ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

【追記】ジョブズがiPodを水没させる逸話はウソである、フェイクだっていいじゃない

【2017/10/25追記】

久しぶりにバズッたので、ナイチンゲールの呪いにかかっている私としては戦々恐々としながらはてなの通知欄をみております。

 

はてぶで、今回指摘したSONYのハンディカムのCMに、高篠氏のエピソードが使われていることを教えてくれた方がいました。情報提供ありがとうございます。みんな知ってるものですね。

 

動画のURLははてブでご確認いただくとして、内容は以下の通りです。

 

(木を彫っている男性)

人々は、どのようにしてその小さなハンディカムを作ったのか、私に問う。

私はまず、正しいサイズを見つけることだと人々に答える。

そして私はヘッドエンジニアにそれをつくるように伝える。

(木彫りのハンディカムらしき模型をエンジニアに渡す)

過酷な努力の末、数ヵ月後にヘッドエンジニアはそのプロトタイプのカメラを私に持ってくる。私はそれをテストする。

(ハンディカムを手から落とす男性。カメラが水槽の中に落ちる。金魚が泳いでいる)

もし、泡が出てくるようなら、私は彼に言う。そこにはまだ、空間がある。

(底につくカメラ。泡がひとつでる)

もっと、小さくつくりなさいと。

(SONYのロゴ)

 

このCMが、果たして指摘したDCR-PC7のものなのかは皆様の記憶を頼りにしなければなりませんが、そうだと思いたいですね(出演している人はまさか高篠氏本人でしょうか?)。

 

SONYの中では知られた逸話としてあり、広報がそれをCMに使用し、なかなかインパクトのある広告ですので、世界でもこの話が広まっていき、ジョブズの話とすり替わった、というところなんでしょうかね。CMでは思い切り水に落としているし、金魚が泳いでいるので水槽だという形で広まっていることも納得です。慎重な書き方をするなら、現在確認可能なこの逸話の大元は、ハンディカムの当時のソニーのCMだ、といえるでしょう。高篠氏の発言を信じるなら、水に実際に落としたというエピソードは演出という事になるでしょう。

 

また、記事タイトルにもつけた「フェイクだっていいじゃない」については、少々言葉足らずだったかなと思い、反省しています。エクスキューズはあまり好きではないんですけど、私の真意は、最後に載せた、紺先輩の「知らねーよ!だけど私は信じてるんだ!」に集約されます。フェイクが拡散され、情報が劣化し、剽窃されていく姿は好ましいものではありませんが、それを信じたいと思う人の心までを、私は否定したくはない、ということです。正すべきは情報や行為であり、その人そのものではありません。だから、紺先輩の言葉を私は好きではありますが、それが正しいとまでは思っていません。私のいいたいことは書くと長くなるので、小林秀雄の「信ずることと知ること」(『考えるヒント3』に収録)を読んでください。

 

【追記ここまで】

 

私の好きな『それ町』の石黒正数さんのtweetを最近フォローしているのですが、こんなジョブズの逸話を紹介していました。

 

 

リプライでアイフォンではなくiPodの話だという指摘がありますが、ジョブズが、これ以上小さくできないという技術者の泣き言に、水に沈めるという荒っぽい方法でチャレンジを促すという内容のものです。ジョブズっぽいエピソードと言えばそうです。

 

しかし、逸話や伝説は常に眉唾で聞くワタクシなのですが、調べてみるとどうも逸話は存在するものの、ジョブズではないということがわかりましたので、石黒先生にお伝えするべく記事を書きました。

 

 

***

 

かなり広まっている話

さあ、この話、どの程度広まっているかと言うと、誰も疑いようがないほど広まっています。

 

それを物語るエピソードもある。ジョブズは、iPhoneの開発で、徹底した「小型化」を命じていた。ある日、技術者がサンプルを持ち込んだところ、ジョブズはそれを水槽に放り込み、ブクブクが泡が出るのを確認して、こう言ったという。
「酸素のスペースがあるから、まだ小さくできる」

世界の名言Ⅱ~人生編~*1

 

彼が皆の前でやった事は
水槽にiPodを水没させた事。


水没させ…
iPodの中の空気が出た分だけ…
必ず小さくできると…。


なるほどと皆は絶賛したらしいです。

スティーブ・ジョブズの発想|たか坊の徒然日記…(プロテニスプレーヤーの毎日放送局…。)

 

2点目の「強い推進力」についても、完成間近な製品を土壇場でひっくり返す、技術者が懸命に小型化につとめてきた製品サンプルを水槽につけ、「酸素が入る余地があるなら、まだ小型化できる」といって突き返す、といった有名な逸話があります。

第2回 スティーブ・ジョブズに見る、創造型経営リーダーの条件 | 大塚商会のERPナビ

 

 

また、テレビでも、ジョブズの逸話として放送されたことがあるようです。

 

先日、東京4チャンネルの再放送番組の中で、スティーブ・ジョブズを扱った、伝記的再現ドラマを放映しておりました。(中略)そのジョブズ氏のエピソードの中に、
 音楽プレーヤーiPodを薄く、軽量化する事を技術者に求め、「もうこれ以上は無理です」という技術者達に対し、ガラス花瓶の花を抜き、iPodを沈めて見せる場面がありました。

こうしてレジェンド(伝説)は奪われ、歴史はすり替えられる ( その他文学 ) - ★子育てヒロシの主夫日記★ - Yahoo!ブログ

 

この話は、先日放送のフジテレビ「ソモサン・セッパ!」の問題として出ました。

スティーブ・ジョブズ氏がiPodを小型にできると証明したある方法 - NAVER まとめ

 

こうなってしまうと、もう疑うほうが無理だという話です。

 

英語圏のメディアがソースのようだが…

さて、Appleの話なので、英語圏で元ネタを調べてみると、出てきます。2014年11月8日の記事。

 

www.cultofmac.com

 

Cut of Macは「なぜジョブズは最初のiPodの試作機を水没させたのか」というタイトルで、ジョブズの水没させた逸話を披露しています。Quoraをソースにして、Appleを退職した従業員のAmit Chaudharyの証言を披露しています。

 

The engineers explained that they had to reinvent inventing to create the iPod, and that it was simply impossible to make it any smaller. Jobs was quiet for a moment. Finally he stood, walked over to an aquarium, and dropped the iPod in the tank. After it touched bottom, bubbles floated to the top.
“Those are air bubbles,” he snapped. “That means there’s space in there. Make it smaller.”

技術者たちは(ジョブズの大きすぎるという意見に対して)iPodを新しく発明しなおさなければならないし、単純にこれ以上小さくすることは不可能だと説明した。ジョブズは少し黙った。最終的に彼は立ち上がり、水槽の方へ歩き出し、iPodを沈めた。iPodが底につくと、気泡が浮かんだ。

「気泡があるじゃないか」彼は指を鳴らした。「つまり、まだ隙間があるという事だ。もっと小さくできる」

 

というわけで、ソースにしているQuoraのサイトを見てみます。2011年10月9日の投稿。

 

https://www.quora.com/What-are-some-great-stories-about-Steve-Jobs/answer/Amit-Chaudhary

 

「ジョブズの偉大な伝説とは?」というタイトルで、Amitが答えています。内容は一緒ですが、気になるのは、これにも別ソースがあるという事です。2011年10月6日のthe Atlatic。

 

www.theatlantic.com

 

the Atlanticは、先日、FacebookのAIが独自言語を作ったという誤報を流したサイト*2ですが、ムーほどの荒唐無稽さはないサイトだと思います。名前は出してませんが、元Appleの従業員の話として載せています。しかし、同じ水槽に沈める話を出すのですが、この話について、the Atlanticはこう注釈しています。

 

 Last year a former Apple employee related his favorite Steve Jobs story to me. I have no way of knowing if it is true, so take it for what it's worth. I think it nicely captures the man who changed the world four times over.

去年、Appleの元従業員が、彼のお気に入りのジョブズの話を披露してくれた。参考までにいうならば、私はそれが真実かどうかはわからない。私は、その話が世界を4回以上変えた男の話としてぴったりだと思う。

 

注目すべきは、この話がどの程度の事実性があるかどうか、一応the Atlanticは判断を留保しているということです。

 

調べた限りではこの2011年10月以前より、ジョブズの逸話としては出てきませんので、恐らく英語圏ではこのthe Atlanticが大元と見ていいでしょう。

 

開発者は否定する

うーん、怪しい話ではありますが、もう一押し欲しいところです。

ここで先ほどのQuoraの記事に戻ると、コメント欄に興味深いことが書かれています。

 

According to Tony Fadell who lead the first iPod team, this story is a myth. It happened at Sony with the Walkman and has been incorrectly attributed to Steve Jobs. I heard Tony say this at Brooklyn Beta in October where he spoke and answered questions.

最初のiPodの開発チームを牽引した、TonyFadellによれば、この逸話は神話だいう事です。これはソニーのウォークマンについてのことが、ジョブズの話として間違って引用されたものです。Tonyは10月のBrooklyn Betaで、質問にそう答えました。

https://www.quora.com/What-are-some-great-stories-about-Steve-Jobs/answer/Amit-Chaudhary

 

なんと、ソニーのウォークマンの逸話が、ジョブズの話にすり替わってしまったというのです。

 

TonyFadellは、iPodの発案者であり、開発者の中心人物の一人です*3。その人物が、このiPodの話を「神話だ」と否定するのですから、説得力はあります。これはどうにかして、本人の証言を得たいところです。

 

ということで調べてみると、Tonyはtwitterをしていることに気づきます。

 

twitter.com

 

だめもとで、Tonyに、「日本でこういう話が広まっているんだけど、本当かい?」とメッセージを送ってみたところ、なんと返事がやってまいりました!!

 

f:id:ibenzo:20171023210207p:plain

 

TonyFadellってまじですごい人なんですよ!ガンダムで言うなら、第一話でシャアに声をかけられるようなもんですよ。この画像、コラじゃないんですよ!返事が来た時、思わず変な声がもれてしまいました。

 

さて、私の拙い英語には目をつぶっていただくとして、Tonyの返事によると、やはり、「これはソニーの話であって、Appleではない」と答えています*4。ということは、Tonyの知らないところで行われていた出来事でなければ、このジョブズの逸話はかなりうさんくさくなります。

 

ウォークマンの話なのか

で、やっぱりソニーの話らしいという推測から、もう一度この話を調べてみると、こんな記事が引っかかります。

 

でも、この話、二十数年前。
 ソニーの故・盛田会長(当時社長)の話として、聞いた覚えがあります。
 ウォークマン誕生直後の事。
 携帯用プレーヤーとして、より薄く軽くある必要を求め、
「もうこれ以上薄くする事は無理です」という技術者達に対し、
 盛田社長は、
「バケツに水を張って持ってこい」と言い、ウォークマンを沈め、
 出てくる気泡を指して「泡が出ると言う事は、それだけまだ隙間があると言うことだ」
 と言ったという話でした。

こうしてレジェンド(伝説)は奪われ、歴史はすり替えられる ( その他文学 ) - ★子育てヒロシの主夫日記★ - Yahoo!ブログ

 

では今度は、ソニーのウォークマンの話という事で、私の好きな絨毯爆撃をかけてみます。

 

ウォークマンに深く関わったのは当時名誉会長の井深大、会長の盛田昭夫、開発プロジェクトのリーダーだった黒木靖夫。彼らの著書および関連した書籍をできるだけピックアップして読んでみました*5

 

ところが、全く残念なことに、「ウォークマンを水没させた」というような話は一切出てきません。

 

本人たちが直接書いたものから、伝記めいたものまで読みましたが、共通することは、ウォークマンは、当時会長だった盛田がかなりこだわってたということ。テープレコーダーは録音つきが主流だった当時、再生専用だった機械が売れる予想など誰もしていなかったということ*6、などがわかります。黒木がチーフではありましたが、どうも盛田の意向がかなり強くかかった製品であることもうかがえます*7

 

トップダウン式のアイデアの導入もあったようで、こんなエピソードもあります。

 

「あれに(引用注:ウォークマン)ヘッドフォンが二つ付くようにしてくれんかね」

「はあ?」

「いや、これはカップルで聞くこともあるだろう。ヘッドフォンが一つだけじゃ、もう一人が仲間はずれになるじゃないか」

『小説盛田昭夫学校(下)』P143

 

これはウォークマンの設計納期のほとんど最終の段階だったといわれています。というわけで、当初のウォークマンには、ヘッドホンが二つつくような設計になったのですが、私が疑問に思ったのが、もし水没のエピソードが本当だとすると、せっかく小型化したものに、改めて別の装置をつけるというこの盛田の発想は矛盾はしないかということです。私が社員だったら、お前が小さくしろって言ったから小さくしたのに、という気分になります。

 

いずれにせよ、盛田にしろ井深にしろ黒木にしろ、彼らの著書にも彼らのことを描いた著書にも、「ウォークマンを水没させた」という逸話は登場しません*8

 

ハンディカムの話であるようだ

全ての書籍を読んだわけではないので、絶対とは言い切りませんが、どうも「ウォークマンを水没」の話の信憑性は低いといわざるを得ません。ただ、TonyもSonyの話だと断言しているので、もしかすると別の製品かもしれないと思いもう一度調べてみると、面白い記事がひっかかりました。

 

そこで、ソニーは、一回り小さくなったパスポートにあわせて、ビデオカメラも小さくしようとしますが、技術者達は、それは無理だと主張します。
そこで、リーダーが、「今からこの製品を水につける。もし泡が出たら、それだけ隙間があるということになり、まだまだ小さくできるということになるな」と言って、ビデオカメラを水に沈め、泡が出たのを確認して技術者を納得させた(黙らせた)というエピソードが紹介されています。

読書と映画 【書籍:ルポ】 ソニーの壁-この非常識な仕事術-

 

おお、これはぴったりの話ですね。著者は城島明彦という人で、元ソニーの広報マン、今はジャーナリスト・作家のようです。上記のエピソードが載っているのは以下の本。 

ソニーの壁―この非常識な仕事術 (小学館文庫)

ソニーの壁―この非常識な仕事術 (小学館文庫)

 

 

 早速読んでみますと、該当箇所はこんな感じ。ちょっと長いですが引用します。

 

ソニーには、高篠静雄さんのように落語や講談を思わせる楽しい語り口の人もいる。高篠さんは、長年にわたって「小型高性能」に代表される、”最もソニーらしい商品づくり”に関わり、それが評価されて二〇〇二年六月に副社長になった人だが、リクルート発行の転職情報雑誌「テックビーイング」が高篠さんのインタビュー記事(二〇〇一年3号)を載せたところ、エンジニアたちから大きな反響があったという。

『ソニーの壁』P98

 

高篠静雄は元ソニーの副社長。大曽根幸三の下でウォークマンの開発に取り組み、オーディオ関係の技術者としてやってきたようです。ソニーは当時、パスポートサイズのビデオカメラを発売して大ヒットしたのですが、パスポート自体が改訂で一回り小さくなってしまい、ソニーは現行の「パスポートサイズ」にしようと取り組みます。

 

 技術者が高篠さんにいった。

「これ以上小さくする余地はありません」

「そうかな」

 というと、高篠さんはバケツに水を汲んできた。

「今からこの製品を水につける。もし泡が出たら、それだけ隙間があるということになり、まだまだ小さくできるということになるな」

 そういって、高篠さんはその製品を水の中に沈めた。すると、ぶくぶくと泡が出た。「まだまだ小さくできるはずだ」と笑う高篠さんに技術者は黙って頷くしかなかった。

同上 P98

 

最初の「パスポートサイズ」のカムコーダ(ハンディカムですね)の発売は1989年*9。パスポートのサイズが変更されたのは、1992年。 とすると、上記の話は、第二世代のハンディカム、DCR-PC7のことと思われます*10。この発売は1996年。iPodの発売は2001年10月なので、5年も前のできごとです。iPodの話になるはずがありません。

 

また、城島がソース元としている『Tech-Bing(テックビーイング)』は、既に廃刊しており、国会図書館にでも行かなければ該当記事が正しいかどうかを確認できそうにありません。ただ、このソースが正しいとするならば、『Tech-Bing』の2001年3号は、月刊なので、2001年3月ごろと推測できます。いずれにせよ、iPod発売の前であり、iPodの話を流用したとは考えにくいです。

 

実際には水没させてはいない

やれやれ一件落着、としたいところですが、この城島の記述で気になるのが、以下の箇所です。

 

