2年ほど前に、キアヌのゲイ疑惑に関するコメントについて記事を書きました。
コメントのコピペはこんな感じ。
インタビュアー「キアヌ、君はゲイであるという噂もあるし、バイセクシャルであるとも言われている。
本当のところは、どうなんだい?」
キアヌ「僕がその噂を否定するのは簡単だ。けれどそんなことをすれば僕はゲイやバイセクシャルの人間であると思われたくないということになるだろう?
それはひとつの差別意識の表れだよね。
ゲイだと思うなんて酷い、バイセクシャルの人間だと決めつけるなんて失礼だとそんな風に考えること自体が、実はひどく差別的なんだから。
セクシャリティにかかわらず、僕は僕だよ。
僕の俳優としての評価は、セクシャリティとは無関係だ。
だからその質問に対する答えはたった一つ、『ノーコメント』だよ」
有名なコピペなので、見たことがある人もいるのではないでしょうか。
ただ、出所についてはどうしてもわからず、記事は中途半端な感じで終ってしまいました。
しかし、twitterでフォロワーさんから、掲載誌について教えていただきましたので(ななもさんありがとうございます)、リライトという形で改めて記事にしたいかと思います。
前回の記事のまとめ
前回の記事で検証できたことは以下の通り。
①出回っているコピペの出所は2006年の記事。
②「遠い昔」に雑誌で読んだ、「うろ覚えの記憶による、適当な引用」のため、コメントは不正確。
③恐らく1999年前後の雑誌ではないか。
④日本の記者がこんなつっこんだ質問はしないと思われるため、その記事もなにか外国の記事の引用ではないか。
この条件だけで該当記事を探すのは不可能だろうと思われ、「正確性に欠ける」として記事を終らせましたが、いやいや、書いてみるもんですね。
日本語の出所は1996年
教えていただいたのは、『Cut』誌の1996年3月(No.48)号。お、年代は結構近かったですね。
結構長めのインタビューなんですが、ゲイ疑惑について答えている箇所があります。
キアヌのセクシュアリティを詮索する動きは少なくとも5年前にさかのぼる。「インタビュー」誌の記者が、彼に直接ゲイかどうか訊ねたのだ*1。キアヌはそれを否定し、むしろ感じ良く、笑ってこう続けた。「……ほんとのとこはわかんないけどね」。このうわさの一因は、キアヌが一度も女性とのロマンスを表立って騒がれたことがないという事実のようだ。
「わざとそうすればいいのに」と、わたしは提案した。「うわさを鎮めるためにね」
キアヌはめんくらう。「いや、ぼくが言いたいのは……ゲイであること自体は悪いことでもなんでもないだろ。なのにぼくが否定したら、批判するのと同じじゃないか。だいたい、なんでそんなに騒ぐんだ? ぼくがゲイだからって使おうとしない監督がいたら、たぶんそれは問題だよ。映画館がデモに遭うとかね。でも、それ以外はただのゴシップさ―違うかい?」
『Cut』No.48 P33
細部はかなり違いますが、太字にした部分は似ていますし、大意は今出回っているコピペと同じでしょう。恐らく、これが参照されて、現在のコピペのような形に改変されていったのだと思われます。
ちなみに、この時期ゲイ疑惑について話題に上っているのは、プロデューサーのデビット・ゲフィンと密かに結婚したというゴシップが、イタリア・スペインのタブロイドが伝えて広まったことにあるようです。
元々の記事は1995年
ところが、この『Cut』誌のキアヌへのインタビューは転載で、元々は1995年8月の『Vanity fair』誌のもののようです*2。Michael Shnayersonというジャーナリストが書いたものです。
元誌は読めないかなあと思ったのですが、「whoa is (not) me」というキアヌのインタビューをたくさん掲載しているサイトにありました。
Keanu is taken aback. "Well, I mean, there's nothing wrong with being gay, so to deny it is to make a judgment. And why make a big deal of it? If someone doesn't want to hire me because they think I'm gay, well, then I have to deal with it, I guess. Or if people were picketing a theater. But otherwise, it's just gossip, isn't it?"
訳は載せませんが、Cut誌に載っているものそのものですね。外国の記事まであっていったので、私の検証もまあまあいいセンいってましたね*3。
それにしても、いかがでしょう、現在出回っているコピペと、元の記事。どちらが魅力的に響くかと言えば、やはり前者ではないでしょうか。記憶の思い出というものは、やはり美しく見えるものなんだな、と思います。
今日のまとめ
①キアヌの当該コメントの日本語版は、1996年3月の『Cut』誌のものによると思われる。
②元々は1995年8月の『Vanity fair』誌に掲載されたもので、当時キアヌはゲイ疑惑のゴシップにかなりさらされていた。
キアヌ自体はインタビューが苦手のようで、記事によれば「『スピード』以後となると、まったくと言っていいほど、インタビューに応じなくなってしまっていた」とあり、これほどまとまったインタビューはこの年代ではこれが最後かもしれません。
そう語るほど、このインタビュー記事はなかなかつっこんだ質問もしていて興味深く、キアヌという人の人間性が現れるとてもいいインタビューだと思います。たとえばプライベートで、サイン攻めにあっていることに関して、「どうやったらがまんできるんだ?」と聞かれると、こう答えています。
「ぼくはミッキー(・マウス)なのさ。ぬいぐるみの中にだれがいるかなんてみんな知らないんだ」(中略)「でも君は映画スターだろ」。キアヌは声を立てて笑った。「ミッキーだってそうだよ」
『Cut』No.48 P39
私は何でもモノは使いようだと思うので、ネットの情報というものも、もう少しみんなが慎重になれば有効に活用できるものと考えています。ひとりではたどり着けないことも、何億人という集合知によって、いつか答えを出せるという事は、ある種のユートピアです。世の中そうはうまくいかないんですが、そういう可能性の王国に住んでいることは、もうちょっと信頼できないかな、と思うのですけれども。
【おまけ】
ちなみに私がキアヌ主演で好きな映画は『雲の中で散歩』です。古風で王道の話ではありますが、丁寧に作られていると思います。
*1:
ちなみにその時のインタビューはこれ。1990年9月Interview誌。
DC: And finally, "Are you gay or what?" Come on, make it official.
KR: No. [long pause] But ya never know.
DC:最後に、「あなたはゲイですか?」オフィシャルにしちゃいなよ。
KR:いいや。(長い間)ただ、誰も知らないけどね
Keanu Reeves :: WINM :: Keanu Reeves Articles & Interviews Archive
*2:
ここに掲載するインタビュー記事は、ヴァニティ・フェア誌’95年8月号に掲載されたものだ。
前掲 P28
*3:ただし、慎重な書き方をするならば、いま出回っているコピペがCut誌のものを絶対に参照したものだとは言い切れません。別のインタビュー記事で、似たような答え方をしているものだという可能性もあります。