【5/8追記】
明治安田生命の調査の「今年のGWはどのように過ごしますか」の回答方法について「なんのために自宅でゆっくりするのか」の項に追記しました。
GWいかがおすごしでしょうか。今回気になったツイートはこちら。
今回の10連休、75%の国民が「お金がないから自宅で過ごす」と言っていて、海外旅行に行くのは2%だけなのに、混雑する国際空港を映して「出国ラッシュ」と報じるマスコミ各社。3%の富裕層のために97%の国民が虐げられている現状を「3%の側から報じる」のって、これも「安倍晋三への忖度」ですか?
— きっこ (@kikko_no_blog) April 27, 2019
最後が「安倍晋三~」になってしまうのはご愛嬌ですが、今回はこのツイートに出てくる
- 75%の国民が「お金がないから自宅で過ごす」
- 海外旅行に行くのは2%
- メディアは富裕層の3%の側から報じる
という数字が気になったので調べてみました。
明治安田生命の調査か
今年のGWの過ごし方については、いくつか調査がある*1のですが、おそらく、ツイート主は明治安田生命の調査を元にしたニュースを見たのではないでしょうか。
また、平成最後の日にどう過ごすかとの問いには、およそ76%が自宅でゆっくり過ごすと答えている。
またアンケートでは、10連休中の過ごし方についても聞いていますが、「自宅でゆっくり」が74.7%と大半を占めていて、次いで、「国内旅行」が15.4%、「帰省」が14.9%となっています。
また、過ごし方については、「自宅でゆっくり」が最も多く、74.7%。
他にめぼしい調査も見当たらないので、これが元なんじゃないかと考えられます。
明治安田生命 「家計」に関するアンケート調査を実施!
https://www.meijiyasuda.co.jp/profile/news/release/2019/pdf/20190425_01.pdf
上記のアンケートの詳細を見ると、確かにGW中の過ごし方については、「自宅でゆっくり」が74.7%*2、海外旅行が2.2%とあり、元のツイートの数字に近くなります。
なんのために自宅でゆっくりするのか
しかし、注意しなければならないことは*3、調査対象は「20~79歳の既婚男女」であること、そして回答はあくまで「自宅でゆっくり」であり、「お金がないから自宅で過ごす」かどうかはわからない点です。
前者の調査対象については、「既婚男女」という限定がかかるため、これを果たして「75%の国民」と拡大解釈していいのかという疑問があります。後者については、今回のアンケートには「自宅でゆっくり」する理由を問うていないため、果たして「お金がないから」自宅で過ごすのかどうかがなんとも言えません。
【5/9追記】
明治安田生命のお問い合わせ窓口に、この「今年のGWはどのように過ごしますか」は、単一の回答なのか複数回答なのかを聞いたところ、「複数回答である」というお答えをいただきました。 「3つ選べ」などでもなく、選択肢の中からいくつでも選んでいいという方式だったそうです*4。だから100%を超えているんですね。
ということは、75%の「自宅で過ごす」人は、10連休すべて自宅で過ごすわけではなく、国内旅行やら帰省やらと一緒に、「自宅で過ごす日も計画している」という可能性の方もいる、ということなんでしょう。というか、10日間ぶっつづけでどっかにでかけている人の方が少ないんじゃないでしょうか。そりゃ、「自宅で過ごす」が多くなります。
ただそうすると、多くの(ぜんぶ?)メディアは「複数回答」であることに触れていないので、報道を見た人は、「75%の人はみんな自宅でゆっくりするだけなのか」と思うでしょうし、「25%ぐらいしか遠出しないって意外と少ないなあ」という認識になるのは、仕方がないことだと思います。これは報道の怠慢なのか、ただの提灯記事なのか…
【追記ここまで】
ただ、なんとも言えないだけではつまらないので、他の調査から推測はしてみます。
明治安田生命は、夏休みについても同じような調査を毎年行っており、これが参考にできそうです。
例えば、2018年の調査では、夏休みの過ごし方について、
○夏休みの過ごし方について聞いてみたところ、トップは「自宅でゆっくり」(75.9%)、2位が「国内旅行」(37.1%)、3位が「帰省」(31.9%)となりました。
明治安田生命 夏に関するアンケート調査を実施!(2018年8月1日)P8
https://www.meijiyasuda.co.jp/profile/news/release/2018/pdf/20180801_01.pdf
とあり、今回のGWの調査結果と順位としては全く同じです。長期休暇は、みんな考えることはあんまし変わんないのかもしれません。
この調査は「自宅でゆっくり」の理由も聞いているのですが、多い順に、「出費がかさむので」「暑いので、外出したくない」「疲れをとりたい」「自分の趣味や時間を楽しみたい」となっています。
「出費がかさむ」は確かに「お金がない」に通じるかもしれませんが、それだけが「自宅でゆっくり過ごす」理由ではないことは、上記の結果からわかります。ちなみに、この割合は2017年もさほどかわりません。
もちろん、別の調査結果ですので、今回のGWの話と関連付けることはできないのですが、しかし、「自宅で過ごす」人の理由は「お金がない」だけではなく様々だ、という証左のひとつにはなるのではないでしょうか*5
富裕層は3%なのか
明治安田生命の調査結果は、GWへお金をいくら使うかに「0円」と答えた人が3割近くを占めていることにも触れているので、持てる者と持たざる者の二極化が進んでいる、というような論調を持つことも可能*6だとは思います。果たして、メディアの報道は、そんな「富裕層」側からのものなのでしょうか。
富裕層が「3%」というのは、野村総合研究所の調査結果に近いかなあという感じです。
野村総合研究所(NRI)は12月18日、日本の富裕層に関する調査結果を発表した。これによると、2017年に1億円以上5億円未満の純金融資産を持つ「富裕層」は118万3000世帯、5億円以上を保有する「超富裕層」は8万4000世帯に上ることが分かった。
1億円以上の純金融資産を持つ「富裕層」「超富裕層」は 約126万世帯で、日本の世帯数は約5340万世帯なので*7、単純に割ると2.3%。まあ、それなりに近い数字でしょうか*8。世帯数というところが気になりますが、目をつぶります。
しかし、富裕層ではない私ではありますが、たとえ1億円なくても、5000万ぐらい純金融資産があったら、10連休で海外ぐらい行くかもしれません。野村はそこらへんを細かく「準富裕層(5000万~1億未満)」「アッパーマス層(3000万~5000万未満)」とわけていますが*9、そこまでの世帯を加えると約1169万世帯となり、全世帯の21%と少々割合が大きくなってきます。果たして、ツイートの言うように、日本は「3%の富裕層のために97%の国民が虐げられている」状況なのでしょうか。これはかなり物事を単純化しすぎていると感じます。
安倍政権への忖度なのか
これはおまけですが、最後に、そんな2%程度の海外旅行の様子を伝えるメディアは、「安倍晋三への忖度」を行っているのか考えてみます。
どう検証したらいいかよくわかりませんが、素直に、安倍政権以外の政権だった時に、GWの海外旅行がどのように報じられてきたかを見てみましょう。今回は、民主党政権下だった、2009年9月16日~2012年12月26日の、主要4紙とニュース番組のGW中の「出国ラッシュ」の伝え方について調べてみました。
例えば、2010年4月28日の読売では、「GWウキウキ出国ラッシュ」というタイトルで、以下の記事を載せています。
関空会社によると、GW期間中、関空から出入国する総旅客数は32万1100人。(中略)この日は普段より2割多い1万5500人が出国。マレーシアを6日間の日程で訪れる大阪府茨木市の会社員***さん(25)は「ジャングルを歩くツアーに参加して、仕事の疲れをリフレッシュしてきます」と笑顔を見せていた。
読売 2010/4/28 大阪夕刊 P15
朝日も2012年4月28日の東京朝刊で「一足お先に、ひとっ飛び 成田空港で出国ラッシュ」というタイトルで、成田空港の様子の写真を載せたり、産経も2011年4月30日大阪朝刊では「故郷へ海外へ さあ楽しむぞ GW初日 各地で混雑 」というタイトル…というような感じで、総じて好意的な形で「出国ラッシュ」を伝えています。
過去のニュース番組も、2012年4月28日のANNでは
と、グアムに行く子どものコメントを放送したり、映像はありませんが、TVでた蔵の記録によれば、2011年4月29日のミヤネ屋では、
国際化して初めてゴールデンウィークを迎えた羽田空港では今日が出国ラッシュのピーク。 一方、落ち込んでいた国内線の利用者も駆け込み需要で回復してきた。
と、羽田空港の様子を伝えたり、2012年4月27日のNEWSアンサーでも、GWの成田空港の出国ラッシュについて伝えています*10。
このマスメディアのGWに対する報道姿勢の是非についてはともかく、とりあえず政権が誰だろうと、おんなじようにマスコミは、混雑した空港の様子を伝えなければらない使命があるように見えます*11。
今日のまとめ
①当該ツイートの割合の数字は、明治安田生命の調査結果を元にしているように見える。
