大変遅ればせながら、あけましておめでとうございます。そして、大変お久しぶりです。なぜこんなにご無沙汰してしまったかというと、少々体調が芳しくなかったのと、仕事が忙しかったのと、調べ物が難航していたのと、Switchのゼルダが面白くて夜な夜なハイラルを駆け回っていたからです。すみません。
年明け少しは更新しなくちゃと思うので、今日は気になったこんなツイートから。
『勤務中292回ツイッター投稿、市職員を停職に』
— Simon_Sin (@Simon_Sin) January 10, 2019
この見出しにしたほうがページビューは増えるのはわかるよ。でも「生活保護費59万円を着服」って罪のほうが圧倒的に重いじゃんか。なぜこの見出しにしたのか。東スポじゃないんだから見出しで釣るのやめようよ新聞だろ?
https://t.co/4nEnFL4Nmx
読売新聞の1月10日の記事で、千葉市の懲戒処分に関わるものですが、生活保護費を着服した職員よりも、ツイッター投稿の職員を見出しに持ってきている、というところが、アクセス稼ぎの釣り見出しなんじゃないかというわけです。
ありそうな話だなとは思いますが、そんなに単純な話なのかな、というところも気になるので、調べてみました。
他の全国紙の見出し
さて、今回の事件について、他の全国紙*1はどのような見出しで報じたのでしょうか。
まず朝日新聞。
うそで特別休暇→遊ぶ様子をツイート 市職員を処分
「子どもの具合が悪い」とうそをつき、繰り返し看護の特別休暇をとって遊んでいたとして、千葉市は9日、市民局に所属する男性主任主事(37)を停職3カ月の懲戒処分とし、発表した。休暇取得中に遊んでいる様子をツイッターへ投稿していたことから発覚したという。
朝日は後段で、59万円の着服した職員の件についても触れています。
次に毎日新聞。
虚偽申請で休暇、市職員停職 千葉市
千葉市は9日、子供が病気になったとうそをついて9回にわたって休暇を取ったとして、市民局の男性主任主事(37)を停職3カ月の懲戒処分とした。休暇中にドライブなどに出かけた先でツイッターに投稿し、発覚した。この間に受け取った給与約10万円は市に返還するという。
こちらは有料記事ですが、やはり後段に、生活保護費を着服した職員を懲戒免職にした旨が記載されています。
産経も記事にしています。
看護休暇を不正取得、勤務中に私的ツイートも 千葉市職員を懲戒処分
子供の世話をするための看護休暇を不正取得したり勤務中に私的なツイッター投稿を繰り返したりしたとして、千葉市は9日、市民局の男性主任主事(37)を停職3カ月の懲戒処分にした。投稿内容から、看護休暇中に友人らと遊んでいたことが発覚した。
しかし、こちらの記事には、生活保護費を着服した職員については書かれていません。
朝日や毎日も、59万円の着服のことを報じているにもかかわらず、見出しはやはり、虚偽の休暇申請や勤務中のツイートをした職員についてのことです。産経に至っては記事にもなっていません。やっぱり大手マスコミは信用ならんなプンプン!
発覚したのは年末
ところが、気になるのは、朝日のこの書きぶりです。
これとは別に、市は、生活保護費約59万円を着服したことが昨年末に明るみに出た中央区保健福祉センターの男性主事(25)を9日付で懲戒免職処分とした。
むむ、つまり、生活保護費を着服した職員のニュースは、すでに年末に発覚していたわけです。では、この年末の時に、各紙はちゃんと報じたのでしょうか。ここからは紙面ベースで調べます。
各紙が報じたのはいずれも12月22日。
千葉市職員、相次ぐ不祥事
(承前)千葉市中央保健福祉センター(中央区)は21日、20代の男性職員が生活保護費約59万円を着服していたと発表した。
朝日 2018/12/22 ちば首都圏 P27
千葉市職員:不祥事相次ぐ 酒酔い運転、生活保護費着服
市は21日、市中央保健福祉センター社会援護第2課に所属していた20代の男性ケースワーカーが、受給者1人に支給すべき生活保護費約60万円を着服したと発表した。
毎日 2018/12/22 千葉 P25
朝日や毎日は、21日にあったであろう記者会見での相次ぐ不祥事の発表の一つとして、生活保護費の着服を報じていますが、読売は小さい記事ながらも、この生活保護費の着服を単独の記事で取り扱っています。
生活保護費59万 千葉市職員着服 市が発表
千葉市は21日、生活保護受給者のケースワーカーを務めていた20歳代の男性職員が生活保護費計約59万円を着服していたと発表した。市は懲戒処分する方針で、刑事告発も検討している。
読売 2018/12/22 東京 P29
ちなみに、さっきは意地悪な書き方をしましたが、産経も1月9日付ではありますが、看護休暇の不正取得の記事の30分ほど前に、この生活保護費着服の職員の懲戒免職について、単独の記事を掲載しています。
生活保護費着服の千葉市職員を懲戒免職
千葉市は9日、中央区役所保健福祉センター社会援護第2課に所属する男性主事(25)が、ケースワーカーとして担当していた40代の男性の生活保護費59万1180円を着服していたとして、同日付で懲戒免職処分にしたと発表した。
つまり、各全国紙は、既に12月22日時点で、この生活保護費着服の件について報じていたわけです。1月9日に判明したことは、その着服した職員の処分内容であって、事件が明るみに出たからというわけではありません。
そう考えると、ニュースバリュー的には、新たに発覚した不祥事の方に重きが置かれるというのは、そこまで不自然な考え方ではないのではないでしょうか。新たな不祥事>既存の不祥事の処分内容、というわけで、見出しを各紙とも、休暇の不正取得の職員のものとしたのではないでしょうか。大手紙がどのようなルールで見出しづくりを行っているかはわからないので、詳しい人がいたら教えてほしいですが、そんなに的外れでもないと思うんですけども。
そうはいっても読売さん
なのでまあ、東スポ呼ばわりされる読売さんもちょっとかわいそうかな、と思ったのですが、興味深いのは、新聞紙上と、ネット上での各紙の見出しの違いです。紙面上とネット上では見出しの文言を変えることは侭あります。今回の記事については、ネットと紙面でどのように違うかを調べました*2。差分を太字と下線で強調しています。
◯朝日
<ネット>
うそで特別休暇→遊ぶ様子をツイート 市職員を処分
<紙面>
うそで特別休暇、遊ぶ様子をSNS投稿、発覚 千葉市職員に相次ぐ処分
◯毎日
<ネット>
虚偽申請で休暇、市職員停職
<紙面>
虚偽申請で休暇、市職員停職
◯読売
<ネット>
勤務中292回ツイッター投稿、市職員を停職に
<紙面>
千葉市職員5人 懲戒処分 生活保護費着服などで
朝日が紙面上で「SNS投稿」としたのは、いろいろな年代の読者に配慮した結果かもしれません。また、紙面のほうが複数の不祥事があったことが強調されています。毎日はネット上も紙面上も変わらずでした。
しかし読売は、あまりにも紙面とネット上で見出しが違います。これはまあ確かに、クリックしてちょーだいアピールを感じなくもないです。あとはその姿勢を是とするかどうかですが、これは好みと矜持の問題でしょうか。
今日のまとめ
①読売だけでなく、どの全国紙も1月9日の千葉市の不祥事発表について、見出しを休暇の不正取得の職員のものとしている。
②これは、昨年末に既に生活保護費着服の件については報道がされたためで、1月9日の千葉市の発表は、その処分内容が報じられただけであり、新規性という点に重きが置かれたためと推測される。
③しかし、読売は紙面上とネット上で大きく見出しを変えていて、他紙とのスタンスの違いを感じさせる。
今回の職務中のツイートの件ですが、この職員は、292回の投稿をしたとありますが、もちろん1日ではなく、5~11月の間の64日間、最大でも1日18回だったそうで*3。私はあんまりツイッターを使わないのであれなんですが、そんなもんなの?と思いませんか。
あくまでもこの職員のメインの停職理由は、ツイッターでの投稿をきっかけに判明した、特別休暇中での遊興であり、職務中の投稿云々は、どちらかというとその過程でわかった副産物的なものでしょう。その面からも、読売の見出しは、今回の不祥事の本質を捉えているものではなく、アクセス稼ぎの誹りを受けても仕方ないかなあと思います。
とまあ、このように、一つの記事をいろいろな視点から眺めると、報道というものがどういう切り口で「事実」を伝えているかというのがわかります。その事実をめぐって、我々はフェイクだデマゴーグだとやいやいやるわけです。今年も当ブログでは、「こんな見方もありますよ」と、ちょっといつもかけ慣れているのとは違ったメガネをご提供するような感じで、皆様にお楽しみいただければと思います。どうぞ今年もよろしくお願いいたします。