(前略)「パスポートサイズ」を謳うからにはサイズを小さくしなければならない。その時の話を筆者流に以下に再現してみよう

『ソニーの壁』P98

 

つまり城島は、どうも高篠のインタビューをそのまま引用しているわけではない、ということがわかります。

 

とすると、この高篠静雄のインタビューを何とかして手に入れたいところですが、『Tec-Bing』をそのまま読むのはすぐには難しそうです。ネットをあれこれ検索していると*11、高篠のインタビュー記事が出てきました。月刊アスキーの2003年11月27日の記事。

 

 [高篠氏] 通用するんですよ、うちは。でも最後まで断り切れないってのもまたうちで。それでカムコーダへと。

 あの頃ウォークマンってのはカセットケースサイズで、ものすごい勢いで小さくなっていた。小型にするマネージメントとか、やり方やらせ方とか、いろんなノウハウがありまして、それでカムコーダに行ったんです。でもその頃には、パスポートの方が一回り小さくなっていたんですね。僕が「なんだこれは。パスポートサイズじゃないじゃないか」と言うと、「いや部品が大きくて隙間がない」とか言うわけです。

ASCII.jp:ソニー(株)副社長 高篠静雄氏/月刊アスキー編集主幹 遠藤諭 特別対談

 

おお、そのまんまの話っぽいですね。読み進めます。

 

カムコーダには超優秀な人たちが集まっていますから理論ではかないそうもないんで、「パスポートサイズにできないと言っている奴と物を俺のとこに持ってこい」と。もう1つは「バケツに水を入れて持ってこい」と。僕が「隙間がないんだな?」と聞くと、「まったくありません」と言うので、「じゃあこれを水の中に入れるから。あぶくが出たら隙間があるのかないのか?」と。

ASCII.jp:ソニー(株)副社長 高篠静雄氏/月刊アスキー編集主幹 遠藤諭 特別対談

 

どんぴしゃの話ですね。やはり、水の中に沈めるという話は、高篠のカムコーダの話で決まりだな・・・と思ったら、続けて高篠はこんな発言をします。

 

[高篠氏] 「あぶくは出るのか?」「出るでしょう」「あぶくが出るってことは空気が入っている。ということは隙間があるんだろう」なんてこともやりました。実際には水には入れなかったんですけどね。

ASCII.jp:ソニー(株)副社長 高篠静雄氏/月刊アスキー編集主幹 遠藤諭 特別対談

 

なんと、実際には水に入れていないということです。『Tech-Bing』ではどのようなインタビューになっているかはわかりませんが、高篠がこの話をお気に入りで同じように使いまわしているようであれば、『ソニーの壁』の中での城島の記述は、少々筆が滑ったという感じなんでしょう。

 

今日のまとめ

①iPodバージョンの話は、2011年10月のthe Atlanticが元ネタのようであり、それはAppleの元技術者の証言をベースにしている。ただし、その真偽については判断を留保している。

②iPod開発の中心人部のTonyFadellも、この話をAppleではなくSonyの話だと否定している。

③Sonyのウォークマンの話だという説もあるが、初代ウォークマンの開発に携わった盛田などの著書や伝記を読んでも、同じような話は出てこない。

④実際は、1996年に発売されたハンディカムの開発時の話のようで、当時開発の中心にいた高篠静雄・元ソニー副社長のインタビューが元ネタである。

⑤高篠自身の発言によれば、仮定の話として「水に入れたらあぶくが出るのではないか」としただけであり、実際には水没をさせていない。

 

さあ、今回は調べたことが当たってすっきりする終り方ができました。久しぶりです。今後、ぺらっぺらのビジネス書で「ジョブズはiPodを水没させて…」と話し始めたら、当ブログの記事をオススメしてください。

 

結局、これがジョブズやソニーの盛田の話として広まったのは、高篠静雄ではこの話は弱くなってしまうからです。逸話は残念ながら、「誰が語るか」で、その価値が変わってしまうのです。世知辛い話ですけど。

 

でも私は、この話、フェイクだっていいじゃない、と思います。『それ町』の13巻の「廃村」の中の紺先輩のセリフ、私は好きです。

 

f:id:ibenzo:20171024224104p:plain

『それでも町は廻っている 13巻』P78

 

というわけで、石黒先生の話で始まり、石黒先生の話で今日の記事をしめくくります。

 

 

*1:ただ、この記事を書いた人は「ずっとネタだと思っていたが」とあるので、まるきり事実として考えていたわけではなさそうです

*2:

 

www.netlorechase.net

 

*3:

Fadellが果たしてiPodの生みの親なのか、というところは論争があるようです。

iPodを開発したのは誰か、「ポッドファーザー」の肩書は誰に与えるべきなのか―この問題は、その後さまざまなインタビューや記事、ウェブページ、果てはウィキペディアも戦場として、何年も争われることになる。

『スティーブ・ジョブズ』(講談社)ウォルター・アイザックリン P169

 

*4:from Tokyoとあるので、このとき日本にいたんですかね

*5:

調査した書籍は以下の通り。

小説 盛田昭夫学校 (上)(下)

経営者の品格―今こそ問われるリーダーの人間力! (プレジデント・クラシックス)

学歴無用論 (朝日文庫)

井深大・盛田昭夫 日本人への遺産

起業家という生き方 (発見! しごと偉人伝)

盛田昭夫語録 (小学館文庫)

ものづくり魂――この原点を忘れた企業は滅びる

盛田昭夫 (講談社学習コミック アトムポケット人物館)

齋藤孝の親子で読む偉人の話 3年生

ソニー―盛田昭夫 (世界を変えた6人の企業家)

MADE IN JAPAN(メイド・イン・ジャパン)―わが体験的国際戦略 (朝日文庫)

図説世界史を変えた50の機械

ウォークマンかく戦えり (ちくま文庫)

大事なことはすべて盛田昭夫が教えてくれた (ワニ文庫)

盛田昭夫・佐治敬三 本当はどこが凄いのか!!―これまで未公開の新事実で迫る偉大な起業家の実像と遺訓

*6:

「たしかにアイデアとしてはいいんですけど、録音機能のないものを人が買いますかねえ」

『メイド・イン・ジャパン』P92

 録音機能のないカセットプレーヤーなんて誰も買わない。

『盛田昭夫語録』P49

 など。

*7:

この新型ステレオの最初の小売価格は三万円程度に押さえたかった。経理担当は反対したが、私は断固として譲らなかった。

『メイド・イン・ジャパン』P92-P93

 

製品の将来性を確信していたので、この企画の責任は私がいっさい引き受けると言明した。

同上 P94

  

*8:カセットのウォークマンではなく、CDウォークマンの話ですが、主要な技術者の一人、大曽根幸三のエピソードは、小型化の話が出てきます。

 

その後、CDウォークマンの開発では、従来の据え置き型から大幅に小型化しなければならず、設計担当者に「この大きさでやれ」と木型を渡しました。できた試作品は確かに木型ピッタリですが、どうも厚い。よく見ると少し大きい木型とすり替えてあった(笑)。担当者がもう3ミリメートル厚みがないとできないと言うのを、「できるかどうかなんて聞いていない。できるまで知恵を絞れ」と叱咤。すると彼らも腹が決まり、発想を一新して成功させました。

「首」賭けたウォークマン開発秘話 | 長老の智慧 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

 

*9:

CCD-TR55
「ハンディカム」の愛称で親しまれた8ミリビデオカメラ。790gという超計量化を実現し、“パスポートサイズ”のキャッチフレーズは一世を風靡した。最新技術をおしみなく投入し、旅行が手軽に記録できる時代を作った。

Sony Japan | 商品のあゆみ−ビデオカメラ

 

*10:

DCR-PC7
新パスポートサイズのデジタルビデオカメラ。2.5型フレキシブル液晶モニターを搭載した業界最小・最軽量モデル。

Sony Japan | 商品のあゆみ−ビデオカメラ

*11:

実は、すぐに同じ話がひっかかる名言DBがあるのですが、ソースも何もないので、省略しています。

systemincome.com

恐らく、この名言はいわゆるビジネス啓発本に載せられているのではないかな、という気がします。さすがに見つけることはできませんでしたが。

ただ、この話も後述するように「本当にバケツに入れたわけではありませんよ」と、水の中に入れたことは否定しています。