②当該調査は、「既婚男女」が対象であり調査範囲が限定されていること、他の調査からも「自宅で過ごす」理由は「お金がない」だけではないだろうということなどに留意する必要がある。
③「富裕層」は確かに2%程度であるものの、純金融資産が3000万円以上の世帯割合は21%程度となり、「97%の国民」が虐げられているという表現は少し物事を単純化しすぎている。
④マスコミは政権がなんであっても、GW中の出国ラッシュを報じている。
こういう記事を書くと、右だ左だというご意見をいただくこともあるのですが、このブログの性質上、特に私としては何かの立場を表明しているわけではありません。私が気になっているのは、この当該ツイートについて、そのリツイートやふぁぼに比べて、あまり数字の出所について言及されていないという点です*12。数字の真偽そのものではなく、「数字の真偽」について気にする姿勢のほうが、私は大切だと思います。
今までいろいろなツイートやらなんやらを調べてきましたが、みんな、言葉ではなく雰囲気を読んでいるのかなあと感じます。あるいは文章ではなく態度を読んでいるというか。姿ハ似セガタク意ハ似セ易シ。
*1:
調査というほどではないかもしれませんが、過ごし方については「東京ビューティー」の調査。
調査対象となった10~80代の男女185人(女性146人、男性39人)のうち、今年のゴールデンウィークは「自宅で過ごす」と回答したのは160人。
海外旅行については記事内にも載せたJTBの調査。
総旅行人数は前年比1.2%増の2467万人になる見通し。そのうち、国内旅行人数は1.1%増の2401万人、海外旅行人数は6.9%増の66万2000人を見込む。
GW10連休の総旅行人数は1%増の2467万人、海外旅行は5泊以上が急伸、国内旅行のピークは2回に ―JTB推計 | トラベルボイス
他にも、
今年のゴールデンウィーク中の予定を聞くと、1位「買い物に行く」47%、2位「睡眠をたっぷりとる」46%、3位「テレビやDVDを観る」29%でした。
ゴールデンウィーク中の予定についても聞いたところ、未定と回答した人を除く528人で見ると「自宅でゆっくりする(47.2%)」が最も多い結果となり、次いで「家事をする(掃除・整理整頓など)(22.3%)」が続きます。
など。いずれもツイートの割合とはあいません。
*2:
ただ、この数字を伸ばしているのは、60~70代であるのも気になるポイントです。
*3:
もう一つ留意点をあげるならば、回答の割合の合計が100%を大幅に超えていることが気になります。複数回答だったのかなと思ったのですが、そしたらそれを明記するような気がするので、統計に自信のない私はよくわかりませんでした。仮に複数回答であったとするなら、余計「75%の国民」という表現はおかしくはなります。
回答をもらったので追記しています。
*4:
ただ、気になるのは、ならばなぜ調査結果には「複数回答」というアテンションがなかったのでしょう? 同一調査の他の項目には、複数回答だった場合はちゃんと明記されているにもかかわらずです。ただ単につけ忘れたのか、いやらしい見方をするなら、二極化しているという見方を強めるために、あえて外したのか…。
*5:
もう一つ「お金がない」にケチをつけるなら、この調査では、およそ3割の人が国内での移動を予定しているということもあります。
国内も結構高いですよ…。
*6:
一方、GWの予算は約3割の人が「0円」と回答。また、約7割の人が予算を「変えない」「減らす」と回答しており、節約志向の人も多い結果に!
前掲 P1
とあり、GWの消費動向は「二極化」が進んでいると伝えています。
*7:
世帯数は5340万3千世帯となり、平成22年から145万3千世帯の増加、率にすると2.8%増となりました。
*8:
もちろん、調査によって違います。「World Wealth Report」では、富裕層を「100万ドル以上の投資可能な資産を持つ個人」としており、日本は2016年に289万1000人なので、約2.2%になります。人口で考えるなら、こっちの方が近いかもしれません。
*9:
*10:
GW 海外派は…早くも出国ラッシュ
GWの過ごし方が、海外派か自宅派か、2極化している。成田空港では、出国ラッシュが始まっている。
*11:
ちなみに、出国ラッシュについては、GWよりも、夏休みと年末年始の方が圧倒的に報道回数が多くなります。今年のGWのが例年よりも目立つのは、やはり10連休だからでしょう。ただ、今年のGWの報道の多さが安倍政権への忖度だと言われると、うーん…
*12:
もちろん、統計のソースを気にしているリプを残している人もいますが。