ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

「日高の遺書」のはじまりを探す、あなたの人生は物語

日高の遺書をご存じでしょうか。全て引用すると長くなるので、遺書についている但し書きのようなものを掲載します。

 

昭和四十五年六月、北海道日高管内某町の国道で、三十八歳の会社員が酒酔い運転で追越しをかけ、対向車と正面衝突し相方も死亡した。

この酒酔い運転の家族は、妻(三十二歳)と五歳及び三歳になる二人のこどもがおり、それまで明るい平和な生活を送っていたが、この事故により一瞬にして幸せな生活が崩れ去り、前途を悲嘆した妻は警察署長宛に遺書を残し、可愛い二人の子供を道連れに自殺した。

自然大好き・島原 日高の遺書 より*1

 

「遺書」には、被害者にお金を払えないため、加害者の妻が子供を道連れに心中をする、という内容が書かれています。


ところが、この遺書、内容があまりに悲惨であるが故にか、その真偽について疑うむきも多いです。Googleでも日高の遺書、といれると「フィクション」というサジェストが出る始末です。

しかし残念ながらネット上でこの遺書の真偽をまともにとりあつかったものはありません*2。ならば今回、私がその嚆矢になろうとしたわけです。

先に言っておくと、「日高の遺書はデマでした/本当でした」とはなりません。結論としては、矛盾点があるものの、創作だとは言い切れない、という感じです。しかしまあ、それなりの推論までは書けたので、ひとつご笑覧いただければ幸いです。

 

【目次】

  • アプローチの方法(新聞編)
  • 当時の日高管内について
  • 該当事故は記事上は存在しない
  • 本当に1970年6月なのか
  • 心中は行われたか
  • アプローチの方法(奥尻編)
  • 桝谷広について
  • 奥尻島の記録を調べる
  • 奥尻の当時の様子から仮説を立てる
    • 日本の当時の様子
    • 北海道の様子
    • 奥尻島の様子
    • 「日高の遺書」事故年創作仮説
  • 今日のまとめ
  • おまけ:これ以上調べてみたい人に

 

*1:

「日高の遺書」には細部が様々異なったものがあるのですが、この引用は一番原本に近いものです

*2:

なくもないのですが、きちんと出典をあたっていません。

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「はたらくくるま」に戦車があるのは不適切か、畑を焼く

パソコンが壊れまして、なかなか更新ができませんでした。大変書きづらいサブ機で記事を書いています。私は資料が集まったら基本的に一気呵成に1日で記事を書きあげるのですが、今回は挫折しそうです。やたら更新日時が空いていると思ったら、パソコンがまだ買えていないんだと思ってください(以上意味のないあいさつ)。

 

さて、本日取り上げるのは、先月話題になった、子ども用の本に戦車が載っててあーだこーだという話。

 

幼児向け乗り物図鑑『はたらくくるま』に戦車などを載せたのは不適切だったと講談社が増刷中止を発表したことに、ネット上で様々な意見が出ている。

自衛隊の車がなぜダメなのかといった疑問も多いが、講談社側は、「武器なので、働く車と同列に並べるのは難しい」と説明している。

幼児向け図鑑に「戦車」は不適切? 講談社「はたらくくるま」増刷中止に疑問の声も : J-CASTニュース

 

まあ、いろいろ喧々諤々してました。

 

ネット上では、基本的に「表現規制だ!」みたいな流れだったのですが、その中で私が気になったのは、講談社の対応やむなしの意見たちです。ざっとまとめると、

 

①戦車などの車両は不適切ではないか

②戦車などの車両の量が多すぎないか

③幼児向け(3歳から6歳)には不適切ではないか

④車に関係ないものが多いのではないか

 

という感じだったかなあと思います。「自衛隊なんて子どもに不適切!」という極論まではあんまし見かけなかったと思います*1

 

私はあまのじゃくなので、①や③については、もしかすると今までの子ども向けの本に掲載されているんじゃない?とか、②については他の図鑑と比べて本当に多いの?とか考えてしまいましたので、「今までの子ども向けの車の図鑑と比べてどうなのか」という視点から、久しぶりに地道に調べてみました。

 

