「痴漢」とググると、「冤罪」というキーワードが予測される現代にお住まいの皆様、いかがお過ごしでしょうか。
ちょっと前にこんな記事が出てました。
要約すると、
ネプリーグというクイズ番組の
世の中の意外な割合を当てるクイズで
痴漢被害にあった女性の割合を聞く問題を出し、
その58%という数字をめぐって
「不謹慎だろ!」という声があがった
という感じです。
ちなみに世の中の反応は「不謹慎」的反応と、下記のような「半分も痴漢にあってるわけねえだろ」的な冤罪路線の反応に分かれておりました。
しかしまあ、この割合の数字の出典が気になるところです。該当回の番組は見ていないのですが、他の回を見たところ、このクイズは一応、数字の出処を出してはいますので、その情報を探したのですが、見つかりませんでした。録画すればよかったですね。ただ、他の回を見ても、アンケート調査会社の名前しか出てこない場合が多かったので、どこまで有用な情報が得られたかは疑問です。
というわけで、とりあえず自力で探してみます。
警察かなんかが発表している資料なのかなあと思って、さっそく「痴漢 女性 割合」でググってみると、あら、記事執筆現在では、いきなり検索トップに、「【男性が知るべきこと】女性の58.3%は痴漢に遭ったことがあり…」という記事が引っかかるではありませんか。
記事の日付は2014年6月24日。だいたい一年ぐらい前ですね。
この「しらべぇ」という購読対象がよくわからないニュースサイトは、ロケットニュース的なコラムっぽい感じの内容をライターたちが持ち寄って書くような感じになっていて、Qzooというアンケートサイトと連携して、その結果をもとにした記事もいくつか書かれているようです。
で、上記の記事は、そのアンケートを元にした結果ということのようです。
アンケート内容と結果は、
【「これまでに痴漢に遭ったことがある」と答えた人の割合】
20代女性:43.1%
30代女性:63.1%
40代女性:65.0%
50代女性:63.3%
60代女性:58.0%
(全体平均:58.3%)
という「全国20代から60代の女性300名」にとったざっくりしたアンケートのようで、これに体験談のフリーアンサーが付随しているだけのもののようです。アンケートの分析も「全体だと、およそ6割もの女性が痴漢被害に遭ったことがあると答えています」*1というざっくりしたものです。
ちなみに、他の痴漢被害に関するアンケートには、「39.1%」というものもあり*2、いろんな数がある中で、あまりにも数字が一致しているので、たぶん番組スタッフが参考にしたのは、「しらべぇ」のものではないんでしょうか。ずいぶん怪しげな資料に手をつけたもんです。
しかしそれだけ、痴漢の被害というものに関する資料が乏しいというわけです。
ということは、警察やらなんやらが発表している割合を総合して統計的に処理すれば、真の割合に迫ることができるんじゃないか…と思って調べ始めたら、あらら、もう3年も前に、「うさうさメモ」さんが「痴漢に関する資料のまとめ」という記事で丁寧にまとめておられました。記事では、痴漢の被害の割合については、それぞれの調査によって*3「14~49%」の開きがあると書かれておりました。
もうそれだけで、件のクイズ番組の「58%」という数字がいかに信用のないものかということがわかります。
そしてもっと正確に言うなら、その数字は「58.3%」です。何かの本で養老孟司が交通事故の死傷者数の数字を掲げることへの不信感を書いていましたが、それと同じです。あなたがたが切り捨てた0.3%は、1人にも満たない数かもしれないけれど、その小さな被害者の声を切り捨てたということなのです。これはメディアの欺瞞といわれても、仕方のないことかもしれません。
まあしかし、「痴漢」というのは形こそ違えど、長々と続いている話題です。そして、その話題が「炎上」してしまうのは、古来から絶えない「男vs女」の構図に、知らず知らず置き換えてしまっているからかもしれません。*4
*1:「20代女性の数字から、件数自体は減ってきていることがうかがえますが、それでも経験者は4割以上」という記述も見られますが、この意味がわからない。「これまでに」なのだから、年齢が高いほうが被害にあう割合は大きくなるのではないだろうか。
*2:「マイナビウーマン 痴漢被害に遭ったことはありますか?」http://woman.mynavi.jp/article/131223-36/
*3:そもそも痴漢の被害が女性に限られているわけではなく、調査によっては男性も含んでいるものもありましたので、正確には同じ対象の調査というわけにはいかないのかもしれません。
*4:「うさうさ日記」の当該記事の「「痴漢への非難」が「男性全体への非難」として、「痴漢冤罪への非難が女性全体への非難(それが言い過ぎならば、痴漢を告発する女性への非難)」として語られている場面もあるように思います。」という言及は白眉だと思います。