台風が通り過ぎている中、みなさんいかがお過ごしでしょうか。こんなブログを読んでないで、身を守る行動をとりましょう。安全が確認できた方は、暇つぶしに読んでください。
今日気になったツイートがありまして、概要を記しますと以下の通り。
・イオンが開いているのは、指定公共機関だからである。
・指定公共機関は災害対策基本法で定められており、2017年7月1日付で小売業で初めて指定された。
他の主要なスーパーは軒並み12日は休業しているのに、イオンだけ営業時間短縮の対応であり*1、それについて「#台風だけど出社させた企業」というタグで批判されていたようです。
災害になると、今まで知らなかった情報があれやこれや出てくるので大忙しですが、今日はこれを調べてみました。
指定公共機関とは
災害対策基本法にはこうあります。
第一条 この法律は、国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、防災に関し、国、地方公共団体及びその他の公共機関を通じて必要な体制を確立し、責任の所在を明確にするとともに、防災計画の作成、災害予防、災害応急対策、災害復旧及び防災に関する財政金融措置その他必要な災害対策の基本を定めることにより、総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図り、もつて社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的とする。
第二条
五 指定公共機関 独立行政法人(独立行政法人通則法 (平成十一年法律第百三号)第二条第一項 に規定する独立行政法人をいう。)、日本銀行、日本赤十字社、日本放送協会その他の公共的機関及び電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で、内閣総理大臣が指定するものをいう。
小売業が指定されたのは最近のようですが、この「指定公共機関」の制度自体はそもそも昭和36年の災害対策基本法制定時からあるようで*2、その後、武力攻撃時にも同様の制度が設けられているようです*3。
小売店が「指定公共機関」に指定されたのは、
過去の災害において、これらの民間機関は支援物資を供給するという観点から非常に貢献してきたのですが、一般車両と同じ扱いを受けていたことから一般車両と同じ扱いになり、災害時に渋滞に巻き込まれてしまうという課題がありました。
ということから、緊急車両を事前に登録ができるようになったりして、災害時に迅速に対応できるだろうというねらいもあったようです。
イオンだけではない
しかし、その指定公共機関に小売業で初めてなったのは、イオンだけではありません。内閣府からの資料には、2017年7月1日付で、以下の流通事業会社が指定されたとあります。
<流通事業会社>
・株式会社イトーヨーカ堂
・イオン株式会社
・ユニー株式会社
・株式会社セブン‐イレブン・ジャパン
・株式会社ローソン
・株式会社ファミリーマート
・株式会社セブン&アイ・ホールディングス指定公共機関の追加指定について
http://www.bousai.go.jp/kohou/oshirase/pdf/20170627_01kisya.pdf
しかし、コンビニ各社は12日の計画休業を(すべてではないにしろ)決めてますし*4、イトーヨーカドーやユニーもそれに同じです*5。
と、「指定公共機関」に同時期に定められた他の小売業各社の判断の多くが計画休業であったことを考えると、イオンが営業時間短縮の方をとった理由については、「指定公共機関」だからでは説明ができません。なので、理由についてはイオンに聞いてみるしかありません。
イオンは災害時にどう対応するのか
「指定公共機関」に定められると、災害に関する計画を企業は立てなければなりません。イオンはどのような計画を立てているのでしょうか。
災害のタームには「予防」「応急」「復旧」があり、今回の台風での休業云々の判断は「応急*6」にあたるでしょうか。イオンは「災害応急対策」についてこのように計画しています。
1.被害情報等の報告
2.災害時における情報の収集、伝達
3.物資等の供給及び運送
4.要員の確保
5.都道府県の応急措置への協力
6.指定行政機関の長等の応急措置への協力
7.備蓄物資等の供給に関する相互協力
8.被災地の店舗への安定供給
9.災害時における広報
防災業務計画(イオン)
http://www.bousai.go.jp/taisaku/keikaku/pdf/bousai_aeon.pdf P9-11より作成
報告や情報の収集などは独自の判断で行える*7でしょうが、物資の確保や供給に関しては、原則的には、行政機関の要請を受けて、ということになります。
災害が発生し、又は災害が発生するおそれがある場合において、指定行政機関、都道府県知事又は市町村長から、物資又は資材の供給について要請があった場合、その必要な限度において協力し、被災地に供給するものとする。
前掲 P10
緊急を要する場合でも、「指定行政機関」からの指示が必要なので、関東に特別警報が出ているような日に、さすがに店を開けろと行政が指示をするとは思えません。
他の会社の防災計画も似たり寄ったりで*8、この計画を読む限りは、「指定公共機関」の小売業の役割は、災害後の物資供給の対応を期待されているように読めます。というか、ここでいう「災害」は、主に地震や津波などのものを想定しているように思え、おそらく今回の「台風」のような災害に関してはあまり考えていなかったのではないかな、と感じます。
社会インフラとは何か
しかし、私は今回の、「指定公共機関」をめぐる、「どこまで行政のニーズに対応するか」という問題は今後も考えねばならぬ問題であるとは思いました。
「指定公共機関」は大手コンビニ各社も指定されているのですが、当時の世耕国務大臣及び経産省の審議官はコンビニの役割として以下のように答えています。
我々としてできることは、例えば、指定公共機関として、災害のときにはコンビニ配送用のトラックを優先で通行させるようにするとか、あるいは非常用発電機の導入支援と、こういったことで我々としてもバックアップをしていきたいというふうに思っています。
参議院会議録情報 第198回国会 経済産業委員会 第8号 (2019年5月16日)
一つ、災害対策基本法上の指定公共機関に関しましては、現在、セブンイレブン、ローソン、ファミリーマートといったコンビニ三社を含む小売七社について、災害発生時に、地方公共団体や政府、災害対策本部を通じた要請により、全国の店舗網等のネットワークを生かして支援物資の調達それから供給を行うということで指定をされているわけでございます。
衆議院会議録情報 第198回国会 経済産業委員会 第6号(2019年4月10日)
ここでの答弁からも、コンビニなどの流通会社は、支援物資の調達や供給をすることを期待されていることがわかります。世耕大臣は、コンビニを「広い意味でこれは社会のインフラ的なものに私は当たる((
衆議院会議録情報 第198回国会 経済産業委員会 第6号(2019年4月10日)」と答弁しています。
それに対して、国民民主党の泉健太議員は、法人としての契約はあったであろうが、各個店との了解を本当に得ているのか、という点に疑問を抱いた質問をしています。
私、すべて悪いとは言わないんですが、こういった社会インフラと規定をされて、そして金融も防犯も防災もという形で、ある意味、店舗を運営した後に次々と役割が降りかかってきているのが今のコンビニの現場の現状なのではないのかなと。(中略)以前にも聞いたことがあります。オーナーの方々のお話の中で、災害のときに、とにかく店をあけ続けなさい、あるいは現場にとどまりなさい、お客様が来るかもしれないから。これはお客様を助けるという意味があるのかどうかわかりませんが、もちろん、本部からの、エリアごとの担当者の言動というのもこれまた一律ではないでしょうからいろいろなケースがあるでしょうけれども、さはさりながら、かなりオーナーさんに後から降りかかってくる責務のようなものがあるのではないかということを大変心配をしております。
同上
これはコンビニに限らず、スーパーもそうだとは思いますが、会社側がいくら「指定公共機関」の指定を受けて、様々な支援を受けられるからと言って、実際に運営するのは現場の人間なわけです。確かに都市化の進んでいる現代社会においてこれは「社会インフラ」ではありましょうが、それを動かすのも人間です。全体の措置としては必要なことだとは思いますが、それが果たして個々の店舗、人員にまで適切に適応できるのかというと、少々疑問が残ります。今は過渡期だとは思いますが、何とかブラッシュアップしていってほしい課題だなあと感じます。
今日のまとめ
①2017年7月1日に「指定公共機関」に指定されたのはイオンだけではなく、大手コンビニチェーンやイトーヨーカドー、ユニーも同時に指定されている。
②そのため、「指定公共機関」だから台風でも店を開けるというのは、各社の足並みが違うため理由にならない。
③小売業の「指定公共機関」の役割は「支援物資の調達や供給」を期待されているものであり、また、行政長や機関の要請があって行えるものである。
④このような「社会インフラ」の役割を決めていくことは大切だと思うが、実際に動かしていく現場への支援を考えていく必要がある。
私もそうなんですが、人間ってあまのじゃくなので、みんなが「そうだそうだ」と言っているものについては、「なんか理由があるんじゃないか」と勘繰ったりしてしまうんですよね。でも、企業も個人も、結構あんまり大した理由なくやっていることもあったりするもんで。いわゆる「目からウロコ」みたいな情報については、私はそっとウロコを戻して川に戻ることを、いつもお勧めしています。
*1:
台風19号の接近に伴ってスーパーやコンビニ、デパートは12日、首都圏を中心に多くの店舗を臨時休業とします。
(中略)
(イオンリテール)
首都圏と静岡のすべての店舗と福島の一部の店舗の営業時間を短縮し、12日の正午から午後5時までに営業を終えます。
*2:
以下、法律案(引用注:災害対策基本法)の主要な事項について概略を御説明申し上げます。
第一に、総則におきましては、国、都道府県、市町村、指定公共機関、住民等の防災に関する責務を掲げるとともに、国及び地方公共団体が特に配慮すべき重点事項を掲げ、この法律と災害対策に関する他の法律との関係等を明らかにしたのであります。衆議院会議録情報 第039回国会 本会議 第6号(1951年10月6日)
災害対策基本法の初案が見られればよかったのですが、日本の法律検索はそれをすぐにさせてもらえないところが厄介で…
*3:
武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律施行令(平成十五年政令第二百五十二号)第三条第三十七号の規定に基づき、武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律第二条第七号に規定する指定公共機関を次のとおり指定したので公示する。
平成十六年九月十七日
災害時と武力時では管轄が違うようなんですけど、どの程度区別されているのかはちょっとわかりませんでした。
*4:
台風19号のコンビニエンスストアへの影響。セブンイレブンでは、12日、首都圏・東海地方を中心に約1000店舗での計画休業を決めている。また、ファミリーマートは、東京・神奈川を中心に660店舗、ローソンでは関東の435店舗で休業している。
*5:
イトーヨーカ堂は、関東地方を中心に124店を12日に臨時休業する。対象店舗は、東京42店、神奈川32店、千葉20店、埼玉19店、茨城2店、岐阜1店、静岡3店、愛知5店。
ユニーは12日、ピアゴ・アピタ、愛知6店、三重1店、滋賀1店、静岡1店、神奈川5店、合計14店を臨時休業する。そのほか、愛知20店、静岡3店、千葉3店、埼玉1店、群馬2店、栃木1店、合計30店で、閉店時間を13時~16時に前倒しする。休業や閉店時間の前倒しは、店長判断で行っているため、対象店舗数は、今後、増える可能性があるという。
*6:
災害が発生し、又はまさに発生しようとしているとき
http://www.bousai.go.jp/taisaku/keikaku/pdf/bousai_aeon.pdf P9
と、イオンは計画内で定義しています。
*7:
2.情報の収集、報告
災害が発生した場合、グループ対策本部は、各店舗・各事業所等について、以下に掲げる情報を迅速かつ的確に把握し、速やかにグループ対策本部長に報告する。
(1)被害状況(営業休止店舗を含む)及び復旧状況
(2)店舗への商品の配送状況及び品切れ等の状況
(2)(ママ)避難所等への物資供給の要請状況
(3)復旧資材、応援、食糧等に関する事項
(4)従業員、消費者の被災状況
(5)対外応対状況(国、地方公共団体、報道機関等への応対状況)
(6)その他災害に関する情報
「防災計画」P9
*8: