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ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

「いのちの電話」の相談員はどれほど大変なのか、24時間なやめますか

国内ニュース twitter

もう1ヶ月以上も前の内容なのですが、こんなツイートが気になりました。

 

 

幸運にも私は電話をかける境遇にはなったことが(今のところ)ないですが、相談員がなかなか増えずに苦労しているという話は伝え聞いたことがあります。あわせて、なかなか相談員になるのも難しいということも。

 

ということで、このたび、特に金銭面について詳しく調べてみたところ、場合によっては「3~4万」でおさまらない感じだったので、調べた感じを記載しようかと思います。

 

 

***

 

 

相談員になるためには

まずは簡単に、「いのちの電話」相談員になるために必要なことを書き出してみます。

 

「いのちの電話」は日本では1971年に東京で開設されたのが始まりだそうで、現在は42の都道府県に49センターあるそうです。

 

相談員になるためには、実はこのセンターごとに若干違う部分があるのですが、東京の要項から抜粋すると、

 

○相談員になるには、所定の手続きを経て、その後約1年半の養成研修を修了し、認定を受けます。いのちの電話の活動は、電話相談の担当や研修を受けることの他、後援会活動・委員会活動・研修活動などにも積極的に参加することが望まれます。新たな研修を受けて、インターネット相談に携わっている相談員もいます。
○相談員としての活動は、すべて無償です。


○認定後は月に2回の電話担当(年数回の深夜担当を含む)、月に1回の継続研修が必須です。

相談員募集 | 東京いのちの電話

 

研修は前半には毎週1回程度、宿泊の研修なども含みます。なかなかタイヘンそうです。

 

深夜も含めた電話相談に加え、後援会の活動に参加されることも望まれるので、けっこう時間に余裕がなければ務まらない気もします。

 

今回の調査方法

さて、今回は特に、相談員になるための研修の受講費に主眼をおいて調べました。これ、センターごとによって費用も変わるし、書いてある場所も違うし、内容も違うので、なかなか苦労しました。

 

・各センターのホームページ上に記載されているものを参照。

・基本的には最新の情報を使うようにしているが、ホームページ上に掲載されていない場合は、アーカイブを使って数年前の情報を使ったものもあり、金額は現在と異なる場合がある。

・費用は「前期・後期」のように分かれる場合もまとめた金額を掲載。

・グラフには宿泊費や申し込み手続き費用も含む(注釈の表では分けています)。

・宿泊研修があるにも関わらず明示されていない場合は、明示されているセンターの宿泊費の平均=13000円を付加。

 細かい計算間違いはご容赦いただければと思います。では、みてみましょう。

 

各センターの受講費ランキング

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*1

トップが横浜の96000円で、一番安いのが山梨県の13000円という結果になりました。全国の平均は49153円で、まあ大体50000円ほど受講費がかかるということになるでしょう。これに加えて、交通費や昼食代もかかるので、「3~4万自費」ではすまない場合がほとんどでしょう。なかなか結構な金額になるはずです。

 

なぜ金額がバラバラなのか

一番金額が高い横浜は、受講費だけで70000円かかる上に、2泊3日と1泊2日の宿泊研修がそれぞれあるため、高額の設定となりました。

 

また、一番安い山梨県は、実は県からの補助金が出ているので、受講費に関しては無料になるんですね。かかるのは宿泊費のみになるので、仮の宿泊費13000円が設定されたわけです*2

 

なぜ金額がバラバラなんでしょうか。

 

研修の回数がそもそも違うのかとも思ったのですが、単純に講義などの回数をカウントすると、横浜は37回*3、山梨は24回に残り第4課程が何回かあるようです*4。多少は少ないですが、そんなに変わるもんでしょうかね。

 

とはいっても、山梨は補助が出ていて実際の受講費がわからないので、アベレージの京都も数えてみると、45回*5で、横浜より多くなりそうです。研修期間もほぼ一緒のようですので、受講の回数などは関係なさそうです。

 

あとは、研修の会場費など、首都圏と地方ではかかる金額が違いそうです。しかし、そうすると首都圏のセンターがもっと上位にかたまっていてもいいと思うのですが、東京なんかは中の上ぐらいですし、どこまで相関があるかよくわかりません。大体、川崎の受講費用は59000円ですので、横浜の70000円と結構差があるのもなんでなんでしょう。

 

研修を受ける規模が大きくなれば費用は上がるとは思いますし、来てくれる講師の方の謝礼などもいちいち変わるでしょうから、センターごとにばらばらになるのはいたし方ないと思うのですが、ここまで差があるのはいかがなものでしょうか。

