話題のようですので、情報のまとめという感じです。

 

 

元国務省の人の話

さて、篠原氏の元の動画を書き起こしてみます。

 

ある有名なですね、Dr Russell McGregorていうね、人のツイートではこう書いてあるんですね。

 

Every ballot was watermarked with a QFS blockchain encryption code.

This is a tracking system so every LEGAL vote can be GPS located!*1

 

要するにね、位置・場所を確認するための、信号をね、反射するシステムを投票用紙につけたっていうんですよね、政府の奴はね、偽物にはついてない。それで見分けられちゃうっていうんですよ。

要するに、大量の偽物の用紙が持ち込まれた。これトレースしたがってるんですけど、C国で印刷されてます。C国で印刷されたものが、船便で持ち込まれて、トラックで各州に持ち込まれたということまでトレースされていて、このトラックがカナダ国境を越えてカナダに入ろうとしたところ押さえられています、という情報があります。

https://www.youtube.com/watch?v=BKsz66bU490

 

この見分け方は「秘密裡」に行われているので、バイデン陣営にはわからなかった、みたいな話のようです。

 

さて、篠原氏が引用しているのは、Dr Russell McGregorという、オーストラリアの精神科医のツイートです。

 

 

ところが、このツイートを読むと、Dr Steve Pieczenickが「おとり捜査(STING operation)」について言及していると述べています。こんどはそっちを調べます。

 

Steve Pieczenickは国務省の元職員・作家・精神科医で、当該の発言は11月5日のWarRoomで発言されたものです。当該箇所を引用します。

 

(司会者の、不正投票に関するバイデン側の「でっちあげ(hoax)」についてどう思うか、という質問に対して)

 

Number one, it's not a hoax what's happening now... and the reason I couldn't come on the Alex Jones show last night was I was not given the permission that I needed to in order to say what I'm about to say...there are honorbale members of our intelligence military and civilian community in the goverment who understood exactly how corrupt Biden and the democratic machinery  is was and will be. This is really a "Sting opereation" ...What happened was we marked watermarked every ballot with what's called the "QFS block chain encryption code". In other words we know pretty well where every ballot is where it went and who has it.

第一に、現在起こっていることは(トランプ側の)でっちあげ(hoax)ではありません。(中略)そして、私がこれから言おうとしていることの許可がおりなかったために、AlexJonesの番組に昨夜出られませんでした。(中略)政府の軍民によるインテリジェンス・コミュニティの名誉会員が、バイデンの腐敗した民主主義マシーンがこうなるだろうことを正確に理解していました。これはまさに「おとり捜査」です。(中略)何かというと、全ての投票用紙に透かしを入れたのです。それは「QFSブロックチェーンコード」と呼ばれるものです。言い換えれば、我々は投票用紙のすべてを、誰が持っていて、どこにあるかということをよく知ることができるわけです。

https://www.youtube.com/watch?v=swPr7cwAOCE(48分ごろから)

 

 

篠原氏の発言には「QFSブロックチェーン」の話は出てこないですが、広がりを大きく見せたのは、Steve Pieczenick氏の発言でしょうか。WarRoomはガッチガチなんで、話半分で聞かなきゃいけませんが、なるほどなるほど。

 

いろいろな「透かし」のパターンがある

この「透かし」の話はSteve Pieczenick氏が、まるで秘密を明かすように言っていますが、これが初めてではありません。

 

例えば、国土安全保障省が「透かしをいれた」という話があります。

 

 

国土安全保障省(DHS)が、「non-radioactive isotope」による透かしを入れていることで、偽物の投票用紙と区別できるというものです(なんじゃそりゃ)。この投稿は(現地時間の)11月4日で、Steve Pieczenick氏よりも少し前です。これは今回の選挙のセキュリティを担当しているCISAにより明確に否定されています。

The Department of Homeland Security (DHS) and the Cybersecurity and Infrastructure Security Agency (CISA) do not design or audit ballots, which are processes managed by state and local election officials.

DHSとCISAは、州および地方の選挙当局によって管理されるプロセスである投票用紙を設計または監査しません。

Rumor Control | CISA

 

 

しかし、投票用紙は、国の機関が一括で作成や監査をしているわけではなく、州や地方などの単位で行われているそうです。なので、そもそも、「全ての投票用紙に透かしを”秘密裏”に入れる」なんていうのはちょっと難しくはないでしょうか。

 

このような噂を元に、「透かし」が入っているかどうか確かめようとする動画もありました。

www.youtube.com

 

 

「透かし」自体を投票用紙に入れる、ということは自治体によってはしています。例えばカリフォルニア州。

 

Any jurisdiction holding an election, shall request ballot tint and watermark from the Secretary of State in accordance with section 13002 of the Elections Code.

選挙を行う管轄区は、選挙法第13002条に従って、国務長官に投票用紙の色合いと透かしを要求しなければならない。

Ballot Printing :: California Secretary of State

 

これを根拠に「秘密の透かし」の存在を認めようとする言い分もありますが、それはちょっと難しくありませんかね。公表してるんだし。多くのFactcheckサイトは、これにQAnonの関与を示唆しています*2

 

「カナダ」はどこから出てきた?

しかし、「カナダの国境でトラックが差し押さえられ云々」の話は英語圏では見られず、篠原氏のオリジナルであるように見えますが、私は火のない所に煙は立たぬ主義なので、何の情報と結びついたのかは調べてみます。

 

恐らくですが、以下のニューヨーク・ポスト(!)など*3の11月6日の記事のことではないかな、という気がします。

 

An upstate USPS employee was arrested Tuesday while crossing the US-Canada border with hundreds of envelopes and other undelivered mail — including several absentee ballots.

州北部のUSPSの職員が火曜日、数百通の封筒や他の未配達の郵便物を持って米国とカナダの国境を越えているところを逮捕されました。その中には、いくつかの不在者投票が含まれていました。

USPS worker arrested at Canadian border with undelivered ballots

 

ただこれは、郵便物の遅延や破壊(delaying or destroying mail)に対する起訴であり、また、不在者投票の郵便物も3通だけですので、今のところ、不正な投票用紙云々の話と結びつけるのは難しいと思います。

 

「最先端」と結びつくウワサ

私がこの話に興味を覚えたのは「透かし」という古くからある技術に、最先端(と思われている)技術が結びついている点です。「non-radioactive isotope」とか「QFSブロックチェーン」とか。そして、これらの話は、全く関係なく出てきた、というわけでもありません。

 

ブロックチェーンの技術については、確かに今回の投票と絡んで話が以前に出てきています。Business Insiderの8月18日の記事。

 

The US Patent and Trade Office made a patent filing from the USPS public last week, Forbes first reported on Friday, that would utilize blockchain technology to help verify voters' identities, allow them to cast ballots online, and record results via a tamper-proof ledger.

米国特許商標庁は先週、USPSからの特許出願を公開した。フォーブス紙が金曜日に報じたところによると、ブロックチェーン技術を利用して、有権者の身元確認、オンライン投票、改ざん防止台帳による結果の記録を支援するという。

USPS looks to blockchain to secure mail-in voting amid Trump attacks - Business Insider

 

この技術は結局、今回の大統領選には使われていませんが、新しいテクノロジーは色々な噂に結びつきます。例えば、5Gがコロナウイルスを広げているみたいな話もありました。その意味で、今回の話はセオリー通りといえば、そうなのかもしれません。

 

ちなみに、この透かしの話は他にもGPSやら特殊なインクやら*4という話も存在します。前びれやら尾ひれやらが変わっていく様子と、どれが生き残っていくかという成行きを眺めるのは、学者的視点からは興味深いものです。それにしても、篠原氏の話は「透かし」から「信号を反射するシステム」と、また少し変化しているのは、単に英語力のなさなのか、日本的価値観なのか。こんな話が無批判に広がるのも、悲しいもんなんですが、まあ、どの国もおんなじですね。

 

今日のまとめ

①「投票用紙に秘密の透かしがある」という話は現在のところ根拠が何一つない。

②投票用紙は州や地域ごとの作成と管理のため、国単位での陰謀は考えにくい。

③「投票用紙に透かし」がある話のパターンはいろいろある。

 

この話を、陰謀論者の稚拙な話と冷笑するのは簡単なのですが、結局それも分断を深める原因なのではないか、と感じています。騙される側が悪いの理論から脱却しないと、なんというか、この溝は埋まらないのではないでしょうか。いろいろ思うところはあるのですが、まあ、そうはいってもうまくいかなかったら人類が滅ぶだけだしな*5、なんて思います。