ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

ホリエモンロケットは「失敗」だったのか、部分で全体を語らない

文庫 ロケットボーイズ 上 (草思社文庫)

 

「ホリエモンロケット」*1の打ち上げに関して、こんなツイートが話題を呼んでいました。

 

 

日本のメディアは「失敗」という表現であるが、アメリカのメディアは「partial success(部分的な成功)」という表現で、完全な成功を常に求める日本のあり方に疑問を呈するツイートがゴマンと寄せられています。

 

私はその件については部分的に賛成するのですが、果たして日本のメディアは全て「失敗」と表現しているのか、アメリカのメディアはもっとポジティブに表現しているのか、というところを調べてみました。

 

 

***

 

日本のメディアの見出しについて

では、実際のところ、日本のメディアはどのような形で、今回の打ち上げのことを報じたのでしょうか。主要メディアの第一報を調べてみました。ちなみに、ツイート主さんが画像で挙げているのは毎日新聞の記事です。

 

  記事タイトル 記事日時
毎日 打ち上げ失敗か 宇宙への夢かなわず

*2

7/30 16:45
読売 民間ロケット、宇宙届かず…エンジンを緊急停止 7/30 23:49
朝日 ホリエモンロケット、宇宙空間達せず エンジン緊急停止 7/30 21:19
日経 宇宙ロケット、打ち上げ失敗 エンジン緊急停止 7/30 16:49
産経

初の民間ロケット打ち上げ失敗 発射直後に不具合 堀江貴文氏ら創業の宇宙ベンチャー*3 

7/30 16:50
時事 民間ロケット、宇宙に届かず=通信途絶でエンジン停止-北海道 7/30 20:26
共同

ロケット発射も緊急停止、民間初の宇宙到達ならず*4

7/30 19:23
NHK 民間宇宙ロケット エンジンを緊急停止 7/30 16:43

 

今回の打ち上げに関する第一報で「失敗」の文字を入れたのは3紙あり、その他は「宇宙空間に届かなかったこと」をメインにしています。この3紙という数を、多いと見るか少ないと見るかは意見が分かれそうです。

 

しかし、この3紙の記事には共通点があります。記事の作成日時*5を見てください。全て、初稿が16時台なんですね。

 

ロケットを打ち上げたのが16:31なので*6、要するにこの3紙は速報に近い形で記事を出しているわけです。この時間帯では、通信途絶による打ち上げ中止はアナウンスがあったでしょうが*7、細かい原因や、ましてや成果について判断できるはずもありません。速報として「失敗」の文字が出ることは、果たしてそこまで責められるべきことでしょうか*8。とはいえ、NHKが速報の中では一番早かったにもかかわらず、事実のみに基づいた見出しをつけていることは、公共放送としての矜持があるんでしょうか、言葉の選び方は慎重だったかと思います。

 

 

アメリカメディアの見出しについて

アメリカの主要メディアはAP通信の丸コピなので、記事見出しは全て同じです*9

 

JAPAN VENTURE ENDS ROCKET LAUNCH AFTER COMMUNICATIONS GLITCH

日本のヴェンチャー企業は、通信異常の後、ロケットの打ち上げを中止した。

News from The Associated Press

 

「失敗」という表現ではないですが、まあこれだけ読んだら失敗したとしか思わないですけれども。書き方としては、日本の「ロケット発射も緊急停止」とあまり変わらない気もします。

 

 

その中でも、独自に書いているのがEngadgetとBloombergです。

 

www.bloomberg.com

 

www.engadget.com

 

Bloombergは、「民間ロケット事業に参戦するための、日本初のロケット打ち上げの挑戦*10」と、失敗でも成功でもないフラットな書き方をしています。

EngadgetのソースはBloombergになっているのですが、タイトルも記事構成も結構変わっています。というか、「partial success」なんて表現を使っているのは、英語記事ではEngadgetだけです。

 

しかも、Engadgetは別の記事で「日本のロケット打ち上げが失敗した」という記事を書いています。

 

 

www.facebook.com

 

動画の方は、なぜかArirangNewsをソースにして*11、おもいっきし「Fails」と言っています。

 

つまり、何が言いたいかというと、アメリカメディアの中で、どうも「partial success」と、見出しで好意的に書いてくれているのは、Engadgetの、しかもその中の一記者だけ、ということなのではないか、ということです*12。この一例だけでもって、アメリカと日本の考え方の違いを語るのは早計だと思います。

 

 

失敗したときは失敗したと書いている

たとえば、今年の1月15日にJAXAは小型ロケットを打ち上げているのですが、今回のホリエモンロケットと似たような感じで、打ち上げ後すぐに「機体からの情報が地上で受信できなかった」ことから、2段ロケットの点火を中止してたということがありました。

www.asahi.com

 

この件について、英語紙がどのような見出しをつけたかというと、こんな感じ。

 

www.engadget.com

edition.cnn.com

 

という感じで、ちゃんと「失敗」表記にしています。民間の打ち上げとJAXAの打ち上げを比べちゃいけないのかもしれませんが、この見出しという部分だけでは、アメリカと日本のロケット開発の温度差、というものはうかがい知ることができません。

 

今日のまとめ

①「失敗」の表現を見出しに使った3紙は時間的に速報扱いであり、その状況では「失敗」という言葉を使うこともありうるだろう。

②アメリカメディアで「partial success(部分的な成功)」というような、好意的な見出しをつけているのはEngadgetの一記者だけであり、アメリカ全てのメディアがそのような表現を使っているわけではない。

③過去の日本の打ち上げ失敗に関しては「失敗」の表現を使っており、記事見出しだけで、日本とアメリカのロケット開発の温度差をはかることは難しい。

 

 

私は門外漢なので、アメリカのロケット開発(もしくは「失敗」に対する考え方)が、果たして日本とどこまで違うのか、ということはわかりません。感覚として、日本の方がより完全な成功を求められる、というのもわかります。こういうツイートなんかも確かになあという感じです。

 

 

ただ、その根拠となる箇所が、アメリカの一記者の書いた見出しだけ、というのがどうも心もとない、ということなのです。結果として正解でも道のりが間違っていたら、そのゴールは果たして正しいのでしょうか*13

 

今回のロケット打ち上げのニュースは、大手メディアではないかもしれませんが、色々なニュースサイトで細かく取り上げられているという印象です。

 

www.hokkaido-np.co.jp

 

www.huffingtonpost.jp

 

abematimes.com

 

見出しという「parital」にこだわらずに、こうやって日本のロケット開発への理解が深まりつつあるという「partial」を大事にしていったほうがいいんでないかな、と思います。あと、大事なのは見出しじゃなくて中身です。中身を読みましょう。

*1:

という言い方はよいのかよくわからないのですが、伝わりやすいのでそうしています。正しい名前は「MOMO」だそうです

*2:ちなみに毎日は、このあとも続報を何回か出しているのですが、「失敗」の文字を入れています。

 

失敗、到達高度20キロ止まり 後継機「年内に」 - 毎日新聞

失敗 万全の準備実らず 民間コスト減模索 - 毎日新聞

 

確かにちょっとくどいし、あまり光明のもてる書き方ではありません。

*3:産経に至っては、開発者の方が怒るような記事の書き方をしているみたいです。検証してませんが。

ホリエモンロケット打ち上げ失敗?の産経ニュース記事に対するロケット開発者の生の声 - Togetterまとめ

*4:共同通信自体の記事を見つけられなかったので、共同配信の記事を使ってる日刊スポーツをリンクにしました。ちなみに、同じ共同配信でも、例えば佐賀新聞なんかはタイトルが微妙に違います。

 

ロケット発射も緊急停止 民間初の宇宙届かず|佐賀新聞LiVE

 

また、共同の英語版は「失敗」の文字を入れています。

 

Launch of privately developed Japanese rocket fails

*5:ただ、正確な時間は現時点で追える所までなので、もしかすると一報はもっと早く、見出しも変更された可能性、というのもあるにはあります

*6:

7/30 16:31
MOMO初号機が離昇しました。

MOMO初号機打上げ実験の進捗状況について | インターステラテクノロジズ株式会社 – Interstellar Technologies Inc.

 

*7:

しかしその直後、機体からのテレメトリが途絶したため、飛行を中断したというアナウンスが流れた。

MOMO初号機打ち上げ現地取材 - ついに飛び立ったMOMO初号機、しかしそのとき見えたものは… | マイナビニュース

 

*8:

むしろ責められるべきは、幾度か記事内容については更新をしているにもかかわらず、見出しの言葉を変えないという体制にあるように思います。

*9:

Japan venture ends rocket launch after communications glitch - The Washington Post

Japan Venture Ends Rocket Launch After Communications Glitch - The New York Times

Japan venture ends rocket launch after communications glitch - ABC News

JapanTimesなど、日本がメインのメディアで「Fails」を使うタイトルは数多く見つけられるのですが、今回の話とは違うと思い外しました。

*10:Join SpaceXはそのまま訳すとわけわからないので、意訳しました

*11:

www.arirang.com

*12:

ちなみに、このEngadgetの記事の中では、

 

The rocket's partial failure is certainly a disappointment for Momo,

このロケットの部分的な失敗は今のところMOMOにとって失望すべきことだ

Japan’s first private rocket launch is a partial success

 

 

という書き方もしています。

*13:

私がいちばんナットクしているのが、ナショジオの以下の記事。

natgeo.nikkeibp.co.jp