ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

「ゼクシィ」の担当がわいせつ行為をしたのか、けれども邪悪に対しては人一倍に敏感であった

すこーし前の話題で、掘り返すのもなんなんですが、あるわいせつ事件について、以下のような情報が飛び交っています。

  

  • 「ゼクシィ」の担当が婚活アプリでレイプ事件を起こした。
  • リクルートから圧力がかかっているため、そのことは記事にはのらない。
  • リクルートの名前が書いてある記事も削除されている。

 

以上のような内容の話が、手を変え品を変え、ツイートやらまとめサイトやらで取り上げられていました。今回は、そういう風評について考えてみたいと思います。

 

***

 

 「ゼクシィ」の担当ではない

現在ネットでさっと拾える記事はこれぐらいです*1

 

愛知県警中署は13日、婚活アプリで知り合った初対面の女性に睡眠導入剤を飲ませて乱暴し、けがを負わせたとして、準強制性交致傷の疑いで名古屋市**、無職、**容疑者(28)を再逮捕した。

 産経WEST 2018年8月13日

 

婚活サイトで知り合った女性に性的暴行を加えたなどして13日、男が準強制性交等致傷の疑いで再逮捕されました。

再逮捕された無職・**容疑者(28)は今年6月(後略)

中京TV 2018年8月13日

 

8月の報道については、「無職」で通っているのに、なぜ「ゼクシィ」の名前が出るかというと、みなさんゲンダイの記事を読んでいるからなんですね*2

 

婚活アプリで知り合った女性に睡眠導入剤を飲ませて乱暴したとして、「リクルートマーケティングパートナーズ」社員の**容疑者(28=名古屋市中区)が2日、準強制性交の容疑で愛知県警に逮捕された。

日刊ゲンダイ 2018年7月5日

 

今話題にのぼっている8月の記事は「再逮捕」ですので、すでに7月2日の時点で彼は逮捕されています。で、「リクルートマーケティングパートナーズ」が、「ゼクシィ」を発行したり婚活アプリを作ったりしていることから、「ゼクシィ」呼ばわりされているわけです。このときに解雇されているのですから、8月の記事で「無職」になっているのでしょう。

 

ところが、ゲンダイの記事を最後までちゃんと読むと、広報の話が載っています。

 

「(**容疑者は)確かに弊社の社員ですが、『ゼクシィ』に関わる業務には一切、携わっておりません。現在、弊社でも事実関係を調査中ですので、詳細は差し控えさせていただきたいと思います」(広報担当者)

 

「リクルートマーケティングパートナーズ」のサービス一覧*3を見てみると、「ゼクシィ」もありますが、その他にも、「スタディサプリ」「Quipper」「ケイコとマナブ」「キッズリー」という教育系、「カーセンサー」という自動車系なんかがあります。この広報の言葉が嘘でないのならば、これらのうちのどれかを彼は担当していたことになるのでしょう。「ゼクシィ」を発行している会社の社員ではありますが、「ゼクシィ」担当である、というのは誤りです。

 

新聞はどのように報じたか

では、7月の事件のおり、各新聞社はどのように報じたのでしょうか。

 

まず朝日。

 

また、中署は名古屋市**、情報サービス会社員の**容疑者(28)を逮捕した。署によると、**容疑者は4月30日午後7時半ごろ、同区の居酒屋で、婚活サイトを通じて知り合った女性(30)に、「酔い止めの薬」と睡眠導入剤2錠を飲ませ、自宅で性的暴行をした疑いがある。

朝日2018/7/3 名古屋P32

 

中日新聞。

 

婚活サイトで知り合った女性に睡眠導入剤を飲ませて乱暴したとして、名古屋・中署は二日、準強制性交の疑いで、名古屋市**、会社員**(28)を逮捕した。

中日 2018/7/3 P29

 

毎日新聞。

 

婚活サイトで知り合った女性に睡眠導入剤を飲ませて性的暴行をしたとして、愛知県警中署は2日、名古屋市**、会社員、**容疑者(28)を準強制性交等容疑で逮捕した。容疑を認めているという。

毎日 2018/7/3 中部P28

 

読売、産経にはそもそも記事が掲載されていませんでした。

 

私が調べられたのは以上のものだけですが、基本的に会社名を出してはいません。唯一、毎日新聞だけが、後段に詳しい内容を載せています。

 

**容疑者は、リクルートグループで結婚情報誌「ゼクシィ」の出版や婚活サイトの運営を手掛けるリクルートマーケティングパートナーズの社員。婚活サイトは別の会社のものを利用していたという。

 

毎日は記事見出しも「結婚情報出版の社員」として、かなりリクルートを推しています。すべての新聞を調べられるわけもないのですが、大手の新聞社でここまではっきり書いているのはちょっと珍しいです。ただ、「ゼクシィ」関連の仕事を男がしていないとするならば、この書き方はミスリーディングになってしまいますね。あと、さすがに自社の婚活サイトは使っていなかったんですね。

 

会社名を出すなという圧力はあったのか

まことしやかに囁かれているのが、「リクルートが記事に圧力をかけている」というような話です。うーん、これは本当なんでしょうか。とはいっても、直接確かめる方法はありません。

 

そこで、この事件の報道された8月14日を基準に約1年間、男が逮捕されたのと同じような「強制性交」「準強制性交」関連の記事をピックアップして、会社名や所属先名がどれほど実名で報道されているのか、という点を調べてみました。サンプルにあげたのは、朝日・読売・産経です*4

 

いくつか取りこぼしがある気もするのですが、81件分の記事を読みました。詳細については、PDFを作成したので、そちらをご覧ください。

 

「新聞紙上に現れた「強制性交」関連の容疑者の所属先比較」

https://ux.getuploader.com/storefornetlore/download/13

 

さて、その中で、実際の社名などが出ていた記事は以下の15件です。

 

f:id:ibenzo:20180824010232p:plain

 

あえて傾向を語るのであれば、自衛隊や市の職員といった、公的な機関ほど実際の名称を記事上に掲載していると考えられます。また、少し意外だったのが、自社関連の社員が不祥事を起こした場合は、ちゃんと会社名を出すようにしているんですね。表にあるテレビ局の人が起こした事件は、10年以上前に懲戒解雇しているのに、未だに「元**テレビ」と書いているので、律儀といえば律儀です。まあ、そう書かないと「隠蔽してる!」と怒られてしまうからでしょうね*5

 

しかし、逆に言えば、これをのぞけばほとんど実際の会社名やらなんやらを出している記事はないということです。一般の会社が名前を出されることはほぼありません。なので、各新聞社が「リクルート」の名前をわざわざ出さないのは、そんなに不自然なことでもありません。

 

ただ、より慎重に書くならば、ここから導き出される仮説は、

 

  • 事件の容疑者の所属先名は、民間の場合は公表しないことが多い

 

だけであり、その理由はケースバイケース*6であるような気がします。

 

今日のまとめ

①逮捕された男は「ゼクシィ」発行元の会社に在籍していたが、「ゼクシィ」の業務に関わっていないという広報の証言がある。

②今回の事件の初報で、社名をあげた新聞社は大手を確認した限りでは毎日だけである。ただし、①が事実であるとするとミスリーディングの恐れがある。

③「強制性交」「準強制性交」などの容疑で逮捕された記事について、民間の会社の名前が出ることはほとんどないため、今回のリクルートの件が特別であるとは言い切れない。

 

今回の話に、確実に断定できることはありません。あくまで周辺の事実から類推したことだけです。しかし、情報が伝播するとき、いともたやすく我々は「らしい」の文字を見落としてしまいます。そしてそこに「不正」のにおいをかぎつけると、反応はより過激になり、断定的になります。もしかしたら本当に、今回は圧力がかかっているのかもしれません。けれどその情報はどこにもありません。ならば、私達は断定的に話すことは何もできないのです。

そして実は、その「不正」と思ったにおいは、自身の権力に対する*7「嫉妬」のにおいだった、ということは、ありませんか。

 

*1:

犯罪を擁護するつもりはありませんが、個人情報をばらまく気もないので、実名などはすべて伏せ字にしております。また、直接のリンクも外します。

*2:

あと、Yahooへの提供記事が消えていることから「圧力だ!」みたいな反応をしている方もいますが、これは契約期間の問題と思われます。

ネット上の情報検証まとめ on Twitter: "【注意】某大手企業に関連する事件のネット記事が「提供社の都合」により削除と表示されている件で憶測が飛んでいますが、これは記事を作成したメディアとの契約の話であって、一定期間経った記事が自動で削除されるのはネットではよくあることです。過去の同様の騒動の事例 https://t.co/qhLjVg9QNW"

*3:

サービス一覧 | リクルートマーケティングパートナーズ

*4:本当は毎日とか他の新聞社も取り上げたかったのですが、思ったよりも件数が多く、挫折してしまいました。記事検索をするのも遠方にあるので…

*5:

逆に気になるのは、事件についての各社の掲載基準です。結構週刊誌なんかに書かれてるような事件もあえて載せていない新聞社もあり、そっちのほうが気になります。

*6:

例えば事件の重大性や、事件とその会社との関わりの度合い、被害者への配慮、まあ、スポンサーに気を遣って、というのも、可能性としてはありますが、証明しようがない。

*7:ちょっと分かりにくい表現でしたね…