ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

ゴミ箱のドリンクホルダーはなんのため、リサイクルのドイツ幻想

さて、お休みしてたぶん、なるべく更新していきます。

 

こんな写真を載せたツイートがちょっとだけバズっていました。

 

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https://m.facebook.com/lodzkiepromujedesignthinking/photos/a.699792060167482/2227405524072787/?type=3&source=57&paipv=0より

ツイートでは、このゴミ箱についたドリンクホルダーをノルウェーのもの*1とし、

 

「デポジットで生計を立てているホームレスの人がゴミ箱を漁らなくてもよいようにするため」

 

という内容のコメントがつけられています。

 

私はあまのじゃくなので、調べてみたところ、「確かにそうだけど、世の中はそう簡単ではない」という結論が得られたので、短く記事にします。

 

【目次】

 

 

写真の初出を探す

ツイートと同じ写真については、2020年9月1日のFacebookの投稿が見つかります。ポーランドの人のようです。

 

m.facebook.com

 

こちらでは、ノルウェーのリサイクルの先進的な活動を述べた後、こう記されています。

 

I uwaga na koniec wisienka na torcie. Co robi na poniższym zdjęciu kosz na śmieci? Norwegia pamięta o tych najbiedniejszych, tych którzy zaglądają do śmietników i szukają czegoś by przetrwać, m.in wspomnianego plastiku celem zarobku. Tego typu kosze to nic innego jak ułatwienie dla tych ludzi i możliwość łatwego dostępu do butelek plastikowych bez marnowania czasu i energii na niewdzięczną czynność "kopania" w koszu...

そして小さな部分に注意してください。この写真のゴミ箱は何ができるでしょう? ノルウェーでは、デポジットとしてプラスチックをお金に代えて稼ぐ最貧困層の人々のことを忘れていません。このような種類のゴミ箱は、そのような人々にとって、「漁る」という活動に時間や労力を浪費することなく、ペットボトルやビンにアクセスすることができます。*2

 

もうすこしさかのぼると、恐らくこの「ノルウェーのゴミ箱」については、2019年8月のRedditの投稿*3が、最も古いというか、広まった一因ではないかなと思われます。

 

In Norway you get a small amount of money for recycling bottles/cans. They're often collected by poor people, homeless etc. A lot of our trash cans has these holders around them so people don't have to search through the trash to collect them

ノルウェーでは、缶やペットボトルをリサイクルすると少額のお金を得ることができます。ホームレスなどの貧しい人々はよくそれを集めています。多くのゴミ箱にはこのようなホルダーがついているので、彼らはゴミ箱を漁って探す必要がなくなります。

https://www.reddit.com/r/HumansBeingBros/comments/cr3nre/in_norway_you_get_a_small_amount_of_money_for/

 

 Redditの投稿を信じるなら、0.5Lペットボトルは2クローネ、1.5Lは3クローネ(23円、40円ほど)だそうです*4

 

ただ、他の投稿を見ると、アメリカやスウェーデン、カナダなど、他の国でもこのデポジット制はとられているようです*5 。

 

始まりはドイツか

このドリンクホルダー付きゴミ箱、いろんな国で見られます。

 

これはカナダのバンクーバー。

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https://www.flickr.com/photos/scratchbeck/1382737538/

コペンハーゲン。

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https://omastadi.hel.fi/processes/osbu-2019/f/171/proposals/520?locale=sv

 

他にも、Redditの投稿を信じるならば、北欧の各国も設置されているというようです*6

 

探っていくと、どうやらこのタイプのゴミ箱を開発したのは、ドイツのケルン出身のデザイナー、Paul Ketzであることがわかります。Pfandringというプロジェクト名が付いています。

 

www.pfandring.de

 

 

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http://www.pfandring.de/pfandring-2.htmlより

プロジェクトに至った背景について、Ketzはこう語っています。

 

"Mir ist aufgefallen, dass Menschen Wertstoffe in Form von Pfandflaschen- und Dosen aus Bequemlichkeit wegwerfen. Auf der anderen Seite gibt es eine Vielzahl von Menschen, die auf das Pfand-Sammeln angewiesen sind bzw. sich damit ein Zubrot verdienen. Menschen mit verschiedensten Hintergründen - Familienväter, Renterinnen, Schüler, Studenten, Obdachlose etc. - diese müssen oft unwürdig im Müll nach den Flaschen suchen."

私は、人々が簡便さのためにデポジットボトルや缶の形でリサイクル品を(直接ゴミ箱に)捨てていることに気づきました。その一方で、デポジットを集めることに依存している人や、それによってお小遣いを稼いでいる人もたくさんいます。一家の主、年金生活者、小学生、学生、ホームレスなど、さまざまな立場の人がデポジットを集めなければなりません。―このような場合、ゴミ箱の中から見苦しくもボトルを探さなければならないのです。

HINTERGRÜNDE - Pfandring

 

このプロジェクトは2012年から始まり、大きな反響を呼んだそうです。この発明が、各国に広がっていったとみていいでしょう。

 

なので、このゴミ箱のホルダー(デポジットリングと呼ばれています)の理念は、ツイートの内容の通りと考えてよいかと思われます。

 

世の中うまくはいかない

では、このホルダーがうまくいっているのかと言うと、なかなか世の中そう簡単ではないようです。

 

Berliner Morgenpost紙は、2016年2月13日付の記事で、このデポジットリングの栄枯盛衰について語っています。

 

記事では、Ketzの発明について、メディアや環境保護論者から歓迎され、2014年にはいくつかの都市が採用していったことを語ったあと、その失敗を続けます。

 

Die Ringe seien oft vollgemüllt, um sie herum gebe es mehr Glasscherben, das Pfand lande am Ende gar nicht mehr bei den Sammlern, das Leeren der Tonnen dauere viel länger, werde dadurch teurer.

デポジットリングはゴミでいっぱいになることが多く、周りには割れたガラスが散らばり、デポジットは回収業者に行き渡らず、ゴミ箱を空にするのにはずっと時間がかかり、その分コストもかかります。*7

 

Warum der Pfandring immer noch ein Nischendasein fristet - Berliner Morgenpost

 

Ketzはこれらの失敗に対して、「プロジェクトを中途半端にしか試みていないか、奇跡を信じている自治体によるものだ」と批判して、規模の少ない実験の方法を問題視しています。ただ、少なくともドイツ国内では、あまり評判が芳しくなかったようです*8

 

実はドイツには、その前から同じような、Pfand gehört danebenというパフォーマンスが見られます。

www.youtube.com

 

動画を見てもらえるとわかりますが、要するに、ゴミ箱の中に捨てないで、ゴミ箱の横に置いてみよう!というプロジェクトのようです。おお、すげえシンプル。サイトではこう語られています。

Wer Pfandflaschen nicht in den Müll wirft, sondern danebenstellt, zeigt eine kleine Geste der Solidarität den Menschen gegenüber, die mithilfe von Pfandgut ihr tägliches Leben meistern.

リターナブルボトルをゴミ箱に捨てずに横に置いてくれる人は、リターナブルボトルを使って日常生活を営んでいる人たちへのささやかな連帯の意思表示です。

Home - Pfand gehört daneben

 

こちらの記事によれば*9、2011年からFacebook発で始まったプロジェクトのようで、企業も連携したこともあり、広がっていったようです。ただ、横に置くだけだと軽いものは吹き飛ばされたりしてなかなかうまくいかない*10ので、新たなアイデアが望まれていたのかもしれません。Ketzのデポジットリングは、そのような流れを受けてのことだったと考えてもいいでしょう。

 

しかしまあ、人間というの怠惰だったりするもので、なかなかそうはうまくいかない。ヒルデスハイム市は「デポジットリングが他の目的で使用されているため、市では駅をのリングを解体しています」と言っています*11。他の目的というのは、Redditで書かれているような、「スタバの紙コップが挟まってる」なんて事例でしょうね。

 

そういう流れもあり、2019年のオピニオン記事では、こう締めくくられています。

 

"Warum gibt's das nicht überall?", steht in den Kommentaren unter den begeisterten Facebookpostings. Die Antwort ist niederschmetternd: unseretwegen. Die Idee ist gut, aber die Menschheit nicht bereit. Schade.

