今日はこの記事が気になりました。
「政府の会議の資料に人口100万人あたりの死者数のデータがあるのですが、大阪は19・6人(5月5日時点、以下同)。インドの15・5人、メキシコの16・2人、米国の14・5人より上回っており、惨状というほかありません。兵庫県も9・0人、愛媛県11・2人、和歌山県7・6人など関西は高く、東京は1・4人と意外にも低い水準です」(厚生労働省関係者)
【独自】大阪の100万人あたりの新規死亡者数がインドを上回る 「まるで姨捨山」とまらない医療崩壊〈dot.〉(AERA dot.) - Yahoo!ニュース
もやっとしたのが、大阪という一都市と、インドという国全体を単純に比較してよいのか?という点だったので、そこらへんを揃えてみました。短い内容なので、ツイートでもよかったのですが、数字が出てきてわかりにくかったので、記事にしました。
【目次】
19.6人という数字
大阪の100万人あたりの19・6という数字はどこから出てきたかをまずは調べます。
これは記事の表に言及がありました。
「7日間の新規死者数」ということなので、計算式としては、
7日間の累計新規死者数÷人口×100万
というところでしょうか。実際に、5日を軸に7日間の数で計算すると、19.6になります*1。
そのため、この記事の「100万人あたり」とは、「5月5日までの7日間の新規死者数」ということになります。
インドの数は?
同じようにインドの新規死者数15・5人が妥当かも検討します。
Googleはジョンズ・ホプキンス大学のデータ(JHU CSSE COVID-19 Data)を元に、ぐぐるとすぐに統計を出してくれるので、そちらを参照します。
すると、5月5日から7日間のインドの新規死者数は以下の通り。
日付 | 死者数 |
5月5日 | 3980 |
5月4日 | 3780 |
5月3日 | 3449 |
5月2日 | 3417 |
5月1日 | 3689 |
4月30日 | 3523 |
4月29日 | 3498 |
合計 | 25336 |
なかなか桁がすごい。インドの人口を2020年の人口統計資料からとってきて、約13億8千万人とします。
で、100万人あたりを出すと、18.3人。あれ?
うーん、確かに統計の数は発表している場所によって違うので、いくつか覗いてみた*2のですが、18は切りそうでも、15.5までいくかな…。
アメリカを同じ方法で計算すると*3、14.8。メキシコは16.2*4となり、この他の2つの国の数字は、記事内の数字とそこまでずれていないだけに、インドのズレ具合がちょっと気になりますねえ。まあ、大阪は18.3を越えているから、記事の主旨はずれてはこないのですが…
正直、「政府の会議の資料」が、いったいどんな数字を使って計算しているかが不明のため、私の出してる数も妥当かどうかわからんのですが*5、100万人あたりの新規死者数の計算において、大阪とインドで用いる数は同様のものを使用しているのか?という疑問が残るのは問題でしょう。
都市と国を比べるな
数の妥当性は判断できかねるので、今度は、「都市」として比べるとどうでしょうか。冒頭に書いたように、国の一都市と国全体を直接比較するのは少々フェアでないと思うからです。
大阪は5月5日時点の新規死者数において日本でトップなので、同じように新規死者数でトップ*6のインドのデリーを例にとります。
さて、同じようにGoogleで5月5日までの7日間の新規死者数を表にすると以下のような感じ。
日付 | 死者数 |
5月5日 | 311 |
5月4日 | 338 |
5月3日 | 448 |
5月2日 | 407 |
5月1日 | 412 |
4月30日 | 375 |
4月29日 | 395 |
合計 | 2686 |
デリーの人口は2021年は約3118万人*7ということですので、そちらで計算すると、86.1人。え、86.1? ダブルスコアどころの騒ぎじゃないですね。
これは当たり前の話で、流行地域もあればそうでない地域もあるので、国全体の方が100万人あたりの死者数は少なくなるに決まってます。現に、AERAも、日本全体で考えた時は3.3人だと表記しています*8。
大阪の状況が深刻であることは事実ですし、それを否定するつもりは毛頭ないのですが、やはりそのような比較はあまり適切ではないだろう、と感じます。
今日のまとめ
①大阪の「19・6人」という数字は、5月5日までの7日間の新規死者数の累計を100万人あたりで考えたものである。
②ただ、インドの「15・5人」という数字は、同じ形で計算しても「18・3人」となり、数が合わない。
③記事内のアメリカやメキシコの数は、同じ形の計算で似た数字が出るため、インドの算出方法が不明であり、数の妥当性が判断できない。
④インドにおいて死者数が多いデリーは、100万人あたり「86.1人」であり、一都市と国を比較する方法は適切とは言えない。
まあ、私が間違ってる可能性だって大いにありますので、AERAさんは「政府の会議の資料」を見せてほしいなあと思います。
*1:
大阪の新型コロナ新規死者数(NHKのサイトより)
日付 | 死者数 |
5月5日 | 25 |
5月4日 | 20 |
5月3日 | 19 |
5月2日 | 16 |
5月1日 | 41 |
4月30日 | 8 |
4月29日 | 44 |
合計 | 173 |
よって、大阪の4月1日時点の人口は8802755人(大阪府の毎月推計人口より)。
173÷8802755×100万で、約19.6。
*2:
India COVID: 22,130,700 Cases and 240,171 Deaths - Worldometer
*3:
同じくGoogleから。
日付 | 死者数 |
5月5日 | 794 |
5月4日 | 890 |
5月3日 | 485 |
5月2日 | 301 |
5月1日 | 702 |
4月30日 | 858 |
4月29日 | 877 |
合計 |
4907 |
2020年の人口統計資料からとってきて、約3億3100万人として計算
*4:
同じくGoogleから。
5月5日 | 267 |
5月4日 | 395 |
5月3日 | 112 |
5月2日 | 65 |
5月1日 | 261 |
4月30日 | 460 |
4月29日 | 529 |
合計 |
2089 |
2020年の人口統計資料からとってきて、約1億2893万人として計算
*5:
算数は弱いので、計算間違いあったらよろしくです
*6:
Haryanaも多いのですが、
を見ると、人口比的にはデリーかなと思うので…
*7:
Delhi, India Metro Area Population 1950-2021 | MacroTrends
*8: