「役に立たない雑学選手権」というツイートが流行っています。
今回は第二回という事で、色々寄せられたようです。というか、もはやトリビアの泉ですな。選ばれたのは以下の通り。
最優秀賞
『美川憲一は牡牛座の男』金賞
『おすぎとピーコは所属事務所が違う』高齢の住職賞
『訓読みは音読み』特別賞
『日本語の「ぐっすり」は英語の「GOOD SLEEP」から来てる』
その他の入選作品
マツタケの花言葉は「控えめ」
日本の国土の570分の1は北海道大学の敷地。
など*1
さっそく、その真偽についてずいぶんコメントがついていたので、アヤシイものを調べてみました*2。
おすぎとピーコは所属事務所が違うのか
そういえば最近あんまり見かけませんが、おすぎとピーコは所属事務所が違うんでしょうか。タレント名鑑で確認してみました。
最新は2011年しかなかったのですが、確認すると、
おすぎ:プラムクリークス
ピーコ:オフィスおすぎとピーコ*3
とのこと。しかしながら、この2つの事務所は、住所が全く一緒です。
タレント名鑑には部屋番号までのっていて、そちらも一緒だったので、名義上二つの事務所は同じ部屋に入っているという事になります。もはやこれは、個人事業主として便宜上事務所を分けているだけで、同じ事務所なんじゃないのか? というかオフィスおすぎとピーコはおすぎとピーコ以外に入れるのか?など、疑問がいろいろわきます。
ただ、2005年まで遡ってタレント名鑑を読んでみたのですが、面白いことに、ピーコはずっと「オフィスおすぎとピーコ」ですが、おすぎは事務所をいくつか変わっているようです。
真偽が不明ですが、ネット上のおすぎとピーコフリークの方の情報によると、2002年ごろにおすぎは、「インガルス」という事務所に移っています。その方の情報だと、
おすぎとピーコ事務所の事務をやってくれてた人が3月いっぱいでやめることになったらしく、4月からおすぎは谷口さんのところに入ったそうです。
その谷口さんは痔で入院中。結構重症みたいです。
ピーコとは別みたいですよ。
たぶん「インガルス」というのが谷口さんの会社だと思います。
ということで、この情報を信じるなら、それまでは同じ事務所だったのではないか、という感じです。谷口さんは「タニタニ」の愛称でおすピーファンには馴染みの方のようで、いろいろなおすピーの番組のバイザーに名を連ねています*4。「インガルス」は彼が立ち上げた事務所なんでしょう。
名鑑を確認する限り、おすぎはインガルスに2006年までは所属しています。インガルスは渋谷区富ヶ谷にあり、この頃の「オフィスおすぎとピーコ」は、南青山ではありますが、番地が違い、現在とは入っている建物が違います*5。
2007年から、おすぎは現在と同じ「プラムクリークス」所属に変更になっていますが、場所は渋谷区南平台で、現在とは場所が違います。そして、2011年になって(もしくは欠番で確認できなかった2010年)ようやく、おすぎとピーコの所属事務所の住所が同じになります。あれですかね、笑っていいともの終了にあわせてなんですかね。
どういう経緯で二人が所属事務所を替え、そしてまた名義は違いながらも同じ住所でまた活動をしているのかはよくわかりませんが、「所属事務所」とは言いながらも、個人的にはこれは個人事業主のような形で会社を立ち上げているだけではないか、という感じがします。登記簿なんかを見れれば、代表がもしかすると二人の名前だったりするのかもしれません*6。
「ぐっすり」の語源について
「ぐっすり」の語源が「Good Sleep」だというのは、既にかなりの方がそのアヤマリを指摘しています。
よく書かれているのが、江戸時代の書物に「ぐっすり」の用例が掲載されているというもの。黄表紙の『即席耳学問』というやつですね。18世紀ごろの物語で、早稲田のアーカイブにありました。
http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he13/he13_01961/he13_01961_0008/he13_01961_0008_p0004.jpg*7
其身六十にあまる比は、人も知る金持となりしを、ぐっすり息子に譲り
とあるので、「すっかり」とか「そっくり」みたいな使い方をしているようです。
そもそも、「ぐすと」という言葉が古語にあり、これが擬語化して「ぐっすり」に転じたのではないか、という説もあるようですが*8、ちょっとはっきりしませんね。
「Good Sleep」説は、三谷幸喜のエッセイを挙げる人も多いですね。「叔父」というタイトルのエッセイで、「江成おじさん」という大嘘つきのおじさんの思い出語りなのですが、「Good Sleep」のくだりは以下の通り。
「夜、寝る時に『ぐっすりおやすみ』って言うだろう」
何の話か、すぐにはぴんと来なかった。
「俺さあ、ひらめいたんだよ、どうして『ぐっすり』って言うのかって。あれはもしかしたらね、good sleepの略じゃないかな、どう思う?」
「それはあるかもしれないね」
「これはすごい発見だと思うんだ。でもこんなすごいこと発見したのに、世間に発表する方法が思いつかんのだ、俺には」
「叔父」『オンリー・ミー』(幻冬舎)P13-14*9
三谷のエッセイがそこまで人口に膾炙するとは思えませんが、恐らくおんなじように考えた人がけっこういるということではないでしょうか。
少なくとも「Good Sleep」という英語の変化という説は明確に否定されそうですが、現在は睡眠関係でしか「ぐっすり」は使わず、なぜそのような用法しか残らなかったのか、というのは研究の余地がありそうですが、さすがにそれは論文が一個かけるので、ここでは記しません。
マツタケの花言葉は「控えめ」か
さあ、花言葉に関しては別記事でもだいぶ調べたので、私はだいぶ詳しいです。
そもそもキノコに花言葉なんかあるのかよ、と思ったら、上記記事でも引用した、日本での花言葉の元ネタになったと考えられる19世紀のJohn Ingramの『The language of flowers』には、Mushroomの花言葉が載ってました。へええ
Mushroom・・・Suspicion; or , I can't entirely trust you.
疑わしい、完全には信用できない、みたいなあんまし芳しくない意味ですね。しかしながら、当時も今も、あまりムコウの方は「キノコ」類について日本ほど弁別しないので、これをなんのキノコで考えていたのかは疑問です。いずれにせよ、「控えめ」という意味ではなさそうです。
一応、前回と同じように、調べられそうな花言葉関係の本を洗いましたが、「松茸」の花言葉は出てきませんでした*10。
この「松茸=控えめ」の言葉が出てくるのは、調べた限りでは2004年8月ごろのサイトが初出です。
10月10日 まつたけ
花言葉
控えめhttp://web.archive.org/web/20040824074836/http://www.hukumusume.com/366/hana/pc/10gatu/10_10.htm
しかし、いったいこの「控えめ」という語がどっから出てきたのか。
最初、「松」の花言葉からの転用かと思ったのですが、「松」の花言葉は「不老長寿」「向上心」「勇敢」などで、あまり関係ありません*11。Ingramの本にも「Pine」の項目はありますが、「Pity」なので、「同情」「哀れみ」といったところでしょうか*12。ここら辺の意味が「控えめ」に変わった、というのはちょっと無理がありますかね。
では、「控えめ」の語をもつ花からの誤用かとも思ったんですが、「松茸」と間違えそうな花ってそうはありません*13。Ingramの本でも「Modest」で検索してみたんですが、「Trillium Pictum(エンレイソウ)」とか*14、「Violet(すみれ)」「White Lily(白ユリ)」*15と、おおよそキノコにも松茸にも縁のなさそうな花ばかりです。
なので、どこから「松茸=控えめ」という構図ができたのかは不明です。花言葉にガセも何もないとは思うんですが、少なくとも昔から伝えられてきた花言葉集には掲載されていない語のようです。
北海道大学の敷地はどれほど広いのか
最後は簡単に、北海道大学の敷地は日本の面積の570分の1だという話について。
これはちゃんとソースがあります。
大学のキャンパスの敷地+研究林などの学外全国の施設の面積を合わせると、約70000haにも及ぶ広さになるんだとか。「北海道大学の敷地」という言い方は誤解を招きそうですが、70000×570=39900000ha=399000km2なので、日本の面積の約「38万km2」に近いですね。
ただ、研究林の項目に、「道内6カ所と和歌山の合計は70,000haにも及ぶ「世界最大規模の大学研究林」」とあるのですが、研究林だけで7万になるなら、他のキャンパスとか諸々を加えたらもっと広くなるんじゃないか、という気がしたので、各研究林の合計をぽちぽち足したら、70249.4haになりました*16。
キャンパスやら他の実験施設やらをあわせると、71000haにはなりそうです。いずれにせよでかいですなあ。札幌キャンパスだけでも約177万m2で、距離にすれば神田駅から上野ぐらいまで行けちゃうんだとか*17。
今日のまとめ
①おすぎとピーコは名義上は別事務所であるが、住所も部屋も一緒であり、個人事業主の色々な思惑がからんでそうである。
②「ぐっすり」の「Good Sleep」の語源は、江戸時代の用例などから誤りであると思われるが、どうして「ぐっすり」が睡眠関係のみに使われるようになったのかは研究の余地がある。
③マツタケの花言葉が「控えめ」であるという正確なソースは見つけられない。キノコ全般は「疑い」が花言葉であり、また「松」の花言葉の「不老長寿」「同情」などとも一致せず、出典が不明である。
④北海道大学の敷地が570分の1というのは、研究林など全国全ての敷地を合わせたら、という意味である。
雑学ほど一瞬で書き込めて目立つものは無いと思うのですが、いざそれが正しいか確かめようとすると、まったくタイヘンです。書くの一瞬・調べるのは一生(語呂が悪い)ですので、読む側が「そんなもんかいな」ぐらいで流すのが精神衛生上よろしいかと思われます。
*1:「最初はグー」の語源とか、ミックジャガーの話とかも面白そうでしたが、すごく大変なので今回は割愛しました
*2:なお、美川憲一はタレント名鑑でも確認しましたが、5月15日生まれなので、牡牛座の男です
*3:
日本タレント名鑑 (2011)P1003
*4:
ハッピーボーイズアワー爆笑おすピー問題! - Wikiwand
*5:ストリートビューの2009年のものを確認すると更地になっているので、たて壊しで移転をしたのかもしれません。
*6:このネタの初出は恐らくではありますが、週刊女性の雑学の記事のようです。
元祖、双子タレントであり兄のピーコはファッション評論家、弟のおすぎは映画評論家。双子といえば何からまで同じのイメージだが、それぞれ異なる事務所に所属してそれぞれ個人事務所を持ち代表を務めています。 因みに ピーコは「オフィィスおすぎとピーコ」、おすぎは「プラムクリークス」という事務所に所属。やはり双子は事務所は別々でも場所は一緒、同じ住所というオチでした。
ただ、何年何月号かわからないものを調べる元気がなかったので、元記事は追いませんでした。
*7:もちろん私は崩し字が読めるわけもなく、大阪大学の現代語訳のPDFからここだろうというところにしるしをつけたまでです。
http://www.let.osaka-u.ac.jp/~okajima/uwazura/meityokibyosi/meityokibyosi13.pdf
*8:須藤増雄 1951 P48
CiNii 論文 - 擬語と普通語 : 特に普通語の擬語化について
*9:ちなみに、以下のサイトでは、
「世界一受けたい授業」の「ぐっすりは Good Sleep から」はガセ:トンデモない一行知識の世界 - 唐沢俊一の「雑学」とは -
ガセビアで否定されたことや、「世界一受けたい授業」では肯定されていたことなどが記載されています。ただ、このページでは『オンリー・ミー』を「冗談だらけ」と書いていますが、三谷本人は「九十九パーセント事実」と記していますので、ちょっと読み間違えています。
*10:
以下の本を読みました。
『片桐義子の花言葉』片桐義子(信濃毎日新聞社)2009
『花を愉しむ事典』
『花物語 「花言葉」と「花の伝説」』蟹江敏(文芸社)1998
『花屋さんの花図鑑』(草土出版)1993
『花カレンダー花ことば 花の図書館』(八坂書房)1992
『366日誕生花の本』滝井康勝(日本ヴォーグ社)1990
『花ことば 小さな花に想いをたくして』(池田書店)1990
『花言葉』ケイト・グリーナウェイ
『花の言葉と傳説』瀬川正之(千城)1974
『花言葉集』式部素子(虹有社)1951
『花言葉辞彙』蛯原邦夫(群像社)1925
『花言葉』John Ingram 平尾雪花 訳(清友園)1908
片桐義子の花言葉P208
花贈りの便利帖―こんなときにはどんな花を贈るといい?この1冊で、贈りたい相手にぴったりの花が選べます!P12
*12:
ちなみに、松がこの「同情」という花言葉になるのは、ギリシャ神話によるものでしょう。
*13:
*14:
*15:同上 P385
*16:
*17: