2ヶ月ほど前の内容ですが、最近TLに回ってきたので、どれどれと読んでみた記事があります。
増税分のうち社会保障の充実に使われていたのは、わずか16%だった・・・山本太郎事務所が内閣官房に問い合わせた結果、明らかになった。
84%は使途不明である。
山本事務所が「内訳はどうなってるのか?」と聴くと、内閣官房は「内訳は出せない」「そーゆーのは出せない」と答えたという。
安倍首相は今国会の施政方針演説(1月28日)で「増税分の5分の4を借金返しに充てていた」と明らかにしている。
借金は辺野古の埋め立てに代表される無駄な公共工事、米国製兵器の爆買いなどだろうか。
この手の話は素通りするのですが、今回は思うところあって取り上げてみます。消費税の増税の良い悪い、という話ではなく、そのような話をするとき、例えば上記のような記事はどれほど誠実に書かれているのか、という点について検証していきたいと思います。
山本太郎議員の街頭演説がソース
そもそも上記の記事は一体何を元にして書かれたものなのか明記されていません。うーんと思いましたが、記事には山本太郎議員の街頭演説の様子の写真が掲載されており、「21日、新宿駅南口」というキャプションもついています。ということは、この街頭演説が元になっているのでしょうか。
と、調べてみると、まさにどんぴしゃの動画がありました。
当該記事の内容は、12:25あたりからしゃべりはじめます。書き起こしましょう
*1。
消費税の引上げ分は、「社会保障の充実と安定化」に使われていたか否か。参ります。
これは、内閣官房、という部署が出してきたものです。で、1・2・3・4、4つのグラフがあります。一番左から、2014年、15年、16年、17年、全て3%ずつの税収、何につかったのかのざっくり説明です。初年度2014年度は、税収はそんなに高くなかったんですが、その後はだいたい同じぐらいで推移しています。3%の増税で得られたお金は、8兆円。8兆円と少し。じゃあ、一番右側、2017年を見ながら説明します。
2017年度の8.16兆円のうち、「社会保障の充実」、充実に使われたのは、赤い部分のみ。おかしくないすか。いくらかというと、割合でいうと16%、たった16%。おかしな話ですよね。「全額社会保障の充実化と安定に使う」と言っていたのに、蓋を開けてみたら16%しか、充実に使っていなかった*2。
じゃあその他は、「安定化」に使われていたのかな、それをチェックするために、内閣官房に連絡をしました。なんて聞いたか。
「すいません、チェックしたいので、全ての内訳、何に使ったのかという「内訳」を出してください」
というお願いをした。
結果どうだったか。
内閣官房が言うには、赤い部分、「充実」の内訳、「社会保障の充実」に使った16%の「内訳」は出せるけれども、それ以外の内訳は出せない。出さない。おかしくないすか。何に使ったか、その詳細がチェックできるような、内訳も出さないんです。いやいや、出すとか出さないとかの話じゃない、絶対にそれをもらわなきゃだめなんだ。当たり前ですよね。チェックしなきゃならないんだから。出してください、そう言ったら、返ってきた答えは、「うちはそういうのやってないです」。
「うちはそういうのやってない」って言っていいのは、頑固親父の店だけですよ。何言ってるんですか、公務員が。出さなきゃだめなんです。じゃないと、何に使われたのかがわからないから。
じゃあ、何に使ったのかな。一応ざっくりとは、まあ、一応名目は書いてあるんですけど、これだけじゃわからない、本当に使われたかどうかが。で、安倍総理が、ご自身でそれを告白してくれるという場面がやってきます。
昨年の自民党の総裁選とかでも言ってたことなんですけど、何を言い出したか。これは今年1月、国会が開くときの、施政方針演説において発言したものです。総理の言い分はこうです。
増税分の5分の4を借金返しに当てていた。増税分の約8割を、借金返しに当てていったって話なんです。おかしくないすか、それ。百歩譲って、その借金返しというものが、過去に社会保障で借金したものに関して、財源があったから返したんだというんだったら、理解しようとはします。
でも、それを確かめるためには、やっぱり内訳出してもらわなきゃだめなんです。だから内訳出せって言う話をするんですけれども、「そういうのうちではやってません」。何が言いたいか。非常に不透明。はっきり言えば、16%以外で、何に使われているか、はっきりさせることを拒否しているんです。
てことは、消費税が、「社会保障の充実と安定化」に必要なんだというロジック自体も成り立たないんですよ、これ。
長いですが、内容を読んでいただければ分かる通り、当該記事は、山本議員の街頭演説の内容*3をそのまま記事にしたものであることがわかります*4。
もともと「社会保障の充実」は16%
しかしながら、山本議員の言う「たった16%」という「社会保障の充実」は、その割合について、そもそも民主党政権下において話し合われていたことでもありました。
いわゆる「社会保障と税の一体改革」は、2007年の社会保障国民会議から話し合われてきたことでもありますが、2012年の野田政権の際に、民主・自民・公明の三党合意によって明確にされました。このとき出された「社会保障・税一体改革に関する確認書」では、社会保障の財源について、消費税を使うことが明言されています。
4 国民が広く受益する社会保障の費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合う観点などから、社会保障給付に要する公費負担の費用は、消費税収(国・地方)を主要な財源とする。
「社会保障・税一体改革に関する確認書 」P9
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/law/kodomo3houan/pdf/s-kakuninsyo.pdf
これに先立つ2011年7月1日では、すでに「社会保障・税一体改革成案」が閣議決定されています*5。それを踏まえて出された同年11月の、内閣官房が出している「安心を支え合う日本へ 社会保障と税の明日を考える」というパンフレットを読むとわかるのですが、この時点ですでに、増税分の使途が述べられています。
パンフレットには、「社会保障の安定財源の確保」という項目の中で、消費税5%の引き上げは、「社会保障を維持・充実し、同時に財政健全化も達成するためのものです」とキャプションがつけられています。そして、下の図のように、引上げ分の5%を、
- 制度改革に伴う増 …1%
- 高齢化等に伴う増 …1%
- 年金2分の1(安定財源)…1%
- 機能維持(負担の先送り軽減)...1%
- 社会保障支出等の増 ...1%
と弁別しており、この「制度改革に伴う増」が、今回言うところの「社会保障の充実」に関わってくる場所になってきます。 パンフレットでは「制度改革に伴う増」を2.7兆円規模と見積もっており、今回の1.35兆円とずれますが、パンフレットは5%引き上げた際の概算ですので、3%増収で考えている1.35兆円と、そう大きく開きはないのではないでしょうか。
2014年の8%へ引き上げられる際も、2013年の第6回基準検討部会において、「社会保障の充実」と「増税に伴う4経費の増」の合計は0.7兆円程度と推計されています。
そして、消費税の税収を社会保障にあてることは、法律に明記されています。
消費税の収入については、地方交付税法(昭和二十五年法律第二百十一号)に定めるところによるほか、毎年度、制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする。
消費税法 第一章第一条第二項
要するに、「社会保障と税の一体改革」の成り立ちにおいて、直接的に行う「社会保障の充実」は、税収を全て使うことなどはじめから予想されてはいないのです*6。山本議員の説明の仕方では、まるで現政権が約束を反故にして、わずかな部分しか社会保障に回していない、ととれてしまいます。
「借金の返済」も既定路線
そもそも社会保障にかかるお金は現状の予算からは足りていません。平成30年度の資料になりますが、いわゆる「社会保障4経費」の合計額に、消費税の増収分は全く届きません。
足りない部分は何で補っているかと言うと、「公債金」、要するに国債やらなんやらで賄ってきたわけです。この社会保障による財政赤字の状態をどうにかしたい、というのが、「社会保障の安定化」です。この「社会保障の安定」の考え方は、改革の当初より出ています。
現在、社会保障財源の相当程度が赤字国債で埋められているが、その部分を税収で賄えれば、社会保障の財源基盤がしっかりすると同時に、副次的な効果として赤字国債の発行縮小にもつながる。社会保障を強化することと財政健全化をするということは、両立できるということを国民にアピールすべき。
第2回 社会保障改革に関する有識者検討会
議事要旨より(2010年11月16日)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/kentokai/dai2/gijiyoushi.pdf
また現状では、公債依存を通じて、将来世代に負担が先送りされていることを自覚し、将来世代への先送りを見直すこと、社会保険の揺らぎを税負担で補完すべきこと、(中略)財政の健全化のみを目指すことになれば、社会の活力を引き出せないということから、社会保障強化と財政健全化の同時達成が必要であるとしている。
第1回社会保障改革に関する集中検討会議
議事要旨より(2011年2月5日)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/syutyukento/dai1/gijiyoushi.pdf P3
つまり、「借金返済*7」に増収分が使われることもまた、既定路線だったわけです。
山本議員はこのことを知ってか知らずか、内閣官房が「そういうのは出せない」と言ったという挿話のあとに、「安倍総理が、ご自身でそれを告白してくれるという場面」があったという話を始めます。これは事実で、2019年1月28日の施政方針演説にて述べられています*8
増税分の五分の四を借金返しに充てていた、消費税の使い道を見直し、二兆円規模を教育無償化などに振り向け、子育て世代に還元いたします。
平成31年1月28日 第百九十八回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説 | 令和元年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ
山本議員はまるでこれを失言かのように取り扱っていますが、今まで見てきたように、これは、そもそも社会保障と税の一体改革の初めから決まっていたことであり、民主党政権化の中で決まっていたことでもあります。
また、大変大事なことは、上記の引用を読んでも分かる通り、ここの発言の要旨は「借金返済に充ててたんですよ」ではなく、その「使い道を見直し」、「子育て世代に還元」するという部分です。つまり、山本議員の言うところの「使途不明」の部分のお金を、より「使途」が"明確"になる使い方をしたいんです、と安倍総理は言っているわけです。「内訳」がわかってよかったじゃないですか。
これ以上「内訳」はあるのか
山本議員が街頭演説や予算委員会で提示したグラフは、演説では「内閣官房、という部署が出してきたもの」、記事では「内閣官房に問い合わせた結果」としていますが、そもそもネットに転がっている資料です。
事務所のグラフの画像にはしっかり引用元が書かれているのですが、「内閣官房社会保障改革担当室」が作成した「社会保障と税の一体改革における財源・使途の状況」(平成29年6月22日)という資料の1ページ目が元になっています。
山本議員は、上図の赤の「社会保障充実分」以外の項目を「ざっくり」とした「名目」としていますが、果たしてこれ以上の内訳を出すことなどできるのでしょうか。「社会保障の安定」として示されているのは、「税率引き上げによる4経費の増」「基礎年金2分の1恒久化」「後代へのつけ回し軽減」になりますが、「税率引き上げ~」はその名の通り税率が上がったための増分であり、「基礎年金~」は思いっきり社会保障の枠に入るもの*9ですし、「後代へのつけ~」は、社会保障関連施策への公債発行への充当を意味するので、なんだろう、これ以上どうやって内訳を出したらいいのか、私だって聞かれたら「そういうのは出せないんです」って言いそうです。
まあ一応あれなんで、私も 「内閣官房社会保障改革担当室」に、この社会保障の4経費のこれ以上の内訳が出せるのか問い合わせてみたところ、以下の答えが返ってきました。
- 「社会保障の充実」についての内訳は出せる(というか出ている*10)
- それ以外の項目については、一対一で対応しているようなものではないので、出すことはできない。
なるほど、確かに答えとしては「そういうのは出せない」し、「うちはそういうのやってません*11」になるでしょう。しかし、だから「使途不明」になるかというと、それはいわゆるミスリーディングというやつです。国の財政に詳しい人がいればこの「内訳」が存在できるかどうかお聞きしたいところなんですが、少なくとも、「無駄な公共工事、米国製兵器の爆買い」には、消費税法上、使われていないんじゃないかとは思います*12。
今日のまとめ
①当該記事は、山本太郎議員の街頭演説の内容の要約である。
②直接的な「社会保障の充実」は、そもそも民主党政権下の三党合意のころから、増税分の1%程度にすることが決まっていた。
③同様に、「社会保障の安定化」の項目についても、同じ頃から決まっていた。
④直接対応していない「社会保障の安定化」の項目の内訳を出すことはそもそも無理なのではないか。
だからといって、「消費税はちゃんと社会保障に全額使われているから安心だね!」「消費税の増税は正しいんだ!」「安倍政権は正しいんだ!」というわけではないことは、重ねてエクスキューズしておきたいとは思います。私が問題にしているのは、このような報道の不誠実さについてです。
今まで見てきたように、当該記事は山本議員の街頭演説を、そっくりそのまま記事にしています。けれども、タイトルには「山本太郎事務所が突きとめる」とありますが、一個人の私が問い合わせても答えてくれるような内容です。この記事を書いた方は「ジャーナリスト」のようですが、果たして議員の言葉をそのまま鵜呑みにして右から左へ流すことがジャーナリズムなのでしょうか。それは報道ではなく、ご神託です。巫女のお告げをありがたがる人びとと何ら変わりはありません。山本議員の言葉は、その一つ一つは事実に基づいていますが、その事実を自身の政治的信条に曲解させるような使い方をしています。百歩譲って政治家としての戦い方としてはアリなのかもしれませんが、それを報道する側の姿勢を考えると、我々は信者になってしまってはいけない、と思います。
*1:
一応、前段を読みたい方向けに、こちらも書き起こしておきます。長いので無駄なところは中略しています。
日本の財政破綻について、これからみなさんに、シェアさせてもらっていいですか。
まず消費税。消費税は必要だと思われる方、どれくらいいらっしゃいますか。
(中略)
消費税がとられている理由、みなさんご存知ですか。国の説明では、「社会保障の充実」に必要だ、というお話なんです。「社会保障の充実や安定」に消費税は必要だっていうのが、国の説明。ホントですかね。じゃあ、答え合わせしてみましょう。すいません、ポスター出ますかね。
(中略)
消費税、2014年の4月から、5%から8%、要は3%の増税が行われる前に、お知らせしたものです。なんて書いてあるか。読みます。「消費税率の引上げ分は、全額、社会保障の充実と安定化に使われます」ということです。
(中略)
自民党の公約集です。なんて書かれているか。
「消費税財源は、その全てを確実に、社会保障に使い」って書いてあります。消費税挙がったあとの選挙でも、しっかりと約束をしている。だから消費税上がる前にも、こういうポスターを作ったって話です。では、答え合わせをします。
*2:
山本議員は、このグラフを決算のように扱っていますが、これは消費税率1%の財源を2.8兆円とした機械的な試算なので、この語り方にも違和感は残ります。
*3:
もう少し正確に言うと、この山本議員の街頭演説は、2018年3月28日の予算委員会での発言内容ともかぶっています。
「参議院議員 山本太郎」オフィシャルサイト | 2018.3.28 予算委員会「消費税、全額社会保障のサギ」
上記の発言に、「内閣官房」に問い合わせた内容なるものが付け加わったのが、街頭演説の前半部分です。予算委員会の議事録を読むとわかるのですが、誰も山本議員のこの質問(なのか?)に答えていないのは、なんでなんでしょう。
*4:その後の法人税云々の話も、記事内容と合致します。
*5:
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/pdf/230701houkoku.pdf
*6:
そもそも、増収分の使途の優先順位としては、「基礎年金国庫負担割合2分の1」のほうが高いです。
○ 社会保障の安定財源確保と財政健全化の同時達成を⽬指す観点から、平成30年度の増収額8.4兆円については、
①まず基礎年⾦国庫負担割合2分の1に3.2兆円を向け、
②残額を
・「社会保障の充実」及び「消費税率引上げに伴う社会保障4経費の増」と
・「後代への負担のつけ回しの軽減」
に概ね1︓2で按分した額をそれぞれに向ける。税制調査会 第17回総会 資料(財務省)
*7:
私は詳しくないのですが、「借金返済」という言葉はどこまで正確なんですかね。みずほ総合研究所の野田彰彦は、過去に生じた借金の返済に充てられるのは年金特例公債の償還分(毎年度2600億円)だけであり、「借金の返済」よりは「財政赤字の削減」などと表現するほうが適切だろうとしています。
「消費増税による増収分の使途変更」より
https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/insight/pl170926.pdf
*8:
というか、それ以前の2017年9月25日に記者会見においても述べています。
現在の予定では、この税収の5分の1だけを社会保障の充実に使い、残りの5分の4である4兆円余りは借金の返済に使うこととなっています。この考え方は、消費税を5%から10%へと引き上げる際の前提であり、国民の皆様にお約束していたことであります。
平成29年9月25日 安倍内閣総理大臣記者会見 | 平成29年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ
これも本文と同様で、この発言の直後に、安倍総理は「この消費税の使い道を私は思い切って変えたい」と述べ、「子育て世代への投資」にも消費増税の増収分を使いたいという、使途を変更する旨を伝えています。
*9:
「基礎年金国庫負担割合2分の1の恒久化」厚労省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/nenkin01.pdf
*10:「社会保障の充実」の「内訳」は、先述した「社会保障と税の一体改革における財源・使途の状況」の資料の2ページ目に「これまでに実施した主な施策」という項目で、財源をどんな施策に充ててきたかが列挙されています。
*11:
決算の内訳をみたいなら財務省では?という気もします。
*12:
一つの議論として、目的税でもない消費税に、定まった使途をつけること自体がおかしいのではないか、というものはあります。これはすでに、有識者検討会の段階から出ていることです。
お金に色はついていないから、消費税を増税しようが、公共事業等を削減しようが、その役割分担というのは単なるレトリックにすぎないとの考え方もある(後略)
第3回 社会保障改革に関する有識者検討会
議事要旨(2010年11月22日)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/kentokai/dai3/gijiyoushi.pdf
いわゆる「単一性の原則」というやつで、その観点から見て、「消費税を目的税のように福祉財源に充てるのはおかしい」という議論はアリなのかなあと思います。ここらへん詳しくないので、調べた限りは、ですけど。