 

イギリスの「いのちの電話」はどうか

そもそも、日本で「いのちの電話」が生まれるきっかけとなった、イギリスの「Samaritans」はどうでしょうか。

 

Samaritans |

 

Samaritansは1953年にChad Varahという牧師によって設立された、世界で初めてといわれる自死を防ぐための電話相談サービスです。

 

2011年現在ですが、Samaritansには20665人のボランティアがいて、201の支部に分かれているようです*6。日本いのちの電話連盟によれば、日本は6500人のボランティアの49センターなので、かなり違いがありますね*7

 

Samaritansも相談員はボランティアながら、なるためには訓練を受けなければならないとされています。3時間の研修を8回ほど、数週間かけて行われ、4~6ヶ月ほど、ベテランの人とペアで実際にシフトを体験してみるようです*8

 

研修にいくら費用がかかるのか、あんまり調べてないんですが、BBCの十数年前の記事のソースですが、一人当たり18ポンド(当時で2970円ぐらい)で、しかも96%に公的な援助があるようです*9。ただ、ボランティア個人が払うのではなく、Samaritansの負担としてという気がします。いずれにせよ、かかったとしても少額という事でしょう。

 

また、交通費も自費で支払う必要がない旨が書いてあるので*10、現実問題として多少はポケットマネーに手をつけることはあるようですが*11、組織としては交通費負担もないということになります。

 

しかし、これでも、Samaritansの資金不足、ボランティア不足は深刻なようで、2011年のDailyMailの記事にもその旨が書かれていますし*12、Samaritansのページにいくと「Please Donate」の文字がどのページにも出てきます。いわんや日本をや、ですね。

 

組織としての問題

そんな中で、「いのちの電話」の相談員を志し、そして活動をされる方には頭が下がる思いです。中には色々相談員に関して言う方もおられるようですが、「基本的には」、みなさん善意と信念でもってやられていることなのでしょう。

 

だからこそ、もう少しこの「いのちの電話」という組織は改善していかなければならないのではないか、と思われます。

 

Samaritansは「支部」という形で全国に配置をしていますが、日本の場合は、立ち上がった社会福祉法人やらNPOやらに、「日本いのちの電話連盟」が「いのちの電話」という商標を使ってもいいよ、というな認可を与えているような形のようですので*13、各センターはあくまで連盟に加盟をしている独立した個々の団体ということになります。

 

だから、研修に関しても、連盟の規定の「③相談員研修には,講義および自己理解・相互理解に関わる体験学習など,最低 60 時間以上,9カ月以上の研修プログラムを有すること」*14がクリアできればいいので、訓練内容やその費用に関しては、各センターの裁量に委ねられているということになり、前述したような費用の乖離につながっているのでしょう。各団体が独立的であるということはいい面もあるでしょうが、費用だけでなく、質に関しても大きく差が出てしまいそうです*15

 

もう一つ思うのが、連盟が果たしてどれだけ資金獲得に力を尽くしているか、ということです。

 

Samaritansは自殺に関する研究を行っており、自分達の活動と結びつけながら発信をしています。

www.samaritans.org

しかし、連盟には特にそうした動きがあるように思えません。規模の違いがあるので一概には比較できませんが、やはり何事につけても資金獲得だと思うので、まずは自分達の活動の有用性を対外的にもっとアピールする必要があるのではないでしょうか。

 

また、各センターも、国だけでなく、地方行政への働きかけを強く行っていく必要があるともいます。長崎や山梨は*16、恐らく尽力されたおかげで、受講費の補助が通ったのであり、これは他のセンターもトライしてみたほうがいいと思います*17

 

相談員不足はどこも同じで、読売も記事にしていました。

yomidr.yomiuri.co.jp

年齢幅を広げたり、受講費を下げたりいろいろ工夫はしているようですが、これは誰かが音頭をとって運動していかないと、早晩立ち行かなくなってしまうのではないでしょうか。こういうのを、もっとメディアが深く取材をすればいいのに、と思います。

 

今日のまとめ

①相談員の受講費の高さ、交通費すら出ない無報酬、深夜を含む交代制など、相談員のハードルは高い。

②特に受講費に関しては各センターでおおきなばらつきがあり、これは「いのちの電話」加盟の団体の独立性に起因すると思われる。

③本家イギリスのSamaritansのような、対外向けアピールを行っていかなければ、運営はかなり困難を極めるだろう。

 