Facebookの熱心な投稿には、「なぜこれがどこにもないのか」というコメントが書かれています。その答えは、「私たち人間が存在しているから」という衝撃的なものでした。アイデアはいいが、人類はまだ準備ができていないのです。残念。

Das Scheitern der Pfandringe: Die Idee ist gut – aber die Menscheit leider ignorant | STERN.de

 

ただ、2020年にはフランクフルト市で、今度は街灯につけるアイデアで実験される*12など、試みは行われ続けているようです。

 

今日のまとめ

①このデポジット用のボトルなどを回収するためのリングは、2012年のドイツのアーティストが始めたプロジェクトが元になっているようだ。

②また、ドイツではその前年から「ゴミ箱の横に置こう」というパフォーマンスがFacebook発で広がっており、その流れを受けてだったのだろう。

③しかし、別のものを入れられたり、すぐに埋まって回収が困難になったりと、実証実験はあまりうまくいっていない。

 

いいアイデアがあっても、なかなかうまくいかないというのはいずこも同じなようで。でもこういう試みがあるだけでも、価値があるのかもしれません。それに比べて我が国は…と続けたい方は好きな語句を入れてみてください。

*1:

本当にノルウェーかどうかは確証はありませんが、写真に写っているペットボトルの「Solo」というブランドはノルウェーの会社のものだそうで、

 

Solo (Norwegian soft drink) - Wikipedia

 

まあ、そんなに疑うことはないと思います。

*2:ポーランド語はよくわからんので、少々意訳を交えています

*3:

同じ写真という事でなければ、2016年のRedditあたりが古いかも、と思います。

This trash bin has a holder for returnable bottles so homeless people can take them without digging in it : mildlyinteresting

*4:

I live in Norway, the amount of money you received before was less (they just increased 0.5L bottles from 1 NOK to 2 NOK, and 1.5L bottles from 1.5 NOK to 3 NOK) but me and a friend still made a decent amount of money collecting a few bottles some years ago. We were about 10 years old, and after a couple of hours with our bikes we collected about 250 NOK ($40 at the time) of bottles.

*5:

資料が古めですが、国立環境研究所のこのページが、各国の状況についてわかりやすいです。

www-cycle.nies.go.jp

*6:

ただし、一般的ではない、という証言もあり。

This type of bin isn't common in Norway, most of the homeless rummage through the bins to get the cans/bottles.

このタイプの置き場はノルウェーでは一般的ではありません。多くのホームレスは缶やボトルを探すために引っ搔き回しています。

https://www.reddit.com/r/Damnthatsinteresting/comments/cr7rgc/in_norway_you_get_a_small_amount_of_money_for/

 

*7:

Sammelgestell für Flaschen: Dem Pfandring droht in Köln das Aus | Kölner Stadt-Anzeiger

では、ケルン市の実証実験について、その失敗が語られています

*8:

ただ、Pfandring自体のページを見ると、ドイツ国内に設置はされているようには見えますが…

*9:

Pfand gehört daneben: Politik muss mehr tun

*10:

これは2020年の記事ですが。

Bisher seien Flaschen oft auf dem Boden vor oder neben den Mülleimern abgestellt worden. Bei Plastikflaschen reiche ein leichter Windstoß, um sie in die Umwelt zu wehen. Glasflaschen seien aber ein noch viel größeres Problem. 

これまでは、ゴミ箱の前や横にボトルが放置されていることが多く、これでは、ペットボトルは、ちょっとした風でも環境に飛ばされてしまいます。しかし、ガラス瓶はもっと大きな問題になります。

Pfandringe gibt es jetzt auch in Frankfurt | Frankfurt

 

*11:

www.stern.de

*12:

Pfandringe gibt es jetzt auch in Frankfurt | Frankfurt

ただ、続報が見当たらないのでいまいちなんですかね。もしくはコロナの関係か。