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ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

スイスがベーシックインカムを始めるかも?というのは誤報ではないけれど、ダイレクトな民主主義って大変そう

海外ニュース

スイスがベーシックインカムをするとかしないとか。

blog.livedoor.jp

どこかで聞いたような話ですが、全国民に月30万円も支給するのは、財政的に厳しいんじゃないんでしょうか。記事には「ベーシックインカム制度の実現に向けて投票が行われる予定」とありますが、本当にそんな絵空事みたいな法案で国民投票が行われるのでしょうか。

 

結論から言えば、国民投票が行われるのは事実ではありますが、実現する可能性は低い、というところがホントのところです。今日はそんな、スイスの直接民主制の話です。

 

痛いニュースさんはユルクヤルさんをソースに挙げています。

yurukuyaru.com

で、ユルクヤルさんはソースを挙げていないのですが、記事の内容と使われている写真から、Dailymailの記事をそのまま使っているようです。

www.dailymail.co.uk

私は常々思っているのですが、こういう海外記事をキャプションなしで翻訳して転用して写真すら勝手に使うサイトは多いのですが、チョサッケンとかそういうのに引っかからないんでしょうか。せめてソース元はのっけてほしいところです。*1

 

閑話休題。

 

ということで、2016年の6月に国民投票を行うことは確実のようです。でも他のメディアも参考にしたいので、「Switzerland basic income」で検索すると、ぞろぞろとページが引っかかります。お、信頼度の高いBBCがありましたね。

www.bbc.com

スイスでベーシックインカムに関する投票が行われるよ…という記事なんですが、日付が「2013年12月18日」。え、2年前にも同じことをしてたの?

 

この不可解な現象を読み解く鍵は、スイスの「Direct Democracy」、すなわち「直接民主制」にあります。

 

スイスは世界的にもレアな「直接民主制」の国でありまして、議員を選んで代わりにやってもらうなんて日本の民主主義がお遊戯会に思えるほど、国民の主権が強い国です。

 

何から何まで国民投票 スイスの直接民主制 ヨーロッパで暮らす 日独伊+瑞 日々の生活

 

上記のページに詳しいのですが、スイス国民は「憲法改正や新法の案件、国際的な要件から地方自治まで全ての是非を国民投票によって決定する権利」を持っています。有権者であれば、誰でも国に関わる法律が提案できるわけです。おお、すごい。

国民投票が行われる要件はいくつかのパターンがあるのですが、恐らく今回のベーシックインカムの話はその中の一つ、「国民イニシアチブ」と呼ばれるものだと思われます。

「国民イニシアチブ」は、18ヶ月以内に有権者10万人分以上の署名を集め、連邦内閣事務局に提出することにより成立します*2。これが連邦議会で協議され、法案が可決なり否決なりされて、いずれにしても、国民投票にかけられるわけです。

 

今回、このベーシックインカムについて、支持をしているのは、アーティスティックな層のようです。

bedingungslos.ch

スイスの公式ページを見ると、この法案は2013年10月4日にイニシアチブされたものであり、今年の6月に国民投票を行う旨が記載されています。BBCの記事は、その頃のことを書いたものでしょう。

www.admin.ch

 

そして、このイニシアチブは、先ごろ、連邦議会で全会一致で否決をされました*3

www.tagesanzeiger.ch

ということで、6月の国民投票では、ベーシックインカムが否決されたことについて妥当かそうでないか投票を行うわけです。

 

前述したように、10万人の署名という壁が越えられれば、国民投票を行うことはスイスの有権者は誰でもできるということになります。とすると、中にはそれっていかがなものか、という内容の法案も出てくるわけです。

先ほど参照したサイトに載っていたものを転載させてもらえば、

「国民全員に6週間の休暇を!」(国民イニシアチブ、2012.03 否決)
全ての労働者に最低6週間の有給休暇を与えるべきである

「全国民に不動産を!」(国民イニシアチブ、1999.02 否決)
特別融資や低金利で誰でも家を買えるようにする
「みんなのための道路」(国民イニシアチブ、2001.03 否決)
市街地の交通を時速30キロにして道路を安全にする

ヨーロッパで暮らす ー 日独伊+瑞 日々の生活より

なんて、おおよそ実現不可能なものまで国民投票に挙げられています。今年の国民投票にも「食糧への投機禁止」なる法案がイニシアチブで出されています*4。資本経済的に無理そうです。

 

そして、このベーシックインカムの話も、上記ほどではないにせよ、世評的には「トンデモ法案」に含まれているようです*5。そのため、恐らく国民投票で可決されることはないだろう、というのが大方の予想です。

 

 

というわけで、ベーシックインカムの国民投票というのは、スイスの直接民主制という特殊な体制から生まれたニュースでした。欧州ではこの直接民主制、広がりつつあるようなんですけれど、人任せの島国の我々からすると、なかなか大変そうです。

 

 

*1:以前、私の記事を引用して考察してくれた方がいました。

秒刊サンデーの福島関連記事の炎上で思う、海外サイトの翻訳メディアと著作権

*2:世界が注目、スイスの直接民主制 - SWI swissinfo.ch

*3:Der Ständerat empfahl die Initiative nach kurzer Debatte einstimmig zur Ablehnung. スイスの有力紙 Tages-Anzeigerより

*4:Swiss referendums, 2016 - Wikipedia, the free encyclopedia

*5:スイスの政治団体は全て反対だとか。

http://www.basicincome.org/news/2015/10/swiss-parliament-opposes-popular-initiative/