ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

戸塚ヨットスクールの幼児教育はヤバイのか、暴力と恐怖のパラダイムシフト

 

戸塚ヨットスクールは、いま――現代若者漂流

戸塚ヨットスクールというと、あの過激な体罰と言動の戸塚校長を今でも思い出せますが、そこが幼児教育を始めていて、物議を醸しています。

netgeek.biz

記事としてはここのnetgeekが初出に近いと思われます。netgeekは、戸塚ヨットスクールの幼児期の合宿である「戸塚ジュニアスクール」のテレビ番組の放送を元に、様々な「体罰的」指導を批判的に書いています。

 

しかし、戸塚スクールの是非よりも、この記事の作為的な書き方が気になったので、主にその点について書きたいと思います。

 

 

***

netgeekの記事内容 

 

 netgeekの記事は以下のように構成されています。

 

①「小学生までに鍛える」校長の方針で、戸塚ジュニアスクールは年10回合宿を行っている。

②食事中は正座がルール。しびれても泣いても我慢させる。

③ヨット乗りの練習で4歳のAくんは、足がつかない海が怖いといってヨットの上に立とうとしなくなった。「立て!」と言っても立たないAくんを、戸塚校長は海に放り投げる。

④合宿所に戻る時、泣いていた3歳のBくんに「泣いてもやるんやぞ」と頭をぴしゃりとたたく。

⑤「分かった」と答えた和司くんに校長は「分かったぁ~?なんちゅう生意気な口きくんや!何もできんやつが」と言って今度は両手でビンタ。

⑥戸塚の教育方針は一時メディアからバッシングを受けたが、「今回、幼児にも同じ方針を貫いているのはさすがにまずくないか」と感じた取材陣はやんわりと質問すると、戸塚校長は「やらんのではない。やれんのや」となぜか半笑いで答える。

⑦子どもを入れた父親は「いい経験になったと思いますね」と一言。

⑧「子どもの異常な表情」について訊ねると、「疲れ切ってますね。車乗ったらすぐ寝ちゃうのかな。でもやりきったのかなという気はします」という返答。

⑨戸塚校長は、幼児期の教育の失敗が大きな原因と考えている。

⑩戸塚ヨットスクールの料金は、入校金324万円、入校時預かり金20万円、生活費月12万円とかなり高額設定。金持ちを相手にした阿漕な商売。

⑪幼児向けの合宿に手を出し始めたのは「儲かると睨んだからに違いない」。

この放送は東海テレビの「みんなのニュースONE」9月28日放送のもの。netgeekには動画のリンクも載せていますが、私はチョサッケンの関係から直接は貼りません。

 

で、この実際のニュースとnetgeekの記事内容を比較してみました。

 

正座について

確かに番組では「食事は正座です」とナレーションが入ります。が、こう続きます。

 

姿勢を正し、脚の痺れに耐えます。

 

で終わりなので、netgeekにあるように、「泣いても我慢させる」とは言っていません。これは筆が滑ったんでしょう。

 

ヨットの練習について

「食事が終わると海へ出てヨット乗りの練習」と記事にはありますが、放送の順番としては、食事のシーンは夕飯なので、時系列的には逆になります。それはたいしたことではありませんが。

 

また、記事だけを読むと、最初から「足がつかない海」で訓練を行うように読めますが、初めは浅瀬から練習をします。

 

訓練はウインドサーフィン。他の子どもたちは沖に向かいますが、初心者の二人は浅瀬です。

 

浅瀬では、なんども海に落ちて「失敗を繰り返すことで自分の未熟さを知」り、そして「成功することで達成感」を感じるために、基本を何度も反復すると説明しています。そこのやりとりは、画面の中ではとても和気藹々としています。

 

海に放り投げたことについて

4歳のAくんを海に放り投げたことについて、戸塚校長はこう説明します。

 

邪魔するのは、あの、恐怖なんよね。恐怖を克服しちまったら、あとは大丈夫。もともと立てるのを、怖がって立たなかったわけよね。だけど、立たんともっと怖い目にあうということ。それが体罰であったり、叱責であったりするんやけど

 

ここで、取材をしている人は、「まあ海に放り投げる行為自体、もう多分今親とかって、やらないですよね」と質問をするわけです。netgeekの「幼児にも同じ方針を貫いているのはさすがにまずくないか」と感じたから質問をしたとは言っていません

 

そして、確かに戸塚校長は「やらんのではない、やれんのよね」と言う訳ですが*1、netgeekの言うように「半笑い」かもしれませんが、それは始終そういう顔なので、別にこのときが特別なわけでもありませんし、そしてこの時点で「自分は体罰賛成派」だとは言っていません(他のところではいっぱい言っていますが)。

また、少なくともカメラの前では、あそこまで奔放な行動をしているのは戸塚校長だけであり、他のスタッフは、そこまで行き過ぎた指導をしているようにも見えません。さすがに昔ほどのようなことはないんでしょうかね。そればっかりは中に入ってみないとわからないですけども。

 

子どもは「異常な表情」をしているか

3歳児のBくんは、確かに頭をはたかれたり、両手でビンタされたりしています。ビンタというとか、思い切り頬を後ろから挟まれるような感じですが。確かにSEかというほどいい音してますね。細かいところですが、記事の書き方だと「ヨットの練習が終わって」と読めるのですが、番組から察するに、そのあとに「初の海上訓練」とあるので、まだ海には出てないかと思います。「走れ走れ」といわれていることから、朝のマラソンのような練習からの帰りではないでしょうか。

 

私はここが一番この記事のだめなところだと思うのですが、netgeekはこのBくんの最終日の様子を記者が「異常な表情」を父親に尋ねる、と表現しているのですが、あまりにも作為的です。

 

この場面は、3日間の練習を終えたBくんを見た父親のコメントです。

 

父親「いやあ、いい経験になったと思います」

記者「表情とか、ちょっと変化あります?