*1:発端と思われる新日本婦人の会の主張も、

この問題を新婦人はいち早くとりあげ、4月には、子育て中の会員らが講談社ビーシー編集部を訪ねて懇談。「29ページ中6ページも自衛隊の戦闘機や潜水艦、ミサイル護衛艦などを特集していてびっくり」「身近なはたらく車ではない」「子どもに与える影響を考えてほしい」とそれぞれの思いを伝え、編集部からは「初めてこうした声を聞いた、検討します」と回答。

https://www.shinfujin.gr.jp/9540/

という感じだったので、自衛隊滅びよという感じではありません。

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【追記】慰安婦が売春婦だったという証拠はどこのものか、ボット生きてんじゃねーよ

【8月4日追記】

資料まわりを整理しました。秦氏の「一億円」の記述の引用、文玉珠の軍事通帳の出典、外地での物価指数などについてです。

 

高須先生のこんなツイートがバズってました。

 

 

何かの通帳のような画像を載せたリンク先を掲載しており、案の定レスポンスは通常営業といった感じです。

 

今回は、「慰安婦はいた/いない」という話ではなく、こちらの話をサカナにして、ソースを確かめるときのネットリテラシーの大切さという記事を書きたいと思います*1

 

  • 記事の日付を確認しよう
  • リンク先のソースを確認しよう
  • くまなくリンク先を見よう
  • 画像を疑おう
  • コピペを疑おう
  • コピペの変質を見極めよう
  • 今日のまとめ

 

 

*1:

こうくどくど書くのは、ここまで書かないといろいろ認定されてしまうからです

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チコちゃんと「この差ってなんですか」の関係を調べてみる、情報ロンダリング・ロンリネス

MAFEX マフェックス No.102 チコちゃん 全高約130mm 塗装済み アクションフィギュア

 

ずいぶん昔のツイートなんですが、当ブログでも扱わせて頂いているチコちゃんの話題。

 

 

NHKの「チコちゃんに叱られる」とTBSの「この差って何ですか?」のネタがたびたびかぶっているという話。でも、本当にそんなにかぶってるんですかね?

 

たぶん、日本国民のほとんどが興味がないと思うんですが、左でも右でも上でも下でも、政治の話題から今日の献立まで、とりあえず気になることは調べたくなる(そして言いたくなる)私の悪いクセですので、ご縁のなさそうな方はそっとブラウザをお閉じください。

 

 

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ニューヨーク・タイムズは日本を「独裁政権」と呼んだのか、気炎を吐いても息さわやか

 

朝日のこんな記事が湧き上がっていました。

 

米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は5日、菅義偉官房長官が記者会見で東京新聞記者の質問に対する回答を拒むなど、そのメディア対応を指摘したうえで、「日本は憲法で報道の自由が記された現代的民主国家だ。それでも日本政府はときに独裁政権*1をほうふつとさせる振る舞いをしている」と批判した。

「日本、独裁政権のよう」ニューヨーク・タイムズが批判 [報道の自由はいま]:朝日新聞デジタル

 

私はこの「独裁政権」という強い書きぶり*2が大変気になったので、元記事を調べてみました。今回はまあ、ご意見求むという感じなので、お手柔らかにお願いできれば幸甚幸甚。

 

*1:

ちなみに初稿では「独裁国家」と訳しており、これはさすがに誤訳だと思ったのか、しれっと現在は「独裁政権」にしています。誤字ぐらいはサイレントでいいけど、更新日時は変えろよな、と思います。

「日本、独裁政権のよう」ニューヨーク・タイムズが批判 [報道の自由はいま]:朝日新聞デジタル(2019年7月6日09:00:17アーカイブ)

*2:

このことを記事にした他の2紙も、「独裁」という訳語を使っています。

質問制限「独裁政権のよう」=日本政府の報道対応批判-米紙:時事ドットコム

NYT「日本、独裁国家のようにメディアを扱う」 | Joongang Ilbo | 中央日報

時間的には時事が最初なので、朝日はそれに引っ張られたかもしれません。

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安倍首相はG20の写真撮影でなぜ誰とも握手しなかったのか、一億総ワイドショー化

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G20が閉幕した頃に記事を書いてみるのですが、こんなツイートがバズっていました。

 

 

 

「外交上手」と噂される安倍首相が、G20初日のフォトセッションで、誰からも握手をされず、無視され続け、かろうじてオランダのルッテ首相が握手を一回だけしてくれた…と、なんともいたたまれない気持ちにさせる動画が字幕付きで掲載されています。

 

人によっては古傷をえぐられるような内容かもしれませんが、なんというか、悪意のある切り取り方だなと思いましたので、短いですが記事にしてみました。

 

 

***

 

アルゼンチン大統領も握手しない

 

こういうのは比較が大事ですので、2019年以前のG20の写真撮影(Photo family)で、議長国の首相や大統領はどの程度握手や接触をしているのかを調べてみました。

 

まず2018年。この年はアルゼンチンのブエノスアイレスで開かれています。議長はMauricio Macri大統領*1です。

 

youtu.be

 

上記のFOX NEWSの6:32あたりからFamily photoが始まります。一番始めからではないのですが、Macri大統領は中央付近にいます。6:51あたりでどこぞやの国の首相に話しかけていますが、そのあとすぐ中央に戻ります。周りではプーチン大統領などが握手を交わしている様子も映っています。

 

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上記動画よりキャプチャ

しかし、Macri大統領の前はみな素通りしていきます。

 

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上記動画よりキャプチャ

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上記動画よりキャプチャ

7:14あたりで習近平主席が隣に立ちますが、会話も握手もする様子はありません。

 

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上記動画よりキャプチャ

他の首脳陣はにこやかにあいさつをしているのに、Macri大統領は立ち尽くすだけです。

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上記動画よりキャプチャ

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上記動画よりキャプチャ

 

そしてなんと、8:22あたりでは、「外交上手」の安倍首相がトランプ大統領と談笑しているではありませんか。

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上記動画よりキャプチャ

以上、動画は途中から始まり、途中アップなどがあるので全体像が見られたわけではありませんが、会話らしいものは1回のみ、握手にいたっては1回もありませんでした。Macri大統領は1回握手をしてもらった安倍首相よりも外交が下手なんですね!

 

みんな握手しない

いや、しかしこれは、2018年・2019年だけがおかしいのかもしれない…ということで、その他の年も調べてみます。

 

2017年。この年はドイツのハンブルクでしたので、メルケル首相が議長です。

www.youtube.com

 

動画を見るとわかりますが、メルケル首相は最初から立っているわけではなく、習近平主席と短く話し、そしてプーチン大統領と話しながら入ってきます(0:45~)。2ポイントゲットです。その後も何人かと会話しているようですが、立ち位置の指示のようにも見えますのでノーカンです。その後、Macri大統領とも会話をしていますが、動画を見る限りその3ポイントで終了です。握手は0です。しかし、暫定1位ですね。

 

2016年。この年は中国ですので、習近平主席が議長役です。

 

youtu.be

 

習近平主席は、メルケル首相と壇上よりももう少し前で何事かを話しています。なかなか長く話していて、他国の首脳陣と話す様子はありません。その後、メルケル首相が離れたあとは、手持ち無沙汰そうに立ち尽くしています。首脳が何人も習近平主席の前を素通りしていきます。ちなみに後ろでは安倍首相が(たぶん)プーチン大統領と握手をしています(13:18あたり)。会話の時間は長かったですが、1人としか話していないので、残念ながら1ポイント。予選敗退です。もちろん誰とも握手なんかしません。

 

2015年。トルコのアンタルヤで開かれました。議長はエルドアン大統領*2です。

 

www.youtube.com

 

これも途中からですが、エルドアン大統領は場所の指示をするだけで、会話には加わりません。そのすぐ横にいるオバマ大統領がめちゃくちゃコミュニケーションとってます。あ、安倍首相がまた握手してますね(0:24)。残念ながらエルドアン大統領、会話らしい会話をしていないので0ポイントです。もちろん握手もゼロです。

 

2014年はオーストラリアのブリスベン。議長はトニー・アボット首相です。

 

www.youtube.com

 

アボット首相は最後の方に入ってきましたので、特に誰とも会話をする様子はありません。というか、この年はあんまり他の首脳陣も会話してませんね。残念ながら0ポイントです。

 

2013年は…そろそろやめてもいいですか。

 

Official Welcomeのあとだから

さて、意地悪く書いてきましたが、なぜ議長国の首脳陣は、入ってくるお偉方とおざなりな対応しかしないのか。ねえねえ、おかむら、どうして?

 

結論を言えば、この「Family Photo」は、「Official Welcome」のあとだから~です。

 

この会場内のFamily Photo*3は、G20初日に行われるのが慣例のようで、実はこの撮影の前に、「Official Welcome」つまり、公式的なはじめてのお出迎えイベントがあるんです。今年の大阪の動画がちゃんと出ています。

 

www.youtube.com

 

こんな感じで赤いカーペットが敷いてあって、

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上記動画よりキャプチャ

そこを各国首脳が一人ずつ歩いてきて、

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上記動画よりキャプチャ

ホストと握手を交わす、という感じです。公式的には、これが最初のお出迎えということになります。記者の撮影タイムでもありますね。

 

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上記動画よりキャプチャ

握手だけではなくて、短い会話が行われる様子もうかがえます。これをすべての国と行い、そしてそのすぐあと、Family Photoの時間となって、首脳陣が壇上に並ぶわけです。

 

もうおわかりかと思いますが、Family Photoで撮影する前に、すでに安倍首相は各国首脳と挨拶を十分交わしているわけです。しかし、他の国の首脳たちはこの撮影の場で初めて言葉を交わす場合もあるので、握手をしたり会話をしたりする、ということになるわけです。これはもちろん今までのG20でも同じですので、議長国の首相や大統領の前をみんなが素通りするのは、あたりまえっちゃあたりまえという話になります。だって、ここでハグとか握手とかまたしだしたら、「え、さっきやったやん…」みたいな空気になりません?

 

 

今日のまとめ

①G20の首脳陣を一同に撮影する初日のFamily Photoの直前には、公式的に出迎えるOfficial Welcomeの時間が用意されており、そこでホスト国の議長は握手や挨拶を交わす。

②そのため、写真撮影の際には握手や挨拶をする必要がないため、撮影部分だけ切り取ると、皆が議長を無視しているように見える。

 

というわけで、くだんの動画の切り取り方は、意図的にしろなんにしろ、少々悪意の感じられるものです。まあ、悪意というよりは、自身の見たいものだけが見えている、というところでしょう。

 

念のために付け加えると、だから私は「安倍外交は最強!」とやりたいわけではなくて、ちゃんと政治家として評価したいなら、こんな些末な内容で下げるのではなく、事実に基づいた内容で議論すべきだと思うわけです。どこの国もそうかもしれませんが、こういう足の引っ張り合いのようなコメントが多いから、政治ってワイドショー的にしか評価されなくなっていくんじゃないんでしょうか。

 

*1:

Mauricio Macri - Wikipedia

*2:

レジェップ・タイイップ・エルドアン - Wikipedia

*3:

屋外(名所)でパートナー同伴で撮影するものもあります。

www.youtube.com

【追記】イラッとしたら誰かをイジメればいいという研究は存在するか、私をほっとかないで

【7月3日追記】

くだんの『イラッとしたときのとっさの対応術』を読んだので該当箇所に追記しました。なかなかひどい本でした。

 

 

みなさんはイラっとしたときはどうしてますか。私はたくさん睡眠をとることにしていますが、こんなツイートがバズってました。

 

 

画像部分を書きだすとこんな感じです。

 

 たとえば、職場でイラッとしたときなど、後輩をちょっぴりイジメるくらいならいのことは、やってもいいのではないかと思われる。

 米国カンザス大学のスコット・エイデルマン博士は、同一集団内にイジメる人を作るのはグループのためであると述べている。

 みんなでよってたかって、ひとりをイジメるのは、「グループの一体感を高める」効果があるのだそうだ。また、「個人の精神を満足させる」効果もあるという。

 ようするに組織内がビシッとまとまって、しかも個人はスッキリするという一石二鳥の効果があるのである。これを”ブラック・シープ効果”(「黒い色の羊はイジメられやすい」の意)と呼ぶ。

『イラッとしたときのとっさの対応術』P39-40

 

後半は画像が切れているので読み取れないのですが、「これを”ブラック・シープ効果”という」ぐらいでしょうか。

上記追記しました。

 

あまりにもドイヒーな内容で、反応のほとんどが否定的な論調であるのですが、私は、そもそもそんな研究があるのか、というところに疑問を覚えましたので、調べてみました。

 

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