「いのちの電話」に関しては、まあ賛否はあるようですが、それによって救われているひとがいることも事実でしょう。惜しむらくは、事業が拡大していくにつれ、組織運営がトップダウンで行われずに、自助努力のような形になっていってしまったことでしょう。政治家のパトロンでもつけないと、なかなか社会問題とまではいかないかもしれませんね。コンビニも24時間をやめようかと言われる世の中、どうなっていくのでしょうか。

 

【おまけ】

資料を作ったのですが、本稿とはあまり関係ないので外したグラフを2つ。

 

f:id:ibenzo:20170115003710p:plain

*18

単純に、センターごとの1年の相談件数を365日でわったのですが、東京ではなく埼玉が多かったのがちょっとびっくりしました。横浜と川崎をあわせるなら、神奈川がトップになるんですが。

 

都道府県別の人口でも変わるかと思って、人口比で計算したものも載せてみました。全年齢人口で割ったし、複数回かける人もいるだろうし、同じ都道府県でかけない場合もあるだろうし、実態とはあわない部分もあるかとは思いますが、まあ、参考程度に。

 

f:id:ibenzo:20170115010210j:plain

*19

 

佐賀が突出しているのが気になります。

*1:

詳細は以下のPDF参照。

http://ux.getuploader.com/storefornetlore/download/2/inochi01.pdf

長崎は県からの補助分を見込みとして差し引いて計算しました

また、山口は2015年設立で日が浅いためか、どうしてもネット上で研修費をはっけんできなかったため、今回は除外しました。

*2:

受講費用  山梨県補助事業につき無料(ただし宿泊費、昼食代等は個人負担)

http://park5.wakwak.com/~yamanashi-inochi/volunteer/sodan.htm

*3:ボランティア募集要項 日本語相談員|横浜いのちの電話の研修日程の講義回数を単純にカウントしました。

*4:相談ボランティア

*5:http://kyoto-lifeline.com/schedule1.pdf

*6:

We have 201 branches across the UK and Republic of Ireland.

In 2011 we had 20,665 volunteers.

Our organisation | Samaritans

*7:日本いのちの電話連盟とは|一般社団法人日本いのちの電話連盟

*8:What we ask of you as a volunteer | Samaritans

*9:

Training each Samaritans volunteer costs £18, 96% of which comes from public donations.

BBC News | HEALTH | Samaritans struggling with suicide burden

*10:

Volunteers should not be out of pocket because of their volunteering.

Volunteers can have their travel and other out of pocket expenses reimbursed.

I'd like to volunteer, but... | Samaritans

*11:

Volunteer transport costs | Aviva Community Fund

上記はいくつかの支部の交通費のファンドレーション計画なのですが、こういう計画があるということは、自費で支払っていた側面もあるのでしょう

*12:

Around 18,750 people currently volunteer for Samaritans, but more are always needed.

http://www.dailymail.co.uk/home/you/article-2061841/Samaritans-One-writer-recalls-experience-volunteer.html

*13:

また「いのちの電話」(登録商標)の名称を冠した相談センターの設置には,次の条件を満たす必要がある。

①100 名以上の賛同者を募る,②発起人総会後から相談センター開局までの準備期間を 1 年以上とする,③相談員研修には,講義および自己理解・相互理解に関わる体験学習など,最低 60 時間以上,9カ月以上の研修プログラムを有すること,④法人格の有無を問わず,民間による理事会(委員会)を組織し,責任ある運営主体を確立すること。⑤センター名については,原則として都市名をつけること。

http://ikiru.ncnp.go.jp/manual/gyosei/gyosei30.pdf

*14:3)いのちの電話-活動の基本

http://ikiru.ncnp.go.jp/manual/gyosei/gyosei30.pdf

*15:ホームページに関しては、ジオシティーズから外部委託まで、差が激しいです

*16:記載はなかったのですが、鳥取や岡山も、宿泊費込みで20000円とかなり安いため、なんらかの補助を受けているのかもしれません

*17:社会福祉法人と言っても、なかなか毎年の補助というのは難しいんですね。

Q.国や地方公共団体から、いくら位の補助金などを受けているのですか。

A.当協会は社会福祉法人ですが、社会福祉施設ではないので補助は受けられません。行政や民間の単年度の事業補助の獲得に努力していますが、経費の9割以上は、資金ボランティアのご寄付でまかなっています。

相談したい方へ Q&A / 奈良いのちの電話協会

*18:表は以下のPDF参照

http://ux.getuploader.com/storefornetlore/download/3/inochi02.pdf

*19:表は以下を参照

http://ux.getuploader.com/storefornetlore/download/4/inochi03.pdf