父親「たぶん疲れきってるだろうなあと思います(以下略)」

 

どこにも「異常な表情」という表現は出てきませんし、父親の言うように、Bくんの表情は疲れきった顔だということだけです。

 

戸塚ヨットスクールは高いのか

netgeekは、戸塚ヨットスクールのいろいろな料金の高さから「儲かる」からに違いないと結論付けていますが、ちょっと子どもの悪口みたいな書き方で締めています。果たしてそうなんでしょうか。

 

入学金云々は、戸塚ヨットスクールのページで確認できます。

 

非行・不登校・引きこもりに悩む少年少女☆戸塚ヨットスクールの入校案内

 

うーん、あくまでこの値段は入校の値段ですので、このジュニア合宿の値段はいくらかというと、3日間で6万円*2とのこと。1日に2万円。まあ、ヨットスクールと思うと、そんなもんなのか、それでも高いのか・・・

 

たとえば、こちらのジュニアヨットスクールは

スクール生募集のご案内|ジュニアヨットスクール葉山

ベーシック月2回で年間123600円。1日あたり5150円ですので、3日間と考えると15450円。まあ、相場よりちょっと高め・・・なのかな?

 

ちなみに、このジュニアヨットスクールは平成23年7月から始まっています*3

 

ジュニアスクールについては、運営母体は「戸塚ヨットスクールを支援する会」です(石原慎太郎が会長ですな)。現在の「戸塚ヨットスクール」本部のホームページの寂れ具合からみると*4、どうも支援する会の方に力が入っているようにも見えます。

 

なぜ好意的な映像なのか

スタジオでの反応は微妙だったとはいえ*5、この映像自体は戸塚スクールの指導方針に対して、好意的な編集のされ方がされているように感じます。

 

このドキュメントを撮ったのは齊藤潤一という東海テレビのディレクターです。

 

annsyoukyoukei.blogspot.jp

 

彼は「平成ジレンマ」という、戸塚ヨットスクールのドキュメント映画を撮っています。

heiseidilemma.jp

私はこの映画を見ていないので、内容が好意的なのかどうかは不明ですが、少なくともただ二元論的に戸塚を断罪する内容ではなさそうです。一緒に戸塚校長とトークショーもするぐらいなので*6、ある程度交友関係があると言ってもいいでしょう。むしろ、彼だからこそ、このような密着ドキュメントが許された、というところでしょう*7

 

 

今日のまとめ

①netgeekの記事は放映時の事実とずれていることが多く、作為的な編集のされ方をしている。

②戸塚ヨットスクールの指導方針がある程度肯定的に描かれているのは、以前から交流がある監督の撮影だからであると推察される。

 

私は一貫して、このような形の「教育」には異議を唱えます。村上春樹の言葉を引用させていただくなら「体罰が熱心さのひとつの方法論として独り歩きを始めた時点から、それは世間的権威に裏付けされたただの卑小な暴力に変わってしまうのだ」*8

 

私は、今回の東海テレビの放送は、世間にいまだ戸塚に子どもを預ける親がいるんだという現実を投げかけるという意味では、よいものではないかなあと感じました。哀しいかな、日本は、教育ということに関しては、まだこの暴力と恐怖の論理から逃れられていないように思います。それに対して有効なパラダイムシフトを、我々はまだ発見できていないのです。まずはそのことについて自覚的になることが大切ではないでしょうか。そうすれば、netgeekのような、事実を無視した記事ではなく、もう少し根本を見つめるものが書けるのだと思います。

 

 

 

*1:個人的にはこの「海に投げ込む」というものは、「罰」としてではなく、泳ぎ方を教えたりするときのやりかたとして都市伝説的によく聞くなあとは思います。

今時の水泳教室(ID:1005904)6ページ - インターエデュ(1008453の回答)

4歳の子供に水泳を習わせようか迷っています - その他(学校) 解決済 | 教えて!goo(No.2の回答)

051 スクーバダイビング初体験~バモスダイビング「お試しダイビング」~

ちなみに、これを今やると捕まります。

海に子供投げ込む「しつけ」。 兵庫 - 街の灯

*2:http://totsuka-junior.com/pdf/jus1609.pdf

*3:幼児教育について -戸塚ヨットジュニアスクール

*4:戸塚ヨットスクール〜不登校・ひきこもり・非行などの無料電話相談受付中〜

*5:「今の映像の中には、首をひねりたくなるようなシーンがありました」

「私の子ども3歳のときにここにあずけるかっつったら預けられないですよね」

*6:戸塚ジュニアヨットスクールブログ: 平成ジレンマ上映&トークショー

*7:ただ、齊藤が戸塚の教育方針を支持しているというわけではないかとは思います。しかし、そういう世間からバッシングされているひとをあえてとりあげることが多いようです。

【Interview】『死刑弁護人』齊藤潤一監督インタビュー | neoneo web

「公平なドキュメント」というのは難しいというか、不可能なのかもしれません

*8:「体罰について」

 

村上朝日堂はいかにして鍛えられたか (新潮文庫)

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