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ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

銃剣道はなぜ指導要領に入れられたのか、三度の文科省

九櫻(クサクラ) 木銃1・3米 GW1

 

どーも文科省ネタが続くんですが、今日話題になってた「銃剣道」の話。

 

www.huffingtonpost.jp

 

中学校の体育の「武道」の項に、「銃剣道」なる耳慣れない競技が入ってきて、人によっては「戦前回帰では」みたいな論調でも語られています。

 

私も浅学ながら初めて聞いた競技ですので、どうしてこの「銃剣道」が次期指導要領に入れられたのか、文科省の気持ちになって記事を書いてみたいと思います。最近長い記事ばかりなので、今日は短めにがんばりたいと思います。

 

 

***

 

 すでに「銃剣道」の話題は取りざたされていた

実は、今回の文科省の発表の前に、この「銃剣道」については記事になっていました。たとえば3月12日の記事。

www.excite.co.jp

 

これは、公益社団法人全日本銃剣道連盟が9日に、スポーツ庁長官に対して、「銃剣道が学習指導要領案に記載されず、極めて残念」として、指導要領に記載する要望書を出した、というものです。

 

連盟の要望書はネットで確認することができますが、主な要望は以下の四点。

 

1.銃剣道が指導要領に明記されないことは普及に影響を与える。

2.武道の概念にも影響を与える。

3.銃剣道の明記は施策の目的に合致している。

4.明記されないことは、文科省・スポーツ庁の施策の一貫性を欠く。

出典:「中学校学習指導要領案への銃剣道の明記に関する要望について」

http://www.jukendo.info/wp-content/uploads/MX-4140FN_20170309_112723.pdf

 

現代の日本において「武道」とは、「日本武道協議会」に加盟をしている9武道を指しており、

 

柔道、剣道、弓道、相撲、空手道、合気道、少林寺拳法、なぎなた、銃剣道

武道の定義|武道の振興・普及|日本武道館

 

今回の中学校指導要領案では、他の8武道は明記されているのに、なんでうちのとこだけ入ってないんやわれえという感じなんでしょう。

 

佐藤議員の怒り

さて、このきっかけは、佐藤正久議員の国会でのやりとりが発端でした。佐藤議員は陸上自衛隊出身で、元防衛政務官でもありました*1

 

3月9日の外交防衛委員会のやりとりです*2

 

佐藤議員はまず、文科省が予算の要求のペーパー及び中央教育審議会の12月21日の答申に、「日本武道協議会加盟団体実施種目、柔道から銃剣道、この九種目に触れることができるよう、内容等について一層の改善を図る」とあるにも関わらず、

 

この三月一日に、武道議員連盟の方に、文部科学省から中学校の体育の新たな指導要領についての案の説明がありました。今パブコメを掛けている最中だと思います。そのときには、この中央教育審議会、中教審の答申を受けてこれを作りましたというふうに説明してはいるんですけれども、ここからなぜか銃剣道一つだけが外されました

 

佐藤議員の言っている文科省の予算概算請求はこちら。3月8日に出されたもの。

 

このため、武道等の安全かつ円滑な実施のため、教員の指導力向上を図るとともに、これまでの柔道、剣道に加え、新たに弓道、相撲、空手道、合気道、少林寺拳法、なぎなた及び銃剣道の指導ガイドラインの作成や指導者データベースの整備などを行う。

http://www.mext.go.jp/prev_sports/comp/b_menu/shingi/giji/__icsFiles/afieldfile/2017/03/08/1382347_004.pdf(8ページ目)

 

12月21日の中教審の答申はこちら。

 

・ グローバル化する社会の中で、我が国固有の伝統と文化への理解を深める観点から、日本固有の武道*184の考え方に触れることができるよう、内容等について一層の改善を図る。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2016/12/26/1380836_09.pdf(193ページ目)

 

で、「武道」の脚注として、

 

184 日本武道協議会加盟団体実施種目・・・柔道、剣道、弓道、相撲、空手道、合気道、少林寺拳法、なぎなた、銃剣道

 

と、しっかり「銃剣道」が入っています。

 

しかしながら、佐藤議員が指摘している通り、パブリックコメントを募集した際の「中学校学習指導要領案」では、なぜか「銃剣道」が外されています。

 

カ 「F武道」については,柔道,剣道,相撲,空手道,なぎなた,弓道,
合気道,少林寺拳法などを通して,我が国固有の伝統と文化により一層
触れることができるようにすること。

パブリックコメント:意見募集中案件詳細|電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

「中学校学習指導要領案」(112ページ目)

 

うーん、確かに、「など」でごまかしていますが、明らかに「銃剣道」だけ抜け落ちていて、これはいったい何の力が働いたんだろうと、いぶかってしまうのは否めません。

 

佐藤議員は陸自の出身なので、「銃剣道」がないことにだいぶお怒りのようですが、その存在の是非よりも、他の各箇所では「銃剣道」が記載されているのに、指導要領には明記しないことに何か意味があるのか、と思わせてしまうことに問題があるように思います*3

 

 

文科省は「銃剣道」を認めてきている

では、文科省が「銃剣道」の存在を否定しているのかと言うと、そうではありません。

 

そもそも、中教審の答申が出るまで、色々な部会やらなんやらで中学校の保健体育についてはもまれているわけですが、そのどれもに一貫して「武道」の項目はあり、そしてその脚注の「銃剣道」は存在し続けています。

 

教育課程部会

「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめについて(報告)」(平成28年8月26日)

・グローバル化する社会の中で、我が国固有の伝統と文化への理解を深める観点から、日本固有の武道145の考え方に触れることができるよう、内容等について一層の改善を図る。

145 日本武道協議会加盟団体実施種目・・・柔道、剣道、弓道、相撲、空手道、合気道、少林寺拳法、なぎなた、銃剣道
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/08/29/1376580_2_2_6.pdf(P240 )

 

平成28年8月に出された、文科省の概算要求主要事項でも、

 

○武道等の円滑な実施の支援 4,785百万円( 4,729百万円)
武道等の安全かつ円滑な実施のため、教員の指導力向上を図るとともに、これまでの柔道、剣道に加え、新たに弓道、相撲、空手道、合気道、少林寺拳法、なぎなた及び銃剣道の指導ガイドラインの作成や指導者データベースの整備などを行う。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2016/09/26/1377565_04_03.pdf(P37)

 

同じような文言が並びます。

 

これは、平成21年度から「武道」が必修化された際から続いている認識で、たとえば「スポーツの推進に関する特別委員会(平成23年10月18日)」では、日本武道館の三藤理事からヒアリングを以下のように行っています*4

 

将来の小学校における武道授業の実施へ向け、実践校における実践研究をより積極的に展開し、発達段階に応じた武道9種目の指導法研究を行い、準備の推進をお願いいたします。

 

まず1番目、武道の定義はあるのかという質問ですけれども、あります。武道の理念というものを制定して、武道は9種目だということで、柔道、剣道、弓道、相撲、空手道、合気道、少林寺拳法、なぎなた、銃剣道と、この9種目が武道であるということを明記しております。

 

ただし、文部科学省さんが出されています学習指導要領の保健体育編に、日本武道協議会の加盟の種目、9種目は明記されていますし、国から補助金をいただいて日本武道館で行っています少年の錬成大会や指導者研修会、それぞれ9種目ともすべてやっておりまして、例えば夏の錬成大会は、日本武道館に約2万人弱の子供たちが毎年集まってきます。

 

これは武道館の理事のコメントではありますが、彼は文科省からもこの「武道9種目」はお墨付きをもらっている、という意味をいいたいわけです。

 

三藤理事の言う「学習指導要領の保健体育編」に書いてあるというのは、おそらく平成20年版の「中学校学習指導要領解説保健体育編」のことでしょう。確かに、巻末の参考資料に「日本武道協議会加盟団体実施種目」ということで、「銃剣道」が記載されています*5

 

文科省自身の見解としても、そもそも「銃剣道」を行うな、ということは言っていません。むしろ、「武道」の一つとしてちゃんと認めています。

 

平成19年6月14日の参議院・文教科学委員会。ちょっと長いんですが。

 

【弘友和夫議員】 時間もありませんので、いろいろそのときの決議を全部一項目ずつお聞きしようと思ったんですけれども、すぐ御返事もないと思うんです。
 それで、そのときの決議、一つは、学習指導要領に柔道、剣道、相撲、なぎなた、弓道と入っているんですけれども、空手、合気道、少林寺拳法、銃剣道、九つあるわけですよ、それを明記してもらいたいというのが一つあります。

 

【樋口修資スポーツ・青少年局長】 お答え申し上げます。
 まず第一点目に、学習指導要領には、柔道、剣道、相撲、なぎなた、弓道が明記をされておるわけでございますが、残念ながら、空手道、合気道、少林寺拳法、銃剣道については指導要領上、明記をされておらないわけでございます。私どもといたしましては、中学校では柔道、剣道、相撲、高校では柔道、剣道を全国的に実施可能な武道の種目として示しているわけでございます。それ以外の武道についても、地域や学校の実態に応じて生徒に履修させることができる旨の記載をしているわけでございまして、なぎなたと弓道は例示として挙げているわけでございますが、明示されておらないものにつきましても、各学校の判断によりまして、その地域や指導者等の実態に応じて授業として取り上げることは可能であるわけでございます。
どの武道種目、武道種目九種目ございますが、この武道種目を学習指導要領に明記するかどうかについては、この学習指導要領改訂の中で、それぞれの競技種目の全国的な普及度あるいは指導者の確保の課題等も勘案しながら、中教審の専門的な議論の中で深めてまいりたいと思っているわけでございます。

 

今まで指導要領上で明示はしていないものの、「銃剣道」を含む9武道について学校の実態に応じて行うことは問題ない、ということです。これを明示しなかったのは、まあ要するに知名度の問題だ、ということなんでしょう。*6

 

