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ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

国連は成人向けのゲームや漫画を禁止するのか、世界ランキング104位の理由は

ちょっと前に、こんな記事がありました。

blog.esuteru.com

国連の「女子差別撤廃委員会」が、日本の「女性への性的暴力を描写したテレビゲームや漫画の販売禁止」が議題としてあげるとか。規制派と表現の自由派でいろいろとネット上ではもめています。

そんな中、こんなツイートもありました。

 

 

審議事項を読むと、「漫画・ゲーム」の話がトップに来ていて、日本のフェミニスト団体は、現実の女性の権利問題とずれがある部分を課題にしてるんじゃないの、という話。

ふーん、こういう話は字義通りにとらえることよりも、どういった文脈で話されているか、というのが大事なのかな、と思うので、本当にそんな字義通りのことなのか、今日はそのニュアンスを考えてみたいと思います。

と、書き始めたらかなり長い記事になりました。結論だけ読みたい人は最後にまとめているのでどーぞ。

 

***

 

さて、一次ソースを探しましょう。

 

UNHumanRightsがツイートしています*1。確かに、「ゲーム・漫画」の話が、画像ではトップに来ていますね。ちなみに、UNの公式発表はこちらです。

www.ohchr.org

 

「女子差別撤廃委員会」(CEDAW)が、日本の女性権利の報告書について審議をするという内容です。話し合われる内容についても概要が記載されています。

・女性への性的暴力の表現がある漫画やゲームの販売禁止

・雇用機会均等や出産や子育てをする女性への不法な解雇

・職場でのセクハラ

・慰安婦の教科書再記載

・障害のある女性の意志に反した不妊手術

・福島原発災害後の、特に妊娠中の女性へのヘルスプログラムの影響

・年金の男女格差

・高齢女性の貧困

こちらでも、確かに「漫画やゲーム」の話がトップに来ていますね。やはり今回の審議の重要事項なんでしょうか。

 

さて、発表記事のタイトルは「face review」となっております。つまり、最初に某かの報告があり、それについて審議をするということなんでしょう。その報告を読みたいところです。

 

探すともちろん出てきます。

 

女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(CEDAW) | 内閣府男女共同参画局

 

どうして国連からこんなにヤイヤイ言われなきゃいけないかというと、日本は「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」というものを、1985年に批准しているからなんですね。以降、4,5年ごとに現状に対して報告書を提出し、今回は「第7回及び第8回報告」に対しての審議、ということになるようです。担当しているのは、内閣府男女共同参画局。

 

で、この委員会、CEDAWは年3回(2,7,10月ごろ)に会合を開催し、各国の報告を点検するようです。ちなみに委員会は23人の締結国の専門家により構成され、議長は日本の林陽子弁護士が務めるようです*2。今回の審議では、日本以外にチェコ、ハイチ、アイスランド、モンゴル、スウェーデン、タンザニア、バヌアツが対象となっているようです。国の選別がちょっとよくわかりません。

 

そして、第7回及び第8回報告は以下になります。

 

「女子差別撤廃条約実施状況 第7回及び第8回報告」

http://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_teppai/pdf/report_7-8_j.pdf

 

120ページにもなる報告書で、正直全部読む気はしません。さて、日本で話題になっている「ゲームや漫画」についてですが、どこに書いてあるかというと、第2条3「女性に対する暴力に関する情報」の、(5)性・暴力情報からの青少年の保護、になるのかな、と思います。

78.第3次基本計画においては、メディアにおける性・暴力表現への対応として、広報啓発の推進、流通防止対策の推進等、調査研究等に関する具体的施策を盛り込んでおり、関係府省において取組を進めている。*3

児童ポルノに関する対策の策定や、インターネットのフィルタリングなどの話が書いてあり、「こういう取り組みをしています」ということが書いてあります。

 

実は、なぜわざわざ「ゲームや漫画」について取り上げているかというと、第6回報告の際に、「女児や女性に対する強姦や性暴力を内容とするテレビゲームや漫画の販売を禁止」を、CEDAWが最終勧告しているからなんですね。*4

 

そこでは、「児童買春に対する法的措置が講じられたことを歓迎する一方」で、「わいせつなテレビゲームや漫画の増加に表れている締約国における性暴力の常態化」を懸念しているとあります。ふむふむ。

 

つまり、第7,8回定期報告に、どうして「ゲームや漫画」が取り上げられているかというと、それはCEDAWが、日本の現状を鑑みて勧告をし、「ちゃんとそれについて対策を報告しろよ!」と言っているというわけです。この定期報告は、締約国の女性の権利問題についての行政・立法の観点からの現状を述べることもそうなんですが、前回までの最終勧告で履行されていない事項への対策についても書かなければならないのです。

なので、冒頭のツイートにあるような、「日本のフェミニズム」の団体が課題として捉えている、というのは主語がずれているような気がします。あくまで課題提起側は国連のCEDAWです*5

 

で、日本の報告に対してCEDAWは追加の質問を行っており、日本はそれに回答しています*6。まあ確かに、最初の報告書だけだと、具体的に何をしているかはよくわからんかったですからな。

 

で、これらのことがどうやって話し合われてきたかという議事録が以下にあります。

監視専門調査会 開催状況及び会議資料 | 内閣府男女共同参画局

CEDAWの勧告に対して監視する委員会です。平成23年4月15日から、平成27年1月14日まで、30回も会議しています。みんな会議大好きですな。

 

で、そのうち、勧告で指摘された「ゲーム・漫画」に関して言及している会議は第22回*7のみ。内閣府青少年環境整備担当が「青少年育成条例」が各都道府県に制定されていて、有害図書指定や児童ポルノ排除に向けた政府の対策を実施することなどが語られていることと、警察庁がわいせつ物頒布事犯の検挙を強化していること、が語られているのみです。この発言がそのまま、第7,8回報告書及び質問事項の回答の根拠になっています。たとえば、「家族法」に関する話題は随所に見られますが、「ゲーム・漫画」の話はあまり俎上にのぼらなかったというわけです。

 

つまり、何が言いたいかというと、日本側にとって「ゲーム・漫画」の話は、勧告を受けていたとはいえ、そこまで大きく扱う話ではないつもりだったのではないか?、ということです。

 

現に、2015年8月に出されている、CEDAWの「List of issue」*8における質問でも、「ゲーム・漫画」の話は、「Violence against women」の中でも3つ目に位置し、「最優先課題」という感じには読めません。

 

むしろ、冒頭のツイートが比較して示している、アイスランドのイシューとされる「女性への暴力」や「公務員の女性の地位向上」といった部分にも、内容の評価はさておき、日本の第7,8回報告書は一応紙面は割いているように読めます。

 

ということは、UN Human Rightsが広報している「漫画やゲーム」「職場のセクハラ」などの審議項目というのは、あくまで、CEDAWの委員が、日本の数ある課題の中でも特に関心のある事項、ということになるんでしょうか。なぜ「漫画やゲーム」なのか。

 

ここからは憶測になりますが、今回のCEDAWのChairpersonは日本の代表の林陽子弁護士です。Wikipediaによれば、女性の権利問題に長年取り組んでおられる方で、なかなか不用意な発言をするとかみつかれそうです。それはともかく、彼女は過去の男女共同参画会議の中で、『調教ゲームや強姦ビデオなどの製造販売が、犯罪組織の資金源になっている』と発言しているそうです。

リンクは切れていたので、WebArciveから閲覧すると、確かにそんなようなことを言っています*9

つまり、以前から関心事であった分野について、林委員の意向がある程度働いているのではないかな、という憶測です。うーん、ちょっと無理やりかなあ*10

 

・検証のまとめ

今回、こんなに長くなる予定ではなかったのですが、調べていったらなかなか面白くて長々と5000字も書いてしまったので、要約してみます。

 

①国連女子差別撤廃委員会(CEDAW)は、「性的暴力が中心となる漫画やゲーム」の販売禁止を以前より勧告している。

②日本政府は内閣府男女共同参画局が主体となり、第6回報告書に対する勧告をベースとした、第7、8回報告書を作成し、今回はそれに対する審議である。

③「漫画やゲーム」の話は、日本の報告書も当初のCEDAWの質問書を見ても、重要事項ではあると思うが、「最優先課題」という形には読みとれない。

④【憶測】「漫画やゲーム」の課題がUN Human Rightsの広報でトップに置かれたのは、CEDAW議長の林陽子弁護士の意向があるのではないか。

 

個人的な感想としては、日本においては、このCEDAWの会議の話題の中心が「漫画やゲームの表現規制」という問題に集約されてしまっていることが、なかなかよろしくないなあと思います。

あくまでこの会議は、女性への差別撤廃に関するものであり、「漫画やゲーム」の話はその中のひとつに過ぎません。本当はここに拘泥せず、もっと広い座視で女性の権利問題と言ったものの議論が起こるべきではないんでしょうか。こうならないところが、国際男女平等ランキングが104位になっちゃう理由なんでしょうか*11。と、書きつつ、私も反省反省。

 

 

 

 

 

 

*1:しかし、公式が日本語訳(ビデオとビデオゲーム)を誤訳するのはちょっとよくないんじゃない?

*2:Membership

*3:「女子差別撤廃条約実施状況 第7回及び第8回報告」P14

*4:「女子差別撤廃委員会の最終見解」P8

http://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_teppai/pdf/CEDAW6_co_j.pdf

*5:また、「日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク(JNNC)」が、「対国連女子差別撤廃委員会の実質上日本側窓口」であるというツイートもあります

しかし、実際の窓口は内閣府男女共同参画局であり、JNNCはあくまで日本政府及びCEDAWに対して意見や情報提供を行う立場であるように思います。

参考:「女性差別撤廃委員会第 6 次日本レポート審議に向けた NGO の取り組み」

http://www.jaiwr.org/jnnc/chart2013.pdf

このNGOの意見がどれだけ力を持っているかで、話は変わってくるとは思いますが、もちろん、意見を言うNGOはJNNCだけではなく、今回は27団体が情報提供を行っています。

Treaty bodies Sessions(このページのJAPANのInfo from Civil Society Organizationsにそれぞれの団体からの情報提供がある)。

中には、The Korean Councilという、右よりのかたが泣いて喜びそうな団体まであります。もちろん慰安婦問題についての言及です。

*6:「7回及び第8回報告審査に関する差別撤廃委員会からの質問事項に対する回答」P18

http://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_teppai/pdf/response_7-8_j.pdf

*7:「女性に対する暴力に関する専門調査会(第72回)及び監視専門調査会(第22回)議事録 」

http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/kansi_senmon/22/pdf/kansi_22_g.pdf

*8:Treaty bodies Download のリンクからPDFを見られます。

*9:「調教ゲームや強姦ビデオなどの製造販売が、犯罪組織の資金源になっているということを明らかにすれば、このような問題に対する社会の見る目も変わってくるのではないか」

女性に対する暴力専門調査会 平成14年4月24日

なので、Wikipediaにあるように断言をしているわけではありません。あくまで、そういったビデオなどが規制もなく販売されている現状に、犯罪組織とのつながりを示すことが出来れば、世間の関心をひくこともできるのでは、という発言の流れです。どうして「調教ゲーム」という言葉が出てくるかというと、当時そういうゲームを参考にしたとされる事件があったからですね。

北海道・東京連続少女監禁事件 - Wikipedia

*10:あとは、UNの広報が、この審議の世間的な関心をひくために、わざわざ目立つ書き方をした、という憶測もたてられます。

*11:国際男女平等ランキング2014、日本は142か国中104位 | リセマム

これは世界経済フォーラムが発行している「世界男女格差年次報告書」というものらしいです。