今日は鮮度が命の記事なので、ぱぱっと書きます。
こんな注意のツイートが回ってきました。
生島ヒロシさんから、緊急のお知らせが来ました。
— 湯川れい子 (@yukawareiko) 2020年2月5日
「日本に震度10級の地震、と言うタイトルの動画が来たら、絶対に開けないでください❗️すぐに削除して下さい。
実際の動画ではなくスパムウイルスですが、携帯電話にある送金機能など、銀行業務の情報を引き出すそうです」
との事です。要注意です。
記事を最後までお読みにならない方のために結論から書けば、このツイートの内容は、デマと言ってよいでしょう。既に何人も指摘されてはおりますが、少し細かく検証したいと思います。いつものことですが、Twitterの日時や言葉は多少変えてます。
情報の発生
現在、twitter上の検索で引っかかる最古のツイートは、2月5日のお昼ごろのものです。「!」マークのあるなしや、文末表現の違いなどはあるものの、冒頭に示したツイートの「」内とほぼ同じ内容です。ただ、twitterの検索機能はかなりしょぼいので、これが発信源だとは思いません。
最初のツイートには、それに加えて「新聞にも報道された」という内容があります*1。
次に引っかかるツイートは、同日午後2時ごろ。新聞云々の話は載っていません。同じような話があって、多少フォロワー数の多いアカウントがツイートしたのが午後3時ごろ。そこからじわじわと広がっていく様子がなかなか興味深いです。
もっと広がりだすのは、冒頭にあげた、かなりフォロワーの多い方のツイートの後ですので、午後6時以降ということでしょうか。面白いのは、それまでに引っかかる情報源として、「LINEのグループ」「メール」「知り合い」「ママ友」などから聞いたという感じで、こうやってウワサは独り歩きしていくんだなあというのが可視化されていく様が見えることです。迂遠なところでは、「家族のLINEに、兄弟の勤めている場所のお客さんから聞いたという情報がきたというのを聞いた」みたいな曲がりくねった伝わり方をしているものもありました。
また、この間にも情報はころころ変わっていき、「銀行業務の情報を引き出す(なんじゃそりゃ)」から、「スマホ内の情報を引き出す」なんかになっているのはご愛嬌ですね。
午後7時ごろまでの検索結果を見ると、広がり方の割には、twitterなどのオープンなネット上での検索数は鈍い感じがするので、どっちかというとLINEのグループトークなど、もう少しクローズドな環境で多発的に広がっている印象を受けました。ちなみに冒頭にあげた湯川さんは生島ヒロシさんから聞いて、生島さんは昔自分のところにいた方から聞いた…という、言わずもがななチェーン具合です。
動画が存在しない
ないものを「ない」というのは大変難しいことで、「おそらくない」としか言えないのですが、この「日本に震度10級の地震、と言うタイトルの動画」自体を挙げている方はひとりもいません。
こういう「開かないでください」系のツイートの場合、そのもののスクショが貼られることが多いですね。以前、twitterでは「ONLY FOR YOU」というスパムDMが流行したことがありましたが、こちらは被害に遭った方がスクショを挙げていることが多かったです。
ちなみに、「動画でのっとられる」みたいなウワサは、過去にはいくつかあります。
2014年10月には「Youtubeの動画を見るとウイルスに感染する」みたいな話が流れましたが、これは正確には、動画のバナー広告をクリックすると…という感じでした。
しかし、それは偽広告を利用した手口であり、「YouTubeを観ると感染するウイルス」ではなく、「YouTubeのバナー広告をクリックしたら不正サイトに飛ばされてウイルスに感染した」が真の姿なのです。
より近いものとして、2016年10月には、Facebookの動画スパムというものがありました。
このメッセージの動画をクリックし、Chromeのアドオンをインストールしてしまうと、今度はあなたが友人に対して自動でスパムメッセージを送り続けます。
【要注意】ウィルスまがいのFacebook動画スパムが大流行。被害にあったらやるべきこと&対処法 世永玲生 - Engadget 日本版
これは正確には動画というか、そのリンク先で不要なアドオンをインストールすると…という感じではありますね。
こういう積み重ねが、今回のようなメッセージの成立にもつながっているのだろうと思います。
「実害はない」からよいのか?
この程度の内容ならツイッターで呟くだけでも良かったのですが、私は、各所に見受けられる「念のために」「用心して」という言葉が引っかかりました。
冒頭にあげた湯川さんは、「もし仮にデマだとしても、実害は無いのでは」と書いておられるのですが、私は長い目で見てこれは「実害」になると思います。前々から、フェイクニュースの問題は発信元ではなく受信側だという話をしているのですが、人々は「善意」で真偽不明の情報を拡散するわけです。発信元に悪意があったとしても、広める側は良かれと思って広げる。だから「念のために」友達に伝えるし、「用心して」家族に注意を促すわけです。パスカルの賭けみたいな話ですが。
しかし、その情報が「善」か「悪」かは結果論です。今回の件で不用意に情報を広めた人は、自身の情報に対するスタンスが変わることはないのですから、他の情報も同じように不用意に広めるでしょう。しかし、今度の情報は「悪」なのかもしれないのです。果たしてあなたは事の真偽に常に注意深くすることができるのでしょうか? 「念のために」リツイートを押す人は、残念ですが、その時点で受信側ではなく発信側になってしまうのです。
今回の件は、前述したように、LINEのグループなど、知り合いから知り合いへと伝わっているような印象を受けました。古典的と言えば古典的ですが、やはりネットよりも生身の人間の方がより信頼を抱きやすい傾向にあるように感じます。親しい友人に「〇〇らしいよ」といわれたら、「まあそうなのか」と思ってしまうのが人情です。でも、そこでぐっとその情報を次の人につながないようにする、ストップ・念のためリツイートを、オンラインでもオフラインでも、ちょっとでも多くの人が心がけてほしいなあと思います。
*1:
一応、G-searchでも調べましたが、そんな記事は出てきません。