今日のまとめ

①「銃剣道」が学習指導要領案から外れていた問題は、既に3月12日付で記事にされていた。

②発端は、国会での質疑であり、文科省は予算案や答申などで「銃剣道」の語を入れていたにも関わらず、指導要領案で外れたことに関する追及からだった。

③文科省は以前より「銃剣道」含め9武道について助成を行うと共に、「武道」はその地域や学校に合わせて行えるものと明言しており、「銃剣道」を否定してきたわけではない。

 

恐らく、文科省の言い分としては、「学習指導要領に明記」することと、概算請求や答申などの「脚注」で資料的に記載することには大きな違いがあることを言いたいのでしょう。結局、文科省は最終的な案には「銃剣道」を明記しましたが*7

 

文科省のこだわりが、果たして「全国的な普及度」と「指導者の確保」のみにあるのかはなんとも言えないところですが、「武道」は戦後GHQにより学校教育としては禁止されていた時期もありましたし、そういう負のイメージは多少あるのかもしれません。しかし、以前の議事録や資料を読む限り、この「9武道」を指導要領に明記することは、もはや既定路線だったという感じがします*8。なぜわざわざ「銃剣道」を外したのか、やっぱり不思議です。ハフポスさんは、「国として銃剣道を強制することはない」なんてありきたりなコメントをもらってこないで、どうして「銃剣道」が案では外れたのかを追及していただきたかった。

 

www.huffingtonpost.jp

 

余談ですが、今回調べ切れなかったことがあって、確かに、戦中は剣道や柔道と並ぶ形で「銃剣道」はありましたが*9、他の「武道」に比べて「銃剣道」の復活は遅かったようです。それが現代日本においてどういう経緯で(どういう政治的力学で)「武道」へと戻ってきたのか、機会があったらそういうものも調べてみたいところです。個人的には、自衛隊や警察の幹部たちの思惑があったのではないかなーという感じです。

 

 

 

*1:佐藤正久 - Wikipedia

*2:参議院会議録情報 第193回国会 外交防衛委員会 第4号

*3:ついでに、この理由について政務官はちゃんとした答弁ができていません。

 

○大臣政務官(田野瀬太道君) 委員にちょっと御説明、それは外されたというか、今現在の学習指導要領に加えた部分に銃剣道が入っていないという、そういう状態になっておりまして、今まで銃剣道があったのに外したということではないということだけちょっと御説明させていただいた上で、この度の中教審の諮問は……
○佐藤正久君 手短に。
○大臣政務官(田野瀬太道君) はい。
 ちょっと今ふと思い出せませんが、しかるべき時期にこういう答申が出ましたという報告は受けておるということでございます。済みません。

その後、佐藤議員のブログでは、

文部科学省スポーツ庁は「中学校での指導実績が1件と少ないから」との理由で、学習指導要領(案)から落としたとの説明。

銃剣道を学習指導要領に

 とあるので、あとでスポーツ庁の役人に聞いたのかもしれません。

 

*4:以下の理事のコメントは次リンク参照。

スポーツの推進に関する特別委員会(第6回) 議事録:文部科学省

*5:

「中学校学習指導要領解説保健体育編」

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2011/01/21/1234912_009.pdf(P169)

*6:

 

ちなみに、朝日新聞は2013年の武道必修化の記事の際に、「銃剣道」も範囲に入ることを記事にしています。

 

kotobank.jp

*7:

カ 「F武道」については,柔道,剣道,相撲,空手道,なぎなた,弓道,
合気道,少林寺拳法,銃剣道などを通して,我が国固有の伝統と文化に
より一層触れることができるようにすること。

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles/afieldfile/2017/03/31/1383995_3_1.pdf

*8:

国会の昔の議事録を読むと、日本の政治の場において、「武道」の復活は悲願であったように感じます。

最後の武道の点でありますが、外来のいろいろな武技でも、現に御承知の通りフエンシングとかレスリング、あるいはボクシングというような、かなり残酷な、むしろ私どもから見ると、はなはだ感心しないが、非常に盛んです。ところが日本の劍道のごときは、一面から言うと非常に進歩した一つの芸術的なスポーツだと思うのであります。前にも政府委員にそのことをお尋ねしたのでありましたが、だんだん占領軍の方でも日本の武術を了解されて、近ごろはたいへんよくなつて来つつある。学校では柔道はすでに許しておる、しかし劍道は許していない。どうも私は矛盾があるように考えるのですが(後略)

衆議院会議録情報 第007回国会 文部委員会 第20号

 

私の知つておるところでは、現在学校では、いわゆる從來やつておりました武道というものを禁止しておると見ておるのでありますが、今も禁止しておるのでありますか。それとも何とかかつこうをかえて、むしろこれを奨励するという方向に向つて行く用意が政府にないか

衆議院会議録情報 第005回国会 文部委員会 第23号

 

 

*9:たとえば、

国立国会図書館デジタルコレクション - 国民戦技武道基本訓練要項

には、「國民戰技武道基本訓練細目」という項目で、
・ 一、 銃劍道之部
・ 二、 射撃道之部
・ 三、 劍道之部
・ 四、 柔道之部

と、並列の扱いになっている