今日はちょっと前の高須先生のツイートを題材にして記事を書きたいと思います。
ドバイでは生活力のない外国人を強制送還してた。もの乞いが１人もいない。街はきれい。経済繁栄。 https://t.co/Vrhv1naBhz
— 高須克弥 (@katsuyatakasu) 2018年5月3日
ネットでは大人気の高須先生のご発言、このツイートについたリプライが、なるほど、人間がわかり合うのは難しいのだなと感じさせるいい材料になっておりますが、そもそもこの発言はどの程度真実味があるのか、というところを調べてみました。
外国人は「送還」される
そもそもドバイ（というか中東諸国）は極端な移民政策をとっていることで有名です。人口の８８％が移民で構成されている*1アラブ首長国連邦ですが、ドバイでは特に労働自体も移民の多くが行っています*2。
で、主に労働をするのは「移民」なので、職がなければ「強制送還」させられるという言説はけっこうひっかかります。
収入のない外国人はドバイにはいない。（失業と同時に出国か投獄）
きちんと養われていない（お金が足りない）外国人家族もいない。
要は、金の無いならず者はドバイから出ていけと。。。ヾ(▽^；)ゞ多国籍の外国人だらけなのに治安が悪くならないドバイのコントロールです。
しかし、長期在住者であっても国籍取得は大変難しく、失業者は強制送還するなど、外国人へは厳格な管理をしています。
ヤッソは「就労ビザ」があるおかげでドバイに住めるが、「就労ビザ」を３年ごとに申請しなければならない。
だが、「居住ビザ」がない場合は、２年ごとに申請しなければならない。
失業したら、強制送還だって！
島根から南アフリカまでの55時間（part 8）アラビア首長国連邦UAEの国民「エミラティ」について - 世界くるま旅 ～ アラフォー女ひとりでノラリクラリ
私は最近、Hi!Nativeという語学交流サイトで、国や翻訳がわからないときは質問しているんですが、UAEに詳しい方にも質問してみました。
I don't know the exact law number but this is true. if you are not an emarati (local) u will get deported if u don't have a job, but you will get a 1 to 3 months notice before that . your residency visa is given by the company so if u don't work u won't have a residency visa.
正確に何条の法律ということは知らないが、それは真実です。もしあなたがエミラティではなく、仕事をもっていないなら強制送還されるでしょう。しかし、１ヶ月から３ヶ月の猶予はあります。居住ビザは会社によって支給されますので、働かないのであれば居住ビザももらえないということになります。
この多数の証言から、どのぐらいの猶予があるのかはわかりませんが、要するにビザ無しで滞在することになるので、それを理由に強制送還される可能性がある、ということなんでしょうか。
どの法律に依拠しているか
とはいえ、公式の根拠もほしいところです。労働契約については、以下の政府のサイトが英語だし読みやすそうです。
Terminating employment contracts - The Official Portal of the UAE Government
UAEで外国人が職を得るには、最長2年の「期限付契約（Limited contract）」と「無期限契約（Unlimited contract）」のどちらかで就労をすることになります。労働許可証（work permit）や就労ビザ（employment visa）は基本的にスポンサー側の会社側が申請して用意することになるので*3、短期滞在のビザで入って、現地で職探し、なんてパターンもあるそうです*4。
では、この就労ビザが切れた場合、要するに雇用契約が打ち切られた場合どうなるかというと、もちろん該当者は新たな労働契約を結び、就労ビザを発給してもらわなければなりません。ただし、猶予期間はあって、
After termination of employment contract and cancellation of work visa, the terminated employee is granted a 30-day grace period from the date of cancellation, where he can either obtain a new residence permit or leave the country. Illegal residents are liable to be fined/deported.
雇用契約の終了及び就労ビザの期限切れ後、解雇された就業員は、解雇日から30日間の猶予を与えられ、新しい在留許可をもらうか、出国することができます。不法在留者は罰金、もしくは強制送還される可能性があります。
Terminating employment contracts - The Official Portal of the UAE Government
というように、30日間の猶予があるということです。
とまあ、こういう風に書いてみると、要はオーバーステイへの対処の仕方、ということなんではないでしょうか。このような形の対処の仕方は日本を含め、諸外国でも行われていることなので、大して目新しいことではありません*5。「生活力のない外国人を強制送還」と書くとドキっとしますが。
ただ、ドバイと日本が違うのは、その強制送還事案が強権的かどうか、という点にあるんでしょう。統計によれば、ドバイの強制送還数は2016年は15667件*6。日本の強制送還数は同年7014件でした*7。ドバイの人口は約270万人*8であることを考えると、なかなかの件数だと思います。もちろん、強制送還はオーバーステイのみに適用されるわけではありませんが*9、かなり積極的に使用していることがうかがえます。日本のように「人権」にこだわらず*10、徹底的に自国民と移民を区別している結果でしょう。
物乞いはいる
「もの乞いが1人もいない」と高須先生は書かれていますが、まあ、それは言い過ぎというものでしょう。調べると、「物乞い」が検挙された報道がよく出てきます。
During the first half of this year the Dubai Police have arrested 34,561 violators of residency laws and 1,780 beggars, according to the statistics released by the police.
2016年の上半期、ドバイ警察の発表した統計によると、34561人の不法在留者と1780人の物乞いが逮捕された。
35,000 illegal residents rounded up in Dubai in 2016 - Khaleej Times
وأشارت إلى أنها ضبطت 232 متسولاً، خلال الربع الأول من العام الجاري، و653 متسولاً خلال العام الماضي، وعثر بحوزة عدد من ا
2018年の第1四半期に232人の物乞いを検挙し、昨年は653人を検挙した。
شرطة دبي ترصد المتسولين وتلاحقهم بـ «خريطة ضوئية» - الإمارات اليوم
ووفق الإحصائيات فقد ضبطت شرطة دبي 232 متسولاً في الربع الأول من 2018 بينهم 171 ذكر أو 61 أنثى، مقابل 653 في 2017 و 1021 في 2016 و 1405 في 2015
統計によると、ドバイ警察は2018年の第1四半期に171人の男性、61人の女性の232人の物乞いを検挙した。各年と比較すると、2017年は653人、2016年は1021人、2015年は1405人である。
المقال كامل - شرطة دبي تكافح ظاهرة التسول مع اقتراب الشهر الفضيل - جريدة الاتحاد
記事によって検挙数がまちまちなのが気になりますが*11。
イスラム諸国には「喜捨（ザカート）」の文化があり、特にラマダンの時期はその寄付心が募るため、物乞いも増加するんだとか*12。UAEは「物乞いと戦う」キャンペーンを展開もしています。
أطلقت وزارة الداخلية حملة شاملة للتوعية تحت شعار "كافح التسول"، تستهدف القضاء على هذه الظاهرة، وتنمية الثقافة الأمنية لدى أفراد الجمهور، وتوعيتهم بخطورة التجاوب مع المتسولين.
内務省は、物乞いを根絶するための「物乞いと戦おう」というスローガンのもと、意識啓発キャンペーンを行い、市民の安全を確保するため、物乞いの深刻さを意識付けようとしています。
مكافحة التسول - البوابة الرسمية لحكومة الإمارات العربية المتحدة
通報の専用ダイヤルも作り、物乞い一掃に取り組んでいます。ということは、ドバイはそもそも物乞いに悩まされているのであり、高須先生が「もの乞いが1人もいない」というのは、少々現実にあっていないかと思われます。揚げ足をとるようですが*13。
街はきれいなのか
最後は重箱の隅をつつきますが、「街はきれい」とありますが、私にはいまいち、「不法在留者がいないこと」「物乞いがいないこと」と「街がきれい」になることが結びつきませんでした。
Dailymailなのが恐縮ですが、2014年12月3日の記事に、ドバイの移民の労働者の生活風景の写真が多数掲載されたものがありました。
「観光客に見せたくないドバイの一面」というタイトルで、Farhad Berahmanというイランの写真家が撮影した、ドバイに暮らす労働者たちの姿が載っています。
The side of Dubai that they DON'T want tourists to see | Daily Mail Onlineより
The side of Dubai that they DON'T want tourists to see | Daily Mail Onlineより
環境も良くないようで、
'The rooms are 12ft by 12ft with six beds and accommodate six to eight people. Food is usually cooked using gas cylinders in terrible condition.
部屋は１２フィート×１２フィートに６つのベッドがあり、６－８人が収容可能です。食べ物は通常、ひどい状態のガスボンベで調理されます。
'The labourers usually work 14 hours where in summer the temperature goes over 50C.
労働者は通常、夏の５０度をこえる気温の中を１４時間働きます。
というような、過酷な状況の証言があります。
人権団体も、ドバイの移民に対する政策には批判的で、いくつか声明を出しています。
According to the U.S. State Department, arbitrary arrests, incommunicado detentions, and lengthy pretrial detentions of dissenting citizens and non-citizens alike are commonplace in the UAE. There are also frequent reports of prison guard brutality, discrimination against non-citizens, and mistreatment and sexual abuse of foreign domestic servants and other migrant workers.
アメリカ国務省によれば、恣意的な逮捕、通告なしの拘禁、反抗的な市民・非市民が同様に長い公判前拘留されることなどがUAEでは一般的です。しばしば報告されるのが、刑務所警備員による残虐な行為、非市民に対する差別、虐待、外国人使用人や移民労働者への性的虐待などです。
このUAEの態勢は、非常に雇用者側が有利になるものになっています。パスポートも取り上げられてしまうそうで、ビザの話をちらつかせれば、過酷な労働条件も飲まざるを得ない状況を想像するに難くありません。それで経済が回るということは、要はドバイをはじめとしたUAEの国々が魅力的であるということなんでしょう。果たして日本は、このような過酷な態勢を敷いてなおも、魅力的な国でいられるのでしょうか？
今日のまとめ
①ドバイでは就労ビザが切れたのち、３０日以内に更新できなければ、強制送還を含めたペナルティがある。結果的に、失業した移民は国にいられなくなる。
②オーバーステイに関する法律は他の国にも同様に存在するが、ドバイではよりその力が強いようである。
③物乞いは、撲滅キャンペーンをうつほど存在する。
④移民労働者は過酷な環境の中にいる報告がされている。
高須先生の今回のツイートは、「生活保護の外国人最多」という記事*14を受けてのものでした。稼げない外国人は出て行け、ということなんでしょうが、なんというか、移民でなりたっているドバイをそこで引き合いに出すのは、あんまり整合性がないなと思いました。なので、リプ欄も「ドバイを見習って外国人を排除してくれたらいいのに」という、なんだかトンチンカンなツイートが散見されます。外国人を追い出して経済を回したいなら、サウジアラビアあたりを引き合いに出せばよかったのではないでしょうか。
私は別にひとつひとつの発言の揚げ足をとりたかったというよりも、世の中のきらびやかな面だけを切り取って見せるのはいかがなものかな、という気がしているだけです。彼らの正義は、ちょっと眩しすぎやしませんか。
*1:
一次ソースじゃないんですが、CIAのデータです。
immigrants make up more than 88% of the total population, according to UN data (2017)
国連のデータによれば、全人口の８８％を移民が占めています。
*2:
上記によれば、UAE諸国の中で、移民の就業率が突出してドバイが高いことがうかがえます。
*3:
The employer needs to apply to MoHRE for the work permit.
Getting a work and residency permit - The Official Portal of the UAE Government
*4:
一応、雇用契約が締結した時点で、居住ビザをとれる条件になっているようですが、
Upon entering into employment contract. If you are planning to get employed officially in Dubai or other Emirates, you need working / employment visa.
Residency visa in UAE in 2018 – receive residency visa in Dubai and other Emirates through business
先のブログでは「「居住ビザ」がない場合は、２年ごとに申請しなければならない」と書いてあるのがちょっとようわかりませんでした。
*5:
このフローチャートがわかりやすい。
*6:
https://www.dsc.gov.ae/Report/DSC_SYB_2016_07%20_%2010.pdf
*7:
出入国管理統計 入国審査・在留資格審査・退去強制手続等 年次 2016年 | ファイルから探す | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口
*8:
https://www.dsc.gov.ae/Report/Copy%20of%20DSC_SYB_2016_01%20_%2002.pdf
*9:
「強制送還」に関する法律は、おそらくUAEの連邦法刑法の121条ではないか、と思われます。
إذا حكم على أجنبي بعقوبة مقيدة للحرية في جناية أو جنحة جاز للمحكمة أن تأمر في حكمها بإبعاده عن الدولة ويجب الأمر بالإبعاد في الجرائم الواقعة على العرض .
ويجوز للمحكمة في مواد الجنح الحكم بالإبعاد بدلا من الحكم عليه بالعقوبة المقيدة للحرية المقررة للجنحة .もし外国人が重罪もしくは軽犯罪によって自由刑を宣告された場合、裁判所はUAEからの強制送還を命じることができ、強制送還は裁判で命じられなければならない。軽犯罪の場合、裁判所は拘禁ではなく強制送還を命じることができる。
*10:
とはいっても、牛久に代表されるような、入管施設は色々と問題になっているようですが。
施設では２００８年以降に１２人の収容者が死亡。今年４月に東日本センターで３０代のインド人男性が自殺するなど、自殺者は５人を数えた。
*11:
ドバイにはどうも、細かい犯罪統計が少なくともオープンアクセスではなさそうです（「犯罪に関する統計は公表されていないものの」海外安全対策情報
http://www.dubai.uae.emb-japan.go.jp/newhp/20150811safetyinfo.pdf）。一応、犯罪別の統計は出てはいます。
Cases Classification by the Crime Type - Emirate of Dubai
https://www.dsc.gov.ae/Report/DSC_SYB_2016_07%20_%2009.pdf
これによれば、「軽犯罪（Misdemeanors）」は、2016年は前年の65014件からガツンと増えて11万1897件。物乞いは恐らくこの中に含まれるんでないかと思われるのですが、そこまでの細かい統計は見つけられませんでした。
*12:
なので、物乞いも組織的な物乞いが増えていて、短期ビザで国に入ってお金を稼いで組織にお金を収める、みたいなパターンも増えているんだとか。前に記事でも書きましたね。
*13:
だいたい、今の日本で、「こじき」で検挙されることはほぼないです。平成27年度の軽犯罪法違反の「こじき」は1件だけです。
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/about_mpd/jokyo_tokei/tokei/k_tokei27.files/ktd084.pdf
ならば、今の日本の方が「もの乞いが1人もいない」状態に近くありませんか？ それは今の不法在留の外国人への対策が間違っていないからだ！と理屈をつけることも可能になってしまいます